征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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MO作戦

第53話 新鋭巡洋艦

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 第二次攻撃隊は「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ三個中隊、合わせて五二機の九九艦爆を主力にしていた。
 本来であれば、六個中隊なら五四機がその定数となるのだが、しかしこのうちの二機については発動機の調子が思わしくなく、そのことで出撃を取りやめていた。

 そして、それらを「翔鶴」第五中隊と同じく「瑞鶴」第五中隊、それに「瑞鳳」第一中隊の合わせて二〇機の零戦が守っている。
 こちらもまた、従来の定数は二七機なのだが、しかし午前中の迎撃戦で未帰還となったり、あるいは再出撃が出来ないほどの深手を負ったりした機体が出たことでその数を減じている。

 その第二次攻撃隊は十数機から成るF4Fの迎撃を受けた。
 これらF4Fは第一次攻撃隊との激闘を生き延び、母艦に戻って燃料と銃弾の補給を受けた機体だった。
 そこに中堅や若年の姿は無く、そのいずれもが経験豊富なベテランだった。

 これに対し、「翔鶴」第五中隊と同じく「瑞鶴」第五中隊の合わせて一三機の零戦が九九艦爆に近づけさせまいと阻止に向かう。
 しかし、わずかにF4Fのほうが多かったこともあり、これらのうちの三機が零戦の防衛網を突破して本隊に向かってきた。

 ここで、最終防衛線の役割を担う「瑞鳳」第一中隊が行動を起こす。
 同中隊のうち、第二小隊と第三小隊の四機がF4Fの前に立ちはだかる。
 このことで、九九艦爆の護衛は「瑞鳳」第一小隊のみとなってしまったが、しかし幸いなことにこれ以上の迎撃機の出現は無かった。

 戦闘機同士の戦いを後に進撃を続けた第二次攻撃隊の本隊は、ほどなく眼下に三群からなる艦隊を発見する。
 そのいずれもが空母を中心に輪形陣を形成した、まごうことなき機動部隊だった。

 第二次攻撃隊指揮官兼「翔鶴」艦爆隊長の高橋少佐は三群有る敵機動部隊の戦力構成を確認する。
 そのいずれもが空母の周りを二隻の巡洋艦とそれに四隻の駆逐艦で固めていた。
 マーシャル沖海戦のときには三隻の巡洋艦とそれに六隻の駆逐艦だったから、当時に比べて護衛戦力の規模は三分の二に減勢されたことになる。

 (さすがに、マーシャル沖海戦で五〇隻近い巡洋艦と駆逐艦を失ったのは大きかったようだな。さしもの米軍も、短期間のうちにこれら戦力を回復させることは困難だったということか)

 高橋少佐の推測は正しかった。
 マーシャル沖海戦で当時の太平洋艦隊は八隻の戦艦と三隻の空母以外に九隻の重巡と四隻の「ブルックリン」級軽巡、それに三四隻の駆逐艦を撃沈されるかあるいは鹵獲されてしまった。
 その時に受けた傷はあまりにも深く、同海戦から四カ月余りを経た今でも米海軍の悩みのタネとなっている。

 「攻撃は予定通りだ。『翔鶴』二中隊と三中隊は右、『瑞鶴』二中隊それに三中隊は左にある機動部隊を叩け。中央は『瑞鶴』一中隊ならびに『翔鶴』一中隊がこれを受け持つ。攻撃法については各隊最先任者の指示に従え」

 右翼の機動部隊は「翔鶴」二中隊長に、左翼については「瑞鶴」二中隊長に指揮を丸投げし、高橋少佐は直率する「翔鶴」一中隊とそれに「瑞鶴」一中隊に指示を重ねる。

 「『翔鶴』一中隊は輪形陣右の巡洋艦、『瑞鶴』一中隊は左の同じく巡洋艦を叩け」

 第二次攻撃隊の九九艦爆の役目は、第三次攻撃隊の九七艦攻の突撃路を啓開すること。
 つまりは、輪形陣の破壊だ。

 高橋少佐は、本音を言えば六隻の護衛艦艇のすべてを撃破したいと思っていた。
 それも、都合が良いことに高橋少佐の手元には六個小隊の戦力がある。
 一個小隊で攻撃にあたれば、確率的に一発は命中を期待できる。
 そして、九九艦爆が投じる二五番であれば、装甲が薄いかあるいは皆無の巡洋艦や駆逐艦ならば確実に戦力を減殺できるし、当たりどころによっては撃沈も期待できる。

 しかし、高橋少佐はその誘惑を断ち切る。
 米海軍の艦艇は日本や英国のそれに比べて対空能力が非常に高い。
 特に駆逐艦はその差が顕著で、日英のそれが平射砲を装備しているのに対し、米国のほうは両用砲を採用していた。
 そのうえ、射撃指揮装置も日本のものと比べて明らかに優れている。
 このような相手に対し、少数機で攻撃を仕掛けても、被害ばかり大きくて戦果が僅少になることは目に見えていた。

 だからこそ、中隊ごとに輪形陣の左右後方に陣取る巡洋艦を叩くと決めた。
 巡洋艦を狙うのは、それが駆逐艦に比べて対空火力が大きいからだ。
 米駆逐艦もまた対空性能に優れてはいるが、それでも巡洋艦には及ばない。
 それに、六隻のうちの二隻を撃破すれば、輪形陣は維持できない。
 そうであれば、第三次攻撃隊の九七艦攻の花道をつくることが十分に可能だ。

 高橋少佐は目標とした巡洋艦を叩くべく、「翔鶴」第一中隊を輪形陣右後方へと誘う。
 その巡洋艦はこれまでに相手にしてきた重巡やあるいは「ブルックリン」級軽巡と比べて明らかに小ぶりだった。
 そうであれば高角砲や機関砲、それに機銃もさほど多くは装備していないはずだ。

 そう考えていた高橋少佐の予想は、しかし大きくはずれることになった。
 「翔鶴」第一中隊が輪形陣に迫るやいなや、その巡洋艦は艦全体から火弾を吐き出してきた。
 数瞬後、「翔鶴」第一中隊の周囲に尋常ではない数の黒雲がわき立つ。

 「!!」

 言葉にならないうめき声を上げた高橋少佐は、少しでも早く敵艦を攻撃すべく、降下ポジションへと急ぐ。
 ただ、米艦がいくら高性能の射撃照準装置を持つとは言っても、さすがに上空に吹きすさぶ風の向きや速さまでを諸元に盛り込むことはできなかったのだろう。
 高角砲弾が流されたことによって炸裂位置が微妙にズレている。
 そのこともあって、今のところ致命の打撃を被った機体は無い。

 しかし、戦場ではそのような幸運は長続きはしない。
 すばやく射撃諸元を修正したのだろう。
 高角砲弾の炸裂位置が「翔鶴」第一中隊にどんどん近づき、やがてそれらの危害半径に捉えられる機体が出始める。

 「二小隊三番機被弾!」

 急降下に入るのと同時。
 後席の小泉中尉から怒声のような報告が上がる。
 高橋少佐はそれには答えず、射爆照準器に映る巡洋艦にその神経を集中させる。

 高度が六〇〇メートルになった時点で高橋少佐は裂帛の気合とともに二五番を投じる。
 第一小隊の二番機、それに三番機も続く。

 爆弾を投下したら後は逃げの一手だ。
 引き起こしをかけ、そのまま超低空を飛翔する。
 曳光弾が追いかけてくるが、しかし高橋少佐としては何も出来ることは無い。
 ただ、命中しないように祈るだけだ。
 その彼の耳に、喜色を含んだ小泉中尉の声が飛び込んできた。

 「目標とした巡洋艦に命中! さらに一発!」

 どうやら、自分たちは二発の命中弾を得たようだった。
 高橋少佐としては、正直言ってこの成績には不満が残る。
 しかし、損害を軽減させるために投弾する高度を上げ、さらに小隊ごとにそれを実施していては、さすがに命中率の低下はこれを免れない。

 いずれにせよ、小ぶりなサイズの巡洋艦が二五番を、しかも二発も食らえば戦闘力の低下は免れないはずだ。
 「翔鶴」第一中隊はとりあえずの目的については、これを達成したと考えてよかった。

 そして、最後の仕事である無事の帰投を達成するため、高橋少佐は部下たちに集合をかける。
 その集まってきた部下たちの機体を見て、高橋少佐は息を呑む。
 どの九九艦爆も生々しい被弾痕を残している。
 中には、飛んでいることが不思議なくらいのダメージを負っているものさえあった。

 だが、高橋少佐が最も衝撃を受けたのは、八機あったはずの部下の機体が五機にまで減っていたことだ。
 急降下の途中か、あるいは離脱時にやられたのかは判然としないが、それでも「翔鶴」第一中隊はただの一度の攻撃で三分の一の戦力を失ったのだ。

 (自分たちが相手取ったのは、おそらくは対空戦闘に特化した新型巡洋艦だ)

 その確信を抱きつつ、高橋少佐は帰路に着く。
 敵の最新鋭巡洋艦を撃破したのだという高揚感は、最後までわき上がることは無かった。
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