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豪本土攻撃
第61話 建艦状況
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米海軍の新型空母をはじめとした戦備について、一通りの説明を終えた生沢長官は、読んだら燃やせと言って志津頼航空甲参謀に一枚の紙片を渡す。
そこには豪州遠征に参加するうちで、戦闘部隊に所属する艨艟の名が記されていた。
もちろん、このことは軍機であり、関連書類の持ち出しなどといったことは出来ない。
これは、生沢長官が目で見たものを記憶し、それを後で書き記したものだ。
後の世で言うところのeidetic memoryと呼ばれるものに近い能力だが、しかし生沢長官はこのことについて特に意識したことはなかった。
ただ、生沢長官がいかに並外れた記憶力を持つとはいえ、やはり限界はあったようで、さすがに支援部隊については、こちらはうろ覚えに近い状態だった。
第一航空艦隊
空母「蒼龍」「飛龍」「瑞鳳」「祥鳳」
重巡「熊野」「鈴谷」
軽巡「神通」
駆逐艦「萩風」「舞風」「野分」「嵐」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」
第二航空艦隊
空母「翔鶴」「瑞鶴」「雲鶴」「神鶴」
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「那珂」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」
第三航空艦隊
空母「隼鷹」「飛鷹」「龍驤」「龍鳳」
重巡「最上」「三隈」
軽巡「川内」
駆逐艦「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」
第一艦隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
軽巡「鬼怒」
駆逐艦「白露」「時雨」「有明」「夕暮」「初春」「子日」「若葉」「初霜」
黙ったまま目を通している志津頼航空甲参謀に、生沢長官がこれら編成についての所感を尋ねる。
「航空艦隊に新しい巡洋艦や駆逐艦が優先配備されているのは確かにありがたいのですが、欲を言えばもう少し駆逐艦の数が欲しいですね。空母が一二隻もある一方で、しかし駆逐艦が二四隻というのは、あまりにもバランスに欠けています。米軍の空母が多数の巡洋艦や駆逐艦で周囲を守られているのと比較すれば、やはりどうしても見劣りしてしまいます」
空母にとっての天敵は飛行機だが、それと同じくらいに脅威なのが潜水艦の存在だ。
その潜水艦が放つ魚雷の威力は絶大だ。
雷撃機が運用する航空魚雷は大きくてもせいぜい一トンまでだが、しかし潜水艦の魚雷は一トン半を超えるものがほとんどだ。
もちろん、その分だけ破壊力も大きい。
船幅が広くて被雷に強いとされる「翔鶴」型でも、しかし潜水艦が放つ魚雷を一度に複数食らえばさすがに沈没の危険が生じてしまう。
志津頼航空甲参謀もそのことを痛いほどに理解しているから、やはり最初はそこに目がいってしまう。
「駆逐艦の不足は如何ともしがたいな。なにせ、艦隊が新編されるたびにそれなりの数の駆逐艦が必要になる。それに、今は商船の用心棒として引っ張りだこだ。どうやり繰りしても戦闘部隊に回せる数は限られてくる」
連合艦隊は空母の数が増えたことで第三航空艦隊を、さらにラバウルやポートモレスビーをはじめとした、南方戦域の拡大とその守りに対応するために第八艦隊を新編した。
また、戦線の広がりに伴って守るべき海上交通線が延伸するばかりだから、商船の護衛にあたる駆逐艦はいくらあっても足りない。
それもあって、生沢長官は短期間に建造できる海防艦と、それに戦時急造タイプの駆逐艦の整備を急ぐよう海軍上層部に訴えている。
「駆逐艦は戦艦や空母のお守りをするよりも、商船を守ることを優先すべきですから、それを考えれば文句は言いにくいですよね」
どちらかと言えば、艦隊決戦よりも海上護衛戦を重視するという、帝国海軍でも極めて珍しい思考を持つ志津頼航空甲参謀。
生沢長官はそんな彼の態度を好ましいと思うと同時に、少し心配になる。
下手をすれば、頭の悪い上司の不興を買いかねない。
そんな生沢長官の思いを知ってか知らずか、志津頼航空甲参謀は無邪気な質問を口にする。
「マル四計画で整備されるはずの乙型駆逐艦ですが、まだ完成しないんですかね。今の駆逐艦がすべて乙型駆逐艦に置き換われば、艦隊の防空能力も格段に向上するはずなんですがね」
帝国海軍の駆逐艦は、型式の新しいものも含め、そのすべてが主砲に平射砲を採用していた。
そのことで、対空能力に関しては両用砲を装備している米駆逐艦の足元にも及ばない。
そのうえ、機銃の装備数も少ないから、空からの襲撃者から空母を守るにはあまりにも力不足だった。
一方、乙型駆逐艦のほうは主砲に新型の高角砲を採用しているから、その対空能力は従来の駆逐艦とは一線を画すものがあった。
ただ良い面ばかりでもない。
重量物の対空射撃指揮装置や四基にもおよぶ連装高角砲を装備する代償として、魚雷発射管が従来のものに比べて半分になってしまった。
それでも、空母を護衛するにあたっては、雷撃力よりも対空性能に秀でたものこそありがたい。
「一番艦が間もなく完成すると聞いているが、しかしあまりあてにはするな。計画数はともかく、実際に建造が進んでいるのはごくわずかだ。今年中に完成にこぎつけることが出来るのは、せいぜい一個駆逐隊が編成できる程度の数にしか過ぎん」
帝国海軍の駆逐隊は、原則として四隻の駆逐艦で編成される。
つまり、生沢長官は年内に完成が見込める乙型駆逐艦については、これが四隻までだと言っているのだ。
そして、駆逐艦もまた慣熟訓練に相応の期間を必要とするから、そうであれば年内に戦力化がかなうのはその半数程度といったところだろう。
「帝国海軍の戦力の上積みに関しては期待薄ですね。米国とはえらい違いだ」
あからさまにがっかりとした様子の志津頼航空甲参謀。
それを見た生沢長官は、ここはひとつ上司の務めとして現実というものを教えてやらねばならぬと考えた。
そこで、さらに自身が知っている情報を教示する。
「米国と比べれば、どこの国であろうと見劣りしてしまうのは仕方が無いことだろう。それと、だ。乙型駆逐艦のついでに教えてやるが、艦隊戦に使える空母は先日竣工した『飛鷹』と『龍鳳』で年内分はこれが打ち止めとなる。
さらに、戦艦がゼロなのは当然として、巡洋艦のほうも軽巡がわずかに一隻のみだ。駆逐艦と潜水艦は何隻かが戦列に加わるはずだが、しかしその数はさほど多くはない」
予想の斜め下をいく帝国海軍の建艦状況に、志津頼航空甲参謀は唖然とする。
米海軍の急激とも言える建艦ペースを考えれば、帝国海軍の戦力増強はそれこそ雀の涙のようなものだ。
ただ、これは昭和一七年に限った話かもしれない。
だから、志津頼航空甲参謀は鬼が笑うのを承知のうえで来年のことを尋ねる。
「来年だと、艦隊戦で使える空母で言えば『千歳』と『千代田』それに『瑞穂』と『日進』の改造が完了するはずだ。あとは軽巡が三杯といったところだな。駆逐艦と潜水艦についてもそれほど多くはないだろう」
生沢長官が語った昭和一八年もまた、絶望的な数字だった。
空母については「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」と「日進」が戦列に加わるという。
しかし、これらはそのいずれもが水上機母艦を改造したものだ。
一万トンをわずかに超える排水量を考えれば、これら四隻が搭載できる艦上機はせいぜいが三〇機程度といったところだろう。
つまり、四隻でようやく「翔鶴」型一隻と同等の戦力だということだ。
一年をかけて、しかしその上積みが「翔鶴」型一隻分というのは、あまりにもひどい。
「お先真っ暗ですね」
がっかりを通り越し、意気消沈してしまった志津頼航空甲参謀が暗い声を上げる。
「我が国の造船界の現実をみれば、そのようなことは最初から分かりきっていたはずだ」
何を今さらとばかりに生沢長官が苦笑を返す。
同時に、その口から希望の言葉が紡ぎ出される。
「まあ、大丈夫だ。昭和一九年にはマル四計画で建造が開始された例の四隻が完成する。もし、それまでに『翔鶴』型空母を失わずに済めば、たとえその時点で太平洋艦隊がいかに強大な戦力を擁していようとも、我々は十分にこれに立ち向かうことができる」
そこには豪州遠征に参加するうちで、戦闘部隊に所属する艨艟の名が記されていた。
もちろん、このことは軍機であり、関連書類の持ち出しなどといったことは出来ない。
これは、生沢長官が目で見たものを記憶し、それを後で書き記したものだ。
後の世で言うところのeidetic memoryと呼ばれるものに近い能力だが、しかし生沢長官はこのことについて特に意識したことはなかった。
ただ、生沢長官がいかに並外れた記憶力を持つとはいえ、やはり限界はあったようで、さすがに支援部隊については、こちらはうろ覚えに近い状態だった。
第一航空艦隊
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重巡「熊野」「鈴谷」
軽巡「神通」
駆逐艦「萩風」「舞風」「野分」「嵐」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」
第二航空艦隊
空母「翔鶴」「瑞鶴」「雲鶴」「神鶴」
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「那珂」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」
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重巡「最上」「三隈」
軽巡「川内」
駆逐艦「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」
第一艦隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
軽巡「鬼怒」
駆逐艦「白露」「時雨」「有明」「夕暮」「初春」「子日」「若葉」「初霜」
黙ったまま目を通している志津頼航空甲参謀に、生沢長官がこれら編成についての所感を尋ねる。
「航空艦隊に新しい巡洋艦や駆逐艦が優先配備されているのは確かにありがたいのですが、欲を言えばもう少し駆逐艦の数が欲しいですね。空母が一二隻もある一方で、しかし駆逐艦が二四隻というのは、あまりにもバランスに欠けています。米軍の空母が多数の巡洋艦や駆逐艦で周囲を守られているのと比較すれば、やはりどうしても見劣りしてしまいます」
空母にとっての天敵は飛行機だが、それと同じくらいに脅威なのが潜水艦の存在だ。
その潜水艦が放つ魚雷の威力は絶大だ。
雷撃機が運用する航空魚雷は大きくてもせいぜい一トンまでだが、しかし潜水艦の魚雷は一トン半を超えるものがほとんどだ。
もちろん、その分だけ破壊力も大きい。
船幅が広くて被雷に強いとされる「翔鶴」型でも、しかし潜水艦が放つ魚雷を一度に複数食らえばさすがに沈没の危険が生じてしまう。
志津頼航空甲参謀もそのことを痛いほどに理解しているから、やはり最初はそこに目がいってしまう。
「駆逐艦の不足は如何ともしがたいな。なにせ、艦隊が新編されるたびにそれなりの数の駆逐艦が必要になる。それに、今は商船の用心棒として引っ張りだこだ。どうやり繰りしても戦闘部隊に回せる数は限られてくる」
連合艦隊は空母の数が増えたことで第三航空艦隊を、さらにラバウルやポートモレスビーをはじめとした、南方戦域の拡大とその守りに対応するために第八艦隊を新編した。
また、戦線の広がりに伴って守るべき海上交通線が延伸するばかりだから、商船の護衛にあたる駆逐艦はいくらあっても足りない。
それもあって、生沢長官は短期間に建造できる海防艦と、それに戦時急造タイプの駆逐艦の整備を急ぐよう海軍上層部に訴えている。
「駆逐艦は戦艦や空母のお守りをするよりも、商船を守ることを優先すべきですから、それを考えれば文句は言いにくいですよね」
どちらかと言えば、艦隊決戦よりも海上護衛戦を重視するという、帝国海軍でも極めて珍しい思考を持つ志津頼航空甲参謀。
生沢長官はそんな彼の態度を好ましいと思うと同時に、少し心配になる。
下手をすれば、頭の悪い上司の不興を買いかねない。
そんな生沢長官の思いを知ってか知らずか、志津頼航空甲参謀は無邪気な質問を口にする。
「マル四計画で整備されるはずの乙型駆逐艦ですが、まだ完成しないんですかね。今の駆逐艦がすべて乙型駆逐艦に置き換われば、艦隊の防空能力も格段に向上するはずなんですがね」
帝国海軍の駆逐艦は、型式の新しいものも含め、そのすべてが主砲に平射砲を採用していた。
そのことで、対空能力に関しては両用砲を装備している米駆逐艦の足元にも及ばない。
そのうえ、機銃の装備数も少ないから、空からの襲撃者から空母を守るにはあまりにも力不足だった。
一方、乙型駆逐艦のほうは主砲に新型の高角砲を採用しているから、その対空能力は従来の駆逐艦とは一線を画すものがあった。
ただ良い面ばかりでもない。
重量物の対空射撃指揮装置や四基にもおよぶ連装高角砲を装備する代償として、魚雷発射管が従来のものに比べて半分になってしまった。
それでも、空母を護衛するにあたっては、雷撃力よりも対空性能に秀でたものこそありがたい。
「一番艦が間もなく完成すると聞いているが、しかしあまりあてにはするな。計画数はともかく、実際に建造が進んでいるのはごくわずかだ。今年中に完成にこぎつけることが出来るのは、せいぜい一個駆逐隊が編成できる程度の数にしか過ぎん」
帝国海軍の駆逐隊は、原則として四隻の駆逐艦で編成される。
つまり、生沢長官は年内に完成が見込める乙型駆逐艦については、これが四隻までだと言っているのだ。
そして、駆逐艦もまた慣熟訓練に相応の期間を必要とするから、そうであれば年内に戦力化がかなうのはその半数程度といったところだろう。
「帝国海軍の戦力の上積みに関しては期待薄ですね。米国とはえらい違いだ」
あからさまにがっかりとした様子の志津頼航空甲参謀。
それを見た生沢長官は、ここはひとつ上司の務めとして現実というものを教えてやらねばならぬと考えた。
そこで、さらに自身が知っている情報を教示する。
「米国と比べれば、どこの国であろうと見劣りしてしまうのは仕方が無いことだろう。それと、だ。乙型駆逐艦のついでに教えてやるが、艦隊戦に使える空母は先日竣工した『飛鷹』と『龍鳳』で年内分はこれが打ち止めとなる。
さらに、戦艦がゼロなのは当然として、巡洋艦のほうも軽巡がわずかに一隻のみだ。駆逐艦と潜水艦は何隻かが戦列に加わるはずだが、しかしその数はさほど多くはない」
予想の斜め下をいく帝国海軍の建艦状況に、志津頼航空甲参謀は唖然とする。
米海軍の急激とも言える建艦ペースを考えれば、帝国海軍の戦力増強はそれこそ雀の涙のようなものだ。
ただ、これは昭和一七年に限った話かもしれない。
だから、志津頼航空甲参謀は鬼が笑うのを承知のうえで来年のことを尋ねる。
「来年だと、艦隊戦で使える空母で言えば『千歳』と『千代田』それに『瑞穂』と『日進』の改造が完了するはずだ。あとは軽巡が三杯といったところだな。駆逐艦と潜水艦についてもそれほど多くはないだろう」
生沢長官が語った昭和一八年もまた、絶望的な数字だった。
空母については「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」と「日進」が戦列に加わるという。
しかし、これらはそのいずれもが水上機母艦を改造したものだ。
一万トンをわずかに超える排水量を考えれば、これら四隻が搭載できる艦上機はせいぜいが三〇機程度といったところだろう。
つまり、四隻でようやく「翔鶴」型一隻と同等の戦力だということだ。
一年をかけて、しかしその上積みが「翔鶴」型一隻分というのは、あまりにもひどい。
「お先真っ暗ですね」
がっかりを通り越し、意気消沈してしまった志津頼航空甲参謀が暗い声を上げる。
「我が国の造船界の現実をみれば、そのようなことは最初から分かりきっていたはずだ」
何を今さらとばかりに生沢長官が苦笑を返す。
同時に、その口から希望の言葉が紡ぎ出される。
「まあ、大丈夫だ。昭和一九年にはマル四計画で建造が開始された例の四隻が完成する。もし、それまでに『翔鶴』型空母を失わずに済めば、たとえその時点で太平洋艦隊がいかに強大な戦力を擁していようとも、我々は十分にこれに立ち向かうことができる」
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