征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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豪本土攻撃

第63話 ブリスベン攻撃開始

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 昭和一七年八月二五日。
 BB作戦に参加する部隊のうちで、戦闘任務を負った三個機動部隊とそれに一個水上打撃部隊からなる連合艦隊は、ブリスベンの東二〇〇浬の海域に到達していた。
 補給物資を運ぶ輸送船団のほうは、護衛の艦艇とともに後方に控置してある。

 ここに来るまでに、連合艦隊はソロモンやニューカレドニアといった連合国陣営の拠点を次々に撃破していった。
 これら一連の戦いは、牛刀をもって鶏を割くといった表現がピッタリとくるような一方的なものとなった。
 もちろん、連合艦隊側もまったくの無傷とはいかなかった。
 ごくわずかではあるが、未帰還機を出している。
 しかし、こちらは輸送船団の護衛にあたっている「大鷹」それに「雲鷹」から喪失分を埋めるための機材を提供してもらった。
 そのことで、連合艦隊の空母のほうは、そのいずれもが現在でも定数を維持していた。

 これだけ暴れ回ってもなお、連合艦隊の正確な位置が暴露されることはなかった。
 同艦隊の主要艦艇に装備された電探が索敵機と思われる敵影を捉えると同時、生沢長官は過剰とも言える数の零戦を迎撃に送り出していたからだ。
 その零戦の群れは、味方の艦隊が発見される前に狙った敵機を取り囲み、文字通り袋叩きにしていった。
 これについては、マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦における航空管制の経験が非常に役に立っていた。

 ブリスベン攻撃の先鋒を受け持つのは歴戦の第二航空艦隊だった。
 まず、「翔鶴」と「瑞鶴」それに「雲鶴」と「神鶴」からそれぞれ一機の一三試艦爆が発艦する。
 これら四機は第一次攻撃隊の前路警戒任務にあたり、異変があれば速やかにその情報を味方に送ることになっていた。

 続いて、第一次攻撃隊の本隊が出撃する。
 四隻の空母からそれぞれ四個中隊、合わせて一四四機の零戦が飛行甲板を蹴って珊瑚海の大空へと舞い上がっていく。
 さらに、各空母からそれぞれ一機の一三試艦爆が零戦に続いて発進する。
 こちらは空戦指揮ならびに航法支援として零戦に同道する。

 第一次攻撃隊の機体がすべて発艦を終えた後、第二次攻撃隊に参加する零戦や九九艦爆、それに九七艦攻がエレベーターを使って飛行甲板に上げられてくる。
 第二次攻撃隊は各空母ともに零戦と九九艦爆、それに九七艦攻がそれぞれ二個中隊の合わせて二一六機からなる。
 こちらは、ブリスベン近郊にある飛行場の破壊を主な任務としている。

 二航艦がブリスベンの航空戦力を叩いている間、第一航空艦隊と第三航空艦隊のほうは索敵を実施、敵艦隊の捜索にあたる。
 もちろん、敵艦隊が見つかった場合は、ただちに攻撃隊を出撃させることにしている。

 「始まりましたね」

 すべての攻撃隊が発艦を終え、今この時だけ手持ち無沙汰となった志津頼航空甲参謀が生沢長官に話しかける。

 「そうだな」

 短く言葉を返す生沢長官に、志津頼航空甲参謀が気になっていることを尋ねる。

 「太平洋艦隊は出張ってくるでしょうか」

 少し以前、もしブリスベンに太平洋艦隊が現れるとしたら、それは新型戦艦を基幹とする水上打撃部隊になると生沢長官は語っていた。
 志津頼航空甲参謀はそのことがずっと気になっていた。

 「前に話した時は五分五分だと思っていた。しかし、今は来ない可能性のほうが大きいと考えている。もし敵艦隊が存在していれば、当然のこととしてブリスベンにある戦闘機はそれらに傘をさしかけねばならん。
 しかし、飛行場と艦隊を同時に守れるほどの戦闘機は、おそらくブリスベンには配備されていない。彼らとしては戦闘機戦力の分散を強いられるくらいなら、いっそ艦隊抜きで戦うほうが好都合だと考えるだろう」

 現在、帝国海軍はブリスベン攻撃の側面支援として、ポートモレスビーにある基地航空隊が豪本土北部に連日の空爆を実施し、圧力をかけている最中だ。
 当然、豪空軍としてもこれらに対処する必要があるから、その分だけブリスベンに回せる戦闘機の数も少なくなる。

 「まあ、『レンジャー』に積めるだけの戦闘機を詰め込んで、それをもって艦隊の傘にするという手もあるが、しかし、さすがに唯一の空母にそんな無茶な真似はさせられんだろう」

 生沢長官は笑いながらそう話す。
 自身でもアホなことを言っているという自覚があるのだろう。

 「まあ、『レンジャー』はともかくとして、二航艦が敵基地の攻撃に専念できるというのはありがたいですね。MO作戦の時のように、敵の航空基地と敵艦隊の両方を相手取らねばならなかったことを思えば、遥かに気が楽です」

 空母の飛行甲板は索敵や防空、それに敵艦攻撃など、それぞれ別の目的をもった艦上機の発進と収容の作業に使用されるが、当然のこととしてそれらのタイミングがかぶらないようにスケジュールを調整しなければならない。
 それを怠れば、燃料切れで不時着水を余儀なくされる機体が出てしまいかねない。
 航空参謀としては非常に気を遣う作業だ。
 まして、目標が一本化されておらず、それが複数あればなおのことだ。
 だが、今回は一航艦と三航艦が索敵ならびに敵艦攻撃を受け持ってくれている。
 これだけでも、志津頼航空甲参謀にとっては涙が出るくらいにうれしいことだった。

 「同感だな。一つの目標に集中できることはなによりもありがたい。それに、一航艦と三航艦の長官はともに情報の重要性をよく知っている。間違っても索敵機をケチるような真似は絶対にやらない。だから、敵艦隊への対処は彼らに任せてまったく問題は無い」

 一航艦の司令長官には南雲中将に代わって小沢治三郎中将がその任にあたっていた。
 また、新設された三航艦のほうは山口多聞少将が新たに司令長官に就任している。
 ただ、本来であれば、司令長官というポジションは中将がこれを担うことになっている。
 しかし、今は戦時という非常事態であること、さらに山口少将自身があと二カ月あまり先の一一月一日付で中将に昇任することが内定しているのもあって、異例の人事となった。

 そして、これら三個航空艦隊を含む全体指揮については、第一艦隊司令長官の高須四郎中将がこれを執ることになっている。
 その高須長官は航空戦に関しては生沢長官にこれを一任していた。
 高須長官と生沢長官はマーシャル沖海戦でともに肩を並べて戦ったこともあり、気心も知れていた。
 それと、二航艦の生沢長官と一航艦の小沢長官は海兵同期だが、しかし生沢長官のほうが先任順が上なので、指揮命令系統の面からみても特に問題は無かった。

 「間もなくだな」

 第一次攻撃隊が出撃してから一時間余り経った頃、生沢長官が短くつぶやく。
 零戦の巡航速度であれば、ブリスベンの市街地上空に到着するまでにはいま少し時間がかかる。
 しかし、敵の戦闘機隊がそれを許さないだろう。

 つぶやきから数瞬後、通信参謀が電文用紙を手に艦橋に駆け込んでくる。
 同時に、その場にいた全員が理解した。
 ついに始まったのだと。
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