征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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欧州遠征

第67話 第三段作戦

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 BB作戦に参加した各部隊が本土へ帰還した時には、九月も残りわずかとなっていた。
 そして、同作戦における残務処理が終わった頃、生沢長官は連合艦隊司令長官の山本大将から呼び出しを受け、同司令部に出頭していた。

 「長期作戦から戻られてさほど間がないこの時期に、わざわざお呼び立てして申し訳ない」

 山本長官がソファを勧めつつ、社交辞令代わりの謝罪の言葉を紡ぐ。

 「いえ、国家の非常時ですからそこは構いません。それよりも、早速ですがご用件をお伺いしても」

 平時でさえ激務なはずの連合艦隊司令長官に暇な時間は無い。
 そのことを生沢長官が知らないはずもないから、これは自分に対する配慮だろう。
 そう解釈した山本長官は、本題を切り出す前に現状認識をすり合わせるための質問を投げかける。

 「BB作戦が実施されていた先月から今月にかけて、欧州で大きな動きがあったことはご存知ですな」

 山本長官の問いかけに、生沢長官は小さく頷く。
 連合艦隊のインド洋派遣の見返りに実施されたスエズ打通は、ようやくのことでこれが結実した。
 これについては、ヒトラー総統が地中海戦線とそれに北アフリカ戦線に、それこそ過剰ではないかと思えるほどの戦力を奮発してくれたことが成功の大きな要因だったという。
 このことで、東部方面に攻勢をかけるための戦力が減少したが、しかしそれ以上にソ連軍が弱体化していたことで事なきを得ている。

 そのソ連軍が弱体化したのは、帝国海軍がインド洋の制海権を英国から奪取したことが主な要因だ。
 英国がインド洋の制海権を失ったことで、ソ連は一大補給路であるペルシャ回廊が使えなくなってしまった。
 そのことで、これまで同回廊を経由してソ連に送り込まれていた米国からの支援物資は、これが完全に停止してしまった。
 特に航空機や自動車といった戦争機械の途絶は、ソ連軍にとって大きな打撃となった。

 さらに悪いことに、これまでインドから膨大な戦争資源を獲得していた英国もまた、英印航路が断ち切られたことで物資の不足にあえぐことになった。
 そのことで、英国は北海経由の援ソ船団を無期限で棚上げとした。

 一方のソ連軍にとっては、それこそまさに踏んだり蹴ったりといった有り様で、同軍の困窮はさらに加速した。
 逆に、ドイツ軍のほうはソ連軍の窮状を突くようにして快進撃を続け、すでにスターリングラードを陥落させていた。

 他にも地中海戦線においてイタリア海軍が珍しく奮闘し、マルタ島を陥とすきっかけをつくったとか、あるいはアレクサンドリアから本国へと脱出を図る地中海艦隊を付け狙っていたU73が英空母「イーグル」を撃沈するなどといった話もあるが、しかしこちらは全体から見れば枝葉末節の類だろう。

 「実は、アフリカ東岸に逼塞していた東洋艦隊ですが、こちらは南下の動きを見せています。スエズを失ったことで地中海からの補給が不可能になったことから、同艦隊はアフリカ大陸を回り込んで英本土へと脱出するものとみられています」

 アフリカ東岸への補給は地中海ルートとそれにアフリカ大陸を西から東へと大きく回り込む二つのルートがあった。
 しかし、このうちの地中海ルートはスエズ運河が枢軸側の手に落ちたことで使えなくなった。
 この結果、同艦隊への補給は片肺飛行の状態となった。
 そのような危うい状況に、五隻の戦艦を擁する東洋艦隊を放置しておくわけにはいかない。
 英海軍上層部はそのように判断したのだろう。

 「戦艦が、しかもそれが五杯もあれば日々消費される物資もバカになりません。それに、二次にわたる我が方のインド洋作戦以降、東洋艦隊は活発な動きを見せていません。おそらく作戦行動をとれるだけの十分な備蓄が無いのでしょう。だから同艦隊を英本土に戻すというのは、妥当な判断だと思います」

 生沢長官の推測に同意の首肯を返しつつ、山本長官は話を進める。

 「それに関して、ドイツから帝国海軍に対して要請が来ています。連合艦隊、そのうちでも特に機動部隊を欧州に派遣し、英国周辺海域で通商破壊をやってもらいたいというものです」

 山本長官の話を聞いて、生沢長官が真っ先に思ったことは「やはり自分たちは同盟国の連中に目をつけられていたか」ということだった。
 空母が持つ艦上機の捜索能力や機動力、それに攻撃力だが、こちらは潜水艦のそれとは比較にならない。
 もし、仮に帝国海軍が保有する三つの航空艦隊を英国周辺海域に解き放てば、それこそごく短期間のうちに同国を干上がらせることができるだろう。

 ただ、自分たちはあくまでも日本の軍隊であり軍人だ。
 もちろん、同盟国への便宜は可能な限りこれを図るほうが好ましいだろう。
 今後いろいろと世話になるはずのドイツに対しては、特にそのことが言える。
 しかし、それでもさすがに限度というものがある。

 「やはり、問題有りと考えますか」

 あるいは、苦い思いが顔に出ていたのかもしれない。
 目聡い山本長官は、それを見逃さなかった。
 その姿勢が、少しばかり前のめりになっている。
 おそらく、欧州に機動部隊を送り出すことについては、反対の立場なのだろう。

 「その前に第三段作戦について、連合艦隊司令部とそれに軍令部の考えをお聞かせ願えますか」

 上官からの質問に対して、これを質問で返すというのは非礼にあたる。
 そのことを承知のうえで生沢長官は山本長官に尋ねる。
 今ここで迂闊な返答をすれば、それこそ取り返しのつかない大きな齟齬が生じる。
 そんな予感に囚われたからだ。

 「第三段作戦ですが、軍令部のほうは積極的な進攻作戦はこれを控え、予期される連合軍の反攻に備えて領土や占領地の守りを強化することをその信念としているようです。まあ、端的に言えば長期持久態勢を確立するといったところですな。
 しかし、我々は違います。ただ守るだけでは圧倒的な国力それに戦力を擁する米国にただすり潰されるのを待つだけです。ですので、連合艦隊は機を見て敵の嫌がる個所を痛撃し、その戦力の減殺を図ります。ですので、我々は現在のところ、ハワイ攻略を第三段作戦の第一目標に掲げています」

 生沢長官にとって、ハワイを攻撃するインセンティブは従来のそれに比べて大きく跳ね上がっている。
 豪州が脱落した今、ハワイこそが最後に残された米潜水艦の策源地となっているからだ。
 もし、ここを叩けば米潜水艦部隊は大幅な後退を余儀なくされる。
 その結果、米潜水艦は戦場への移動距離が長くなり、その分だけ作戦に従事できる期間の減少を余儀なくされる。
 逆に日本側から見れば、その分だけ船舶の安全性が高まることになる。

 もちろん、帝国海軍の目の届かないところに潜水母艦を配備し、そこを基地代わりにして潜水艦を運用するという手もある。
 圧倒的な物量を誇る米国であれば、それも可能だろう。
 しかし、それだって限界はある。
 しかるべき施設を備えた土地が無ければ、長期にわたる潜水艦の運用は不可能だ。

 諸々勘案した結果、生沢長官は結論を出す。
 事が事なだけに少しまわりくどい言い方になるが、しかしそこは仕方がないと割り切るしかなかった。
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