征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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欧州遠征

第68話 疑念の同盟国

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 「最初に結論から申し上げます。もし、いくつかの条件がクリアされれば、機動部隊を欧州に派遣することについてはこれに賛成します。もし、そうでなければ、その時は長官のおっしゃられるハワイを目指すのも有りでしょう。ただし、こちらは補給の問題から攻略とはせず、ブリスベンと同様に徹底破壊に留めるべきだと考えます」

 我ながら中途半端というか総花的というか。
 生沢長官は胸中で自嘲の言葉を吐く。
 あまりにも締まらない物言いだ。
 一方の山本長官は黙り込む。
 生沢長官の言葉を吟味しつつ、考えをまとめているのだろう。

 「まず、いくつかの条件というのを教えてもらえますか」

 先程、生沢長官は山本長官の質問に対して、これを質問で切り替えした。
 山本長官の今の発言はその意趣返しのようにも思えるが、しかしそうではないことは彼の態度を見ればすぐに分かった。

 「まずは、スエズ運河を早い段階で通行可能にしてもらうことです。遅くとも一二月までにはこれを完了してもらわなければなりません」

 生沢長官の挙げた一二月までという数字に、山本長官は脳内でざっとしたスケジュールを構築する。
 第一航空艦隊と第二航空艦隊、それに第三航空艦隊はそのいずれもが豪州遠征から戻ってきたばかりだ。
 一〇月いっぱいは艦艇の整備と補給が必要になる。
 その間に乗組員には休養を取らせ、さらに訓練が必要であればそれを施す。

 そうなれば、本土を進発するのは一一月になるだろう。
 そして、欧州に出張るとなれば、その往復に三カ月半から四カ月程度は見ておかなければならない。
 あるいは、脚の速い軍艦だけなら三カ月で可能かもしれないが、さすがに補給船団無しというわけにはいかない。
 そうであれば、日本を発った機動部隊が欧州に到着するのは一二月の後半にかけてといったあたりだろう。
 だから、生沢長官は一二月までにスエズ運河を通航可能にする必要があると言っているのだ。

 そして、同地における作戦行動に二カ月を要するとして、欧州遠征についてはトータルで半年近くは見ておかなければならないということだ。
 仮に、一一月一日に本土から出撃すれば、帰国は来年四月下旬から五月上旬あたりになるだろう。
 そうであれば、新型空母を基幹とするであろう太平洋艦隊が、その蠢動を始める前に機動部隊は戻ってくることができる。

 「スエズ運河の修復具合については、海軍省を通じてこれを確認することにしよう」

 生沢長官が挙げた一二月。
 その数字に一応の根拠を見出したことで、山本長官は先を促す。

 「最大の条件となるのは、ドイツが決して帝国海軍の機動部隊を取り込むような真似はしないという確約です。これは絶対に外せません」

 生沢長官の懸念だが、こちらは山本長官にもよく理解できた。
 マーシャル沖で太平洋艦隊を全滅させ、さらにインド洋で東洋艦隊の空母を一掃した帝国海軍機動部隊の活躍ぶりは、遠く欧州にも轟いている。
 中でも、ヒトラー総統は相当な帝国海軍贔屓だと聞く。
 マレー沖海戦で帝国海軍の基地航空隊が「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」の二隻の主力艦を沈めたときもそうだったが、さらに一航艦がインド洋で三隻の英空母を撃沈したときには、それこそ周りの人間が心配するほどの狂喜乱舞ぶりだったという。

 その彼が帝国海軍の中核戦力である機動部隊を欲しないはずがない。
 そして、独裁者というのは時に突拍子もないことをしでかすものだ。
 そのことを生沢長官は心配しているのだろう。

 「生沢さんの心配はもっともだと思う。しかし、これはある意味において外交問題とも言えるから、こちらもまた海軍省が解決すべき問題だな」

 そう言って山本長官は、この件についてはスエズ運河開通の時期と併せて海軍大臣に問い合わせることを約束する。
 そして、さらに話を進めるべく他の条件を尋ねる。

 「地中海全体の制海権の掌握と、それに我々の艦隊の受け入れ態勢の構築です。欧州に行ったはいいが、しかしそこで物資の補給や艦艇の整備が出来ないとなればそれこそ目も当てられません。それと、もう一つはジブラルタルの占領あるいは無力化です」

 生沢長官が補給や整備を心配するのは、その窓口となるのが十中八九イタリア海軍になるからだろう。
 帝国海軍のイタリア海軍に対する信頼については、口には出せないくらいすごいものがある。
 生沢長官もまた、同じ思いを抱いているのかもしれない。

 「補給と整備については、先の二つの件と併せて海軍省に問い合わせることにしよう。それと、地中海の制海権の獲得はともかくとして、ジブラルタルのほうは難しいのではないか。同盟国を悪く言うつもりはないが、それでもドイツ軍やイタリア軍の海空戦力だけでジブラルタルを無力化するというのは、かなり無茶な要求だと思うのだが」

 ジブラルタルは地中海と大西洋の間に打ち込まれた連合国の大きな楔だ。
 特に海側からの攻略は、これが不可能とまで言われる難攻不落の要塞でもある。
 ドイツそれにイタリアの海空軍の戦力でこれを攻め落とすことは、どう見ても困難だ。

 「そこは陸から攻めればいいだけの話です。海側からの攻撃に対しては堅牢無比のジブラルタルも、しかし後背の陸地からの防備に関しては、並かあるいはそれに毛が生えた程度のレベルでしょう。ドイツ陸軍と空軍が連携をとって北から攻め込めば、十分にこれを攻略することが可能です」

 海側の防備が強固だから陸側から攻めろという生沢長官の主張は、字面だけ見ればもっともな話だ。
 しかし、事はそう簡単な話ではない。
 面倒な政治が絡む案件だ。
 だから、山本長官はそのことを指摘する。

 「スペインのほうは枢軸寄りとは言えれっきとした中立国だ。英国の報復を恐れる彼らが、自国にドイツ軍を引き入れるような真似はしないと思うのだが」

 ジブラルタルを陸側から攻めるのであれば、ドイツ軍はスペインの領土を通過しなくてはならない。
 しかし、スペインのほうはそれについては一貫して拒否の態度を取り続けており、それは今も変わっていない。

 「これまでとは状況が大きく変わりました。そして、現在のドイツには二つの選択肢が有ります。スペインに気を遣って英国を打倒できる絶好のチャンスをふいにするか、あるいはスペインに嫌われるのを承知のうえで千載一遇の好機を生かすか。ふつうに損得勘定ができる指導者であれば、どちらを選択するかはそれこそ考えるまでもないでしょう」

 ドイツは、自分たちのためなら中立国の主権を平気で蹂躙する国家だと生沢長官は言っている。
 その考えは、近年のドイツの振る舞いからみても決して的はずれなものではないと山本長官も思う。
 なにせ、不可侵条約でさえ反故にするような国なのだ。
 それに比べたら、ちょっとばかりスペインの主権を侵害することなど、それこそ朝飯前といったところだろう。
 そうであれば、ジブラルタルの運命は決まったも同然だ。

 しかし、だからこそ生沢長官はそんなドイツに対して警戒心を顕にしている。
 そういった国であれば、同盟国の機動部隊を取り上げたり、あるいは使い潰したりするといったことを平気でやりかねない。

 「ドイツがどう動くのかはそれとして、同盟国が信用に値する国ではないという事実は、なかなかに厄介なことだな」

 山本長官が嘆息とともに本音を吐露する。
 同盟国の悪口はあまり言いたくはないが、しかしあまりにも面倒過ぎる問題だ。
 これに比べれば、自国の戦力だけで完結できるハワイ攻略が、それこそ気楽なものに思えてくる。

 「今回はハワイ攻略にしておいたほうがいいんじゃないか」

 山本長官は、思わず吐き出しそうになった言葉を慌てて飲み込む。
 これまで、山本長官はジブラルタルを陥とす見込みが立たなかったことから、これを根拠に機動部隊の欧州派遣に対して反対の意を表してきた。
 機動部隊の進撃が地中海で止まるのであれば、英国を戦争から脱落させるような打撃を同国に与えることなど不可能だからだ。

 しかし、ジブラルタル問題については解決の糸口が見えた。
 そうであればハワイよりも欧州にこそ、その目を向けるべきだろう。
 ハワイを陥とすのと、英国を戦争から退場させるのとを天秤にかければ、どちらを優先すべきかなど考えるまでもない。
 ただ、それが分かっていてなお帝国海軍はあと一歩が踏み出せない。
 その原因が同盟国を信用できないという、まったくもって泣きたくなるような理由によるものだ。

 「ままならんな」

 そう言って山本長官は大きくため息をついた。
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