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欧州遠征
第72話 遣欧機動部隊
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地中海から大西洋に抜け出す瞬間が危ない。
それゆえに、ドイツ海軍や空軍、それにイタリア海軍が実施した周辺海域の掃海ならびに対潜哨戒は、それこそ徹底したものとなった。
そして、それが完了すると同時に遣欧艦隊とイタリア艦隊はジブラルタル海峡を突破、大西洋への進出を果たした。
もちろん、英艦隊もまた、このことを承知していたから、しかるべきポジションにて網を張っていた。
その英艦隊の捜索にはドイツ空軍の偵察機、それにドイツ海軍のUボートが中心となってこれにあたっていた。
英艦隊が待ち伏せをするであろう海域は絞られていたから、同艦隊を見つけることはさほど難事ではなかった。
その結果、彼らは合わせて四群から成る英艦隊を発見していた。
ただ、一方で生沢長官も慎重だった。
情報の入手について、これをドイツ軍任せにするようなこともなく、一三試艦爆改め二式艦偵と呼称されるようになった機体をもって独自に索敵を実施していた。
そして、それらもまたドイツ軍と同様に四群からなる英艦隊を発見。
さらに、空母と戦艦については艦型の確認も可能な限りこれを行っていた。
こちらは生沢長官が直々に要請したものだった。
「敵艦隊は四群。前衛艦隊以外の三個艦隊については、それぞれ一隻の空母を中心とする二重の輪形陣。前衛艦隊のほうは三列から成る単縦陣か。そして、そのいずれもが二〇隻程度の規模だという」
索敵機からもたらされた情報は、敵艦隊の位置やその規模だけにとどまらなかった。
その戦力構成においても、かなりの程度把握していた。
そして、これらのうちで機動部隊についてはそれぞれ北から甲一、甲二、甲三、前衛艦隊のほうは乙一という呼称が与えられていた。
このうち、甲一と甲二はそれぞれ戦艦が三隻、甲三と乙一のほうはそれぞれ四隻が確認されている。
生沢長官にとってありがたかったのは、これら艦隊に米空母「レンジャー」の姿が無かったことだ。
もし、同艦がオール・ファイター・キャリアーとして参陣していれば、敵の戦闘機は激増していたはずだ。
もし、そうであれば、攻撃隊の編成についてはこれを抜本的に見直す必要が有った。
一方、戦艦のほうは、索敵機がその主砲配置を確認できたことで、それらの型式についてはおおよその見当がついていた。
その英戦艦の主砲配置は大きく分けて三つに分類できる。
前後にそれぞれ二基の合わせて四基を装備するものは「クイーン・エリザベス」級かもしくは「リヴェンジ」級。
艦首に二基と艦尾に一基の合わせて三基のものは「キングジョージV」級かもしくは巡洋戦艦「レナウン」。
そして、艦首に三基を集中装備しているのが「ネルソン」と「ロドネー」。
索敵の報告では、甲一と甲三に含まれる戦艦はいずれも主砲塔が前後に二基。
甲二のほうは艦首に三基を装備するものが二隻と、それに艦首に二基と艦尾に一基のものが一隻。
乙一はそのいずれもが艦首に二基と艦尾に一基の主砲塔を備えていた。
「甲一はその数から『クイーン・エリザベス』級、甲二は『ネルソン』級とそれに巡洋戦艦『レナウン』、そして甲三のほうは『リヴェンジ』級。前衛艦隊の乙一はそのすべてが『キングジョージV』級とみて間違いあるまい」
事前情報から、生沢長官はそう当たりをつける。
艦隊運動や補給の便を考えれば、同型艦で固めるほうが理にかなっている。
わざわざ、艦型の違う戦艦を混在させるような真似はしないだろう。
その構成から、敵の指揮官が意図するところを読み切った生沢長官は、これまで温めてきた事前計画をあっさりと放棄する。
「航空隊の編成についてはこのままでいく。ただし、第二次攻撃隊ならびに第三次攻撃隊の目標は機動部隊ではなく、前衛艦隊の乙一とする」
生沢長官の命令変更に、「翔鶴」艦橋内が小さくどよめく。
幕僚の反応は二つに分かれた。
意外そうな表情の者と、それに納得顔のそれだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀は後者に属する。
(物事が当てにならないという前提でものを考える生沢長官らしい)
おそらく、生沢長官は英艦隊の切り札が空母ではなく、「キングジョージV」級戦艦であると判断したのではないか。
そして、こちらの艦上機が英空母を叩いている間に「キングジョージV」級戦艦を主力とする乙一が突撃をかけてくると考えた。
その場合、遣欧打撃部隊では速度性能の問題から彼らを取り逃す恐れがあった。
一応、「キングジョージV」級戦艦の最大速力は二八ノット程度ではないかと見積もられているが、しかしそれだって当てにはならない。
実際、帝国海軍の「長門」だって二六・五ノット出せるところ二三ノットと言って世界を謀っていたのだ。
もし、同級が三〇ノットを超える速度性能を秘めていれば、遣欧打撃部隊は乙一の捕捉に失敗し、そのことで遣欧機動部隊が決定的な危機にさらされる。
一方、「ヴィットリオ・ヴェネト」級戦艦であれば、たとえ相手が三〇ノットを出せる戦艦であっても対応はできる。
しかし、同級はあのイタリア海軍の戦艦である。
過大な期待を抱くわけにはいかなかった。
生沢長官の命令に、いささかばかり疑念のような空気が生じたものの、しかしすぐに幕僚らはさらなる命令に対応できるよう、傾聴の姿勢を取り戻す。
なにせ、マーシャル沖海戦の英雄であり、珊瑚海海戦では情報戦における逆境を見事に跳ね返してみせた実績がある。
その生沢長官の判断に異を唱えることが出来る者など、一人の例外を除いてこの場にはいない。
「一〇〇の講釈より一つの実績とはまさにこの事だな」
小さく自論をつぶやきつつ、その例外もまた生沢長官が一連の命令を出し終えると同時に動き始める。
艦上機隊が出撃する以上、志津頼航空甲参謀に休んでいる暇などありはしない。
旗艦「翔鶴」の飛行甲板にはすでに三七機の艦上機が並べられていた。
これらは第一次攻撃隊に参加する機体だ。
その第一次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母からそれぞれ四個中隊、合わせて一四四機の零戦と、さらにそれらの航法支援ならびに空戦指揮にあたる四機の二式艦偵から成る。
第一次攻撃隊の目標は敵の迎撃戦闘機、その掃討だ。
また、それら一四八機と併せて「加賀」から六機の二式艦偵が飛び立つことになっている。
このうち四機は発見された四個艦隊の接触維持任務にあたり、残る二機は前路警戒機として第一次攻撃隊の情報支援に携わる。
第二次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母から零戦が九機に九九艦爆が二七機。
「赤城」と「加賀」からそれぞれ九九艦爆一八機の合わせて一八〇機。
第三次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母からそれぞれ九七艦攻が二七機。
「赤城」と「加賀」からそれぞれ零戦九機に九七艦攻一八機の合わせて一六二機。
五〇〇機近い攻撃隊を繰り出してなお、六隻の空母にはそれぞれ二個中隊、合わせて一〇八機の零戦が残っている。
こちらは、仮に英空母が攻撃に全振りしてきたとしても、十分に対応できる数だと考えられていた。
そして、時間となり六隻の空母は風上にその艦首を向けて加速を開始する。
十分な向かい風を得てほどなく、先頭に位置する零戦が発艦、二番機それに三番機も時間を置くことなく後に続く。
英国の存亡をかけた、そして日本の運命を大きく変える戦いが開始されたのだ。
遣欧艦隊
遣欧打撃部隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
軽巡「那珂」「神通」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」
遣欧機動部隊
「翔鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「瑞鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「雲鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「神鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八、二式艦偵三)
「加賀」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八、二式艦偵一二)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「川内」
駆逐艦「秋月」「照月」「長波」「巻波」「高波」「大波」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「陽炎」「不知火」
それゆえに、ドイツ海軍や空軍、それにイタリア海軍が実施した周辺海域の掃海ならびに対潜哨戒は、それこそ徹底したものとなった。
そして、それが完了すると同時に遣欧艦隊とイタリア艦隊はジブラルタル海峡を突破、大西洋への進出を果たした。
もちろん、英艦隊もまた、このことを承知していたから、しかるべきポジションにて網を張っていた。
その英艦隊の捜索にはドイツ空軍の偵察機、それにドイツ海軍のUボートが中心となってこれにあたっていた。
英艦隊が待ち伏せをするであろう海域は絞られていたから、同艦隊を見つけることはさほど難事ではなかった。
その結果、彼らは合わせて四群から成る英艦隊を発見していた。
ただ、一方で生沢長官も慎重だった。
情報の入手について、これをドイツ軍任せにするようなこともなく、一三試艦爆改め二式艦偵と呼称されるようになった機体をもって独自に索敵を実施していた。
そして、それらもまたドイツ軍と同様に四群からなる英艦隊を発見。
さらに、空母と戦艦については艦型の確認も可能な限りこれを行っていた。
こちらは生沢長官が直々に要請したものだった。
「敵艦隊は四群。前衛艦隊以外の三個艦隊については、それぞれ一隻の空母を中心とする二重の輪形陣。前衛艦隊のほうは三列から成る単縦陣か。そして、そのいずれもが二〇隻程度の規模だという」
索敵機からもたらされた情報は、敵艦隊の位置やその規模だけにとどまらなかった。
その戦力構成においても、かなりの程度把握していた。
そして、これらのうちで機動部隊についてはそれぞれ北から甲一、甲二、甲三、前衛艦隊のほうは乙一という呼称が与えられていた。
このうち、甲一と甲二はそれぞれ戦艦が三隻、甲三と乙一のほうはそれぞれ四隻が確認されている。
生沢長官にとってありがたかったのは、これら艦隊に米空母「レンジャー」の姿が無かったことだ。
もし、同艦がオール・ファイター・キャリアーとして参陣していれば、敵の戦闘機は激増していたはずだ。
もし、そうであれば、攻撃隊の編成についてはこれを抜本的に見直す必要が有った。
一方、戦艦のほうは、索敵機がその主砲配置を確認できたことで、それらの型式についてはおおよその見当がついていた。
その英戦艦の主砲配置は大きく分けて三つに分類できる。
前後にそれぞれ二基の合わせて四基を装備するものは「クイーン・エリザベス」級かもしくは「リヴェンジ」級。
艦首に二基と艦尾に一基の合わせて三基のものは「キングジョージV」級かもしくは巡洋戦艦「レナウン」。
そして、艦首に三基を集中装備しているのが「ネルソン」と「ロドネー」。
索敵の報告では、甲一と甲三に含まれる戦艦はいずれも主砲塔が前後に二基。
甲二のほうは艦首に三基を装備するものが二隻と、それに艦首に二基と艦尾に一基のものが一隻。
乙一はそのいずれもが艦首に二基と艦尾に一基の主砲塔を備えていた。
「甲一はその数から『クイーン・エリザベス』級、甲二は『ネルソン』級とそれに巡洋戦艦『レナウン』、そして甲三のほうは『リヴェンジ』級。前衛艦隊の乙一はそのすべてが『キングジョージV』級とみて間違いあるまい」
事前情報から、生沢長官はそう当たりをつける。
艦隊運動や補給の便を考えれば、同型艦で固めるほうが理にかなっている。
わざわざ、艦型の違う戦艦を混在させるような真似はしないだろう。
その構成から、敵の指揮官が意図するところを読み切った生沢長官は、これまで温めてきた事前計画をあっさりと放棄する。
「航空隊の編成についてはこのままでいく。ただし、第二次攻撃隊ならびに第三次攻撃隊の目標は機動部隊ではなく、前衛艦隊の乙一とする」
生沢長官の命令変更に、「翔鶴」艦橋内が小さくどよめく。
幕僚の反応は二つに分かれた。
意外そうな表情の者と、それに納得顔のそれだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀は後者に属する。
(物事が当てにならないという前提でものを考える生沢長官らしい)
おそらく、生沢長官は英艦隊の切り札が空母ではなく、「キングジョージV」級戦艦であると判断したのではないか。
そして、こちらの艦上機が英空母を叩いている間に「キングジョージV」級戦艦を主力とする乙一が突撃をかけてくると考えた。
その場合、遣欧打撃部隊では速度性能の問題から彼らを取り逃す恐れがあった。
一応、「キングジョージV」級戦艦の最大速力は二八ノット程度ではないかと見積もられているが、しかしそれだって当てにはならない。
実際、帝国海軍の「長門」だって二六・五ノット出せるところ二三ノットと言って世界を謀っていたのだ。
もし、同級が三〇ノットを超える速度性能を秘めていれば、遣欧打撃部隊は乙一の捕捉に失敗し、そのことで遣欧機動部隊が決定的な危機にさらされる。
一方、「ヴィットリオ・ヴェネト」級戦艦であれば、たとえ相手が三〇ノットを出せる戦艦であっても対応はできる。
しかし、同級はあのイタリア海軍の戦艦である。
過大な期待を抱くわけにはいかなかった。
生沢長官の命令に、いささかばかり疑念のような空気が生じたものの、しかしすぐに幕僚らはさらなる命令に対応できるよう、傾聴の姿勢を取り戻す。
なにせ、マーシャル沖海戦の英雄であり、珊瑚海海戦では情報戦における逆境を見事に跳ね返してみせた実績がある。
その生沢長官の判断に異を唱えることが出来る者など、一人の例外を除いてこの場にはいない。
「一〇〇の講釈より一つの実績とはまさにこの事だな」
小さく自論をつぶやきつつ、その例外もまた生沢長官が一連の命令を出し終えると同時に動き始める。
艦上機隊が出撃する以上、志津頼航空甲参謀に休んでいる暇などありはしない。
旗艦「翔鶴」の飛行甲板にはすでに三七機の艦上機が並べられていた。
これらは第一次攻撃隊に参加する機体だ。
その第一次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母からそれぞれ四個中隊、合わせて一四四機の零戦と、さらにそれらの航法支援ならびに空戦指揮にあたる四機の二式艦偵から成る。
第一次攻撃隊の目標は敵の迎撃戦闘機、その掃討だ。
また、それら一四八機と併せて「加賀」から六機の二式艦偵が飛び立つことになっている。
このうち四機は発見された四個艦隊の接触維持任務にあたり、残る二機は前路警戒機として第一次攻撃隊の情報支援に携わる。
第二次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母から零戦が九機に九九艦爆が二七機。
「赤城」と「加賀」からそれぞれ九九艦爆一八機の合わせて一八〇機。
第三次攻撃隊は四隻の「翔鶴」型空母からそれぞれ九七艦攻が二七機。
「赤城」と「加賀」からそれぞれ零戦九機に九七艦攻一八機の合わせて一六二機。
五〇〇機近い攻撃隊を繰り出してなお、六隻の空母にはそれぞれ二個中隊、合わせて一〇八機の零戦が残っている。
こちらは、仮に英空母が攻撃に全振りしてきたとしても、十分に対応できる数だと考えられていた。
そして、時間となり六隻の空母は風上にその艦首を向けて加速を開始する。
十分な向かい風を得てほどなく、先頭に位置する零戦が発艦、二番機それに三番機も時間を置くことなく後に続く。
英国の存亡をかけた、そして日本の運命を大きく変える戦いが開始されたのだ。
遣欧艦隊
遣欧打撃部隊
戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」
重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
軽巡「那珂」「神通」
駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」
遣欧機動部隊
「翔鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「瑞鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「雲鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「神鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、二式艦偵三)
「赤城」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八、二式艦偵三)
「加賀」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻一八、二式艦偵一二)
重巡「利根」「筑摩」
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