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欧州遠征
第74話 意表の急降下爆撃
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乙一と呼ばれる前衛艦隊を視認するまでに、第二次攻撃隊は三〇機あまりのF4Fワイルドキャット戦闘機の迎撃を受けた。
もちろん、遣欧機動部隊司令部のほうでも英艦隊が多数の戦闘機を擁していることは十分に予想していた。
それに対処するために、一四四機にも及ぶ零戦を第一次攻撃隊として送り出し、敵戦闘機の減殺に務めた。
これだけの数の零戦を出してなお、敵戦闘機を一掃できるといった奢った考えは同司令部には無かった。
完璧な戦闘機掃討など、よほど戦力差が隔絶していない限りはまず無理だったからだ。
それゆえに、遣欧機動部隊司令部は第二次攻撃隊にも三六機の零戦を加え、九九艦爆の護衛としてこれらに同道させていた。
それでも、これほど多くの迎撃機が現れるのは想定外だった。
第一次攻撃隊の搭乗員の術力と零戦の性能をもってすれば、敵戦闘機の八割程度は刈り取れるものだと思っていたからだ。
そのような状況のなかにおいて九九艦爆を守りおおせたのは、護衛の零戦のほうがわずかに数が多く、またその搭乗員のほとんどが腕利きだったこと。
さらに、F4Fの搭乗員らが第一次攻撃隊の零戦との死闘直後で疲弊していたことなどが大きな理由だと思われた。
いずれにせよ、一機も損なわれることなく敵艦隊に取り付けたことで、九九艦爆の搭乗員らは零戦とその搭乗員らに対して感謝を捧げていた。
「接触機の報告通りだな。どうやら、連中は自分たちが標的になっていることに、まったく気づいていないようだ」
乙一と呼称される前衛艦隊を視認した第二次攻撃隊指揮官兼「翔鶴」飛行隊長の高橋少佐が小さくつぶやく。
それら前衛艦隊は五列からなる単縦陣を形成していた。
中央に四隻の戦艦、その左右にそれぞれ同じく四隻の巡洋艦、さらにその外側にこちらもまたそれぞれ四隻の駆逐艦。
その陣形は、狙った相手に一気呵成に噛みつくには良いかもしれないが、しかし対空戦闘にはまったく向いていない。
もし連中が、己自身が狙われていることを事前に承知していれば、おそらくは戦艦を中心とした輪形陣に組み変えたうえでこちらを迎え撃ったはずだ。
「作戦に変更は無い。所定の手順に従って攻撃を開始せよ」
進撃の途上、高橋少佐は接触機からの情報に基づいて艦爆隊の戦力の割り振りを済ませていた。
残念ながら、九九艦爆が投じる二五番では、「キングジョージV」級戦艦の水平装甲を撃ち破るには威力不足だ。
だから、攻撃目標は八隻の巡洋艦とそれに同じく八隻の駆逐艦だと決めている。
そして、都合がいいことにこちらの九九艦爆は一六個中隊から成っていた。
敵艦一隻に一個中隊を割り当てれば過不足無しだし、高橋少佐もそのつもりでいた。
問題はどの中隊にどの目標を割り振るかということだった。
艦爆の搭乗員もまた、艦攻の搭乗員と同様に大物食いを好む傾向が強い。
巡洋艦と駆逐艦であれば、当然巡洋艦を狙いたがる。
敵の陣形から、今回の場合はまず駆逐艦を叩き、次に巡洋艦を攻撃することになっている。
目標が常に外側に剥き出しになるような状況にして、順次討ち取っていくのだ。
こうすれば、攻撃目標とされた艦は他艦からの支援が受けにくくなる。
それは、こちらに指向される対空火器の数が減ることを意味する。
そして、帝国海軍は指揮官先頭を旨とする。
だから、高橋少佐と彼が直率する第五航空戦隊の「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊がその口火を切らなければならない。
それは、つまりは五航戦が駆逐艦を目標にするということだ。
当然、残る第六航空戦隊の「雲鶴」隊と「神鶴」隊は巡洋艦を狙うことになる。
残る第一航空戦隊の「赤城」隊と「加賀」隊については、それぞれ第一中隊が巡洋艦を、第二中隊が駆逐艦を狙うということで話がついていた。
そして、「翔鶴」隊と「雲鶴」隊それに「赤城」隊が左翼、「瑞鶴」隊と「神鶴」隊それに「加賀」隊が右翼に展開する巡洋艦や駆逐艦を叩く。
高橋少佐率いる「翔鶴」第一中隊第一小隊が先陣を切って降下に遷移する。
眼下の英駆逐艦から対空砲火が撃ち上げられてくる。
しかし、米駆逐艦に比べれば、その密度は悲しいまでに薄い。
実際、主砲に両用砲を装備する米駆逐艦とは違い、英駆逐艦のほうは平射砲を採用していた。
もちろん、仰角を上げることで空に向けの射撃は可能だ。
しかし、その能力は高角砲や両用砲の足元にも及ばない。
また、米駆逐艦に比べて船体も小ぶりだから、装備している機関砲や機銃もまたその分だけ少なかった。
もちろん、英海軍もまたこのことについては問題意識を持っており、対空戦闘を十分にこなせる主砲ならびに射撃指揮装置を装備した駆逐艦の整備を急いでいる。
しかし、その一番艦が就役するのは来年であり、そのことで今回の戦いには間に合わなかった。
その英駆逐艦を取り巻く厳しい事情など知ったことかとばかりに、「翔鶴」第一中隊第一小隊の三機の九九艦爆が二五番を投下、離脱していく。
数瞬後、狙われた英駆逐艦の両舷に水柱が立ち上り、艦中央部から爆煙がわき立つ。
第二小隊、それに第三小隊もまた第一小隊に続けとばかりに二五番を次々に投じていく。
そのたびに水柱や爆煙が立ち上り、狙われた英駆逐艦の姿を隠していく。
「二発命中!」
後席の小泉中尉が喜色混じりの声で「翔鶴」第一中隊が挙げた戦果を報告する。
排水量の小さな駆逐艦が、しかも重巡の主砲弾の二倍の重量を持つ二五番を複数食らえば、よほど当たりどころに恵まれない限り戦闘力の維持は不可能だ。
さらに、船殻が薄い駆逐艦であれば、至近弾による水線下への打撃も期待できる。
「翔鶴」第一中隊に続き、第二中隊、それに第三中隊もまた英駆逐艦相手に二五番を叩き込んでいく。
殿の「赤城」第二中隊が投弾を終えた時点で、無傷を維持している英駆逐艦は一隻も無かった。
最外周の英駆逐艦が後落したことでむき出しとなった英巡洋艦に、今度は「雲鶴」第一中隊が小隊ごとに急降下爆撃を仕掛ける。
英駆逐艦とは違い、英巡洋艦のほうは高角砲を装備している。
さらに、船体も大きいことから機関砲や機銃もまたその分だけ多く搭載している。
第一小隊は全機が無事に投弾、離脱に成功したものの、しかし第二小隊三番機が降下に遷移する前に高角砲弾の危害半径に捉えられて火を噴く。
さらに第三小隊長機が投弾後の離脱途中に機関砲弾の直撃を食らって爆散する。
一方、駆逐艦よりも的が大きかったせいか、英巡洋艦のほうは三発を被弾。
このうち、最低でも一発が機関にダメージを与え、そのことで同艦は一気に船脚を衰えさせた。
「雲鶴」第二中隊と第三中隊、それに「赤城」第一中隊もまたそれぞれ二番艦と三番艦、それに四番艦を狙い、そのいずれにも複数の二五番を叩き込んでいた。
このことで、四隻の英巡洋艦はそのすべてが韋駄天を奪われ、這うように進むか、ひどいものになると洋上停止していた。
その頃には右翼に展開する単縦陣を攻撃した「瑞鶴」隊と「神鶴」隊、それに「加賀」隊もそれぞれ仕事を終えている。
こちらもまた、「翔鶴」隊や「雲鶴」隊、それに「赤城」隊に勝るとも劣らぬ戦果を挙げていた。
海上に立ち上る一六条の煙を確認した高橋少佐は部下たちに集合をかけるとともに、小泉中尉に戦果を打電させる。
同時に、周囲に警戒の視線を送る。
護衛の零戦との死闘をくぐり抜けた敵戦闘機が、いつ襲ってくるとも限らないからだ。
ここは敵地上空であり、一瞬の油断が命取りとなる。
生き残った部下たちを引き連れ、母艦に帰り着くまでは任務が終わったとは言えなかった。
もちろん、遣欧機動部隊司令部のほうでも英艦隊が多数の戦闘機を擁していることは十分に予想していた。
それに対処するために、一四四機にも及ぶ零戦を第一次攻撃隊として送り出し、敵戦闘機の減殺に務めた。
これだけの数の零戦を出してなお、敵戦闘機を一掃できるといった奢った考えは同司令部には無かった。
完璧な戦闘機掃討など、よほど戦力差が隔絶していない限りはまず無理だったからだ。
それゆえに、遣欧機動部隊司令部は第二次攻撃隊にも三六機の零戦を加え、九九艦爆の護衛としてこれらに同道させていた。
それでも、これほど多くの迎撃機が現れるのは想定外だった。
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さらに、F4Fの搭乗員らが第一次攻撃隊の零戦との死闘直後で疲弊していたことなどが大きな理由だと思われた。
いずれにせよ、一機も損なわれることなく敵艦隊に取り付けたことで、九九艦爆の搭乗員らは零戦とその搭乗員らに対して感謝を捧げていた。
「接触機の報告通りだな。どうやら、連中は自分たちが標的になっていることに、まったく気づいていないようだ」
乙一と呼称される前衛艦隊を視認した第二次攻撃隊指揮官兼「翔鶴」飛行隊長の高橋少佐が小さくつぶやく。
それら前衛艦隊は五列からなる単縦陣を形成していた。
中央に四隻の戦艦、その左右にそれぞれ同じく四隻の巡洋艦、さらにその外側にこちらもまたそれぞれ四隻の駆逐艦。
その陣形は、狙った相手に一気呵成に噛みつくには良いかもしれないが、しかし対空戦闘にはまったく向いていない。
もし連中が、己自身が狙われていることを事前に承知していれば、おそらくは戦艦を中心とした輪形陣に組み変えたうえでこちらを迎え撃ったはずだ。
「作戦に変更は無い。所定の手順に従って攻撃を開始せよ」
進撃の途上、高橋少佐は接触機からの情報に基づいて艦爆隊の戦力の割り振りを済ませていた。
残念ながら、九九艦爆が投じる二五番では、「キングジョージV」級戦艦の水平装甲を撃ち破るには威力不足だ。
だから、攻撃目標は八隻の巡洋艦とそれに同じく八隻の駆逐艦だと決めている。
そして、都合がいいことにこちらの九九艦爆は一六個中隊から成っていた。
敵艦一隻に一個中隊を割り当てれば過不足無しだし、高橋少佐もそのつもりでいた。
問題はどの中隊にどの目標を割り振るかということだった。
艦爆の搭乗員もまた、艦攻の搭乗員と同様に大物食いを好む傾向が強い。
巡洋艦と駆逐艦であれば、当然巡洋艦を狙いたがる。
敵の陣形から、今回の場合はまず駆逐艦を叩き、次に巡洋艦を攻撃することになっている。
目標が常に外側に剥き出しになるような状況にして、順次討ち取っていくのだ。
こうすれば、攻撃目標とされた艦は他艦からの支援が受けにくくなる。
それは、こちらに指向される対空火器の数が減ることを意味する。
そして、帝国海軍は指揮官先頭を旨とする。
だから、高橋少佐と彼が直率する第五航空戦隊の「翔鶴」隊と「瑞鶴」隊がその口火を切らなければならない。
それは、つまりは五航戦が駆逐艦を目標にするということだ。
当然、残る第六航空戦隊の「雲鶴」隊と「神鶴」隊は巡洋艦を狙うことになる。
残る第一航空戦隊の「赤城」隊と「加賀」隊については、それぞれ第一中隊が巡洋艦を、第二中隊が駆逐艦を狙うということで話がついていた。
そして、「翔鶴」隊と「雲鶴」隊それに「赤城」隊が左翼、「瑞鶴」隊と「神鶴」隊それに「加賀」隊が右翼に展開する巡洋艦や駆逐艦を叩く。
高橋少佐率いる「翔鶴」第一中隊第一小隊が先陣を切って降下に遷移する。
眼下の英駆逐艦から対空砲火が撃ち上げられてくる。
しかし、米駆逐艦に比べれば、その密度は悲しいまでに薄い。
実際、主砲に両用砲を装備する米駆逐艦とは違い、英駆逐艦のほうは平射砲を採用していた。
もちろん、仰角を上げることで空に向けの射撃は可能だ。
しかし、その能力は高角砲や両用砲の足元にも及ばない。
また、米駆逐艦に比べて船体も小ぶりだから、装備している機関砲や機銃もまたその分だけ少なかった。
もちろん、英海軍もまたこのことについては問題意識を持っており、対空戦闘を十分にこなせる主砲ならびに射撃指揮装置を装備した駆逐艦の整備を急いでいる。
しかし、その一番艦が就役するのは来年であり、そのことで今回の戦いには間に合わなかった。
その英駆逐艦を取り巻く厳しい事情など知ったことかとばかりに、「翔鶴」第一中隊第一小隊の三機の九九艦爆が二五番を投下、離脱していく。
数瞬後、狙われた英駆逐艦の両舷に水柱が立ち上り、艦中央部から爆煙がわき立つ。
第二小隊、それに第三小隊もまた第一小隊に続けとばかりに二五番を次々に投じていく。
そのたびに水柱や爆煙が立ち上り、狙われた英駆逐艦の姿を隠していく。
「二発命中!」
後席の小泉中尉が喜色混じりの声で「翔鶴」第一中隊が挙げた戦果を報告する。
排水量の小さな駆逐艦が、しかも重巡の主砲弾の二倍の重量を持つ二五番を複数食らえば、よほど当たりどころに恵まれない限り戦闘力の維持は不可能だ。
さらに、船殻が薄い駆逐艦であれば、至近弾による水線下への打撃も期待できる。
「翔鶴」第一中隊に続き、第二中隊、それに第三中隊もまた英駆逐艦相手に二五番を叩き込んでいく。
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英駆逐艦とは違い、英巡洋艦のほうは高角砲を装備している。
さらに、船体も大きいことから機関砲や機銃もまたその分だけ多く搭載している。
第一小隊は全機が無事に投弾、離脱に成功したものの、しかし第二小隊三番機が降下に遷移する前に高角砲弾の危害半径に捉えられて火を噴く。
さらに第三小隊長機が投弾後の離脱途中に機関砲弾の直撃を食らって爆散する。
一方、駆逐艦よりも的が大きかったせいか、英巡洋艦のほうは三発を被弾。
このうち、最低でも一発が機関にダメージを与え、そのことで同艦は一気に船脚を衰えさせた。
「雲鶴」第二中隊と第三中隊、それに「赤城」第一中隊もまたそれぞれ二番艦と三番艦、それに四番艦を狙い、そのいずれにも複数の二五番を叩き込んでいた。
このことで、四隻の英巡洋艦はそのすべてが韋駄天を奪われ、這うように進むか、ひどいものになると洋上停止していた。
その頃には右翼に展開する単縦陣を攻撃した「瑞鶴」隊と「神鶴」隊、それに「加賀」隊もそれぞれ仕事を終えている。
こちらもまた、「翔鶴」隊や「雲鶴」隊、それに「赤城」隊に勝るとも劣らぬ戦果を挙げていた。
海上に立ち上る一六条の煙を確認した高橋少佐は部下たちに集合をかけるとともに、小泉中尉に戦果を打電させる。
同時に、周囲に警戒の視線を送る。
護衛の零戦との死闘をくぐり抜けた敵戦闘機が、いつ襲ってくるとも限らないからだ。
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