征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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欧州遠征

第80話 日英戦艦

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 彼我の距離が二五〇〇〇メートルとなった時点で「長門」が砲撃を開始。
 僚艦の「陸奥」、それに第二戦隊の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」もこれに続く。

 遣欧打撃部隊を指揮する角田長官は、本音を言えば初っ端から景気よく全門斉射といきたかった。
 しかし、指揮官が率先して砲術の基本や原則を逸脱するわけにもいかない。
 だから、各艦ともにまずは交互打方で戦いの火蓋を切ることになった。
 だが、その第一射の弾着を確認する前に見張りから怒声のような報告が上がってきた。

 「敵戦艦発砲!」

 その言葉に、「長門」艦橋の緊張度合いが一段階アップする。
 多くの者が双眼鏡越しに甲三と呼ばれる英艦隊にその視線を向ける。
 英戦艦の周囲には、発砲時の残滓とも呼ぶべき煙がわだかまっていた。

 「あるいは、撃たれっ放しになるのを嫌がったのかもしれませんな」

 傍らの参謀長が自身の見立てを口にする。
 戦艦の数は遣欧打撃部隊が六隻なのに対して甲三のほうは四隻にしか過ぎない。
 数的劣勢を強いられる側が、さらに機先を制されるようなことがあればそれこそ目も当てられない。
 相手と同じ立場だったら、自分もまた同じことをしたかもしれない。
 参謀長に同意の首肯を返しつつ、角田長官は弾着の瞬間を待つ。

 「全弾遠!」

 観測機からの報告と同時、今度は英戦艦が放った三八センチ砲弾が降り掛かってきた。

 「「「 !! 」」」

 「長門」艦橋に居た全員が声にならないうめきを上げる。
 敵戦艦の射撃は苗頭こそ甘かったものの、しかし距離に関しては大きく外していない。
 せいぜい、数十メートルといったところだ。

 そもそもとして、光学測距儀は距離精度を出すことを非常に苦手としている。
 気象や海象によっては、それこそ数百メートルにも及ぶ誤差を出すことだって珍しくない。
 それが二五〇〇〇メートルもの大遠距離で、しかも第一射によるものだと考えれば、その正確さは尋常なものではない。

 「敵はレーダー射撃を実施しているようだな」

 角田長官が感心混じりの声を上げる。
 英国は電測兵器のトップランナーだ。
 当然、射撃照準レーダーの技術もまた相応に高いものを持ち合わせているだろう。

 ただ、射撃照準レーダーも万能ではない。
 高空に吹きすさぶ風の速さやその向きまでは、当然のこととして推し量ることは出来ない。
 二五キロも先にある標的に向けて山なり弾道を描く砲弾であれば、それらから受ける影響は決して小さなものではないはずだ。
 距離精度のわずかな誤差は、おそらくはそういった要素によるものだろう。
 そう考える角田長官の耳に、再び見張りからの報告が飛び込んでくる。

 「敵一番艦ならびに二番艦、目標本艦! 敵三番艦ならびに四番艦、目標『陸奥』!」

 英戦艦は第二戦隊を無視し、四一センチ砲を搭載する第一戦隊の「長門」と「陸奥」にその的を絞って砲撃戦を仕掛けてきた。

 「『長門』と『陸奥』を早い段階で無力化すれば、残る三六センチ砲搭載戦艦などは後でどうとでも料理できると考えたか」

 砲撃と着弾の間、一瞬の静寂を取り戻した中で、参謀長が再び自身の見立てを口にする。
 おそらくはそうだろうなと、角田長官もまた胸中で同感の言葉をつぶやく。
 集団戦であれば、最大脅威からこれを排除するのは基本のキだ。
 甲三の指揮官は、そのセオリーに忠実な性格なのだろう。
 つまりは常識人だ。

 「距離を二〇〇〇〇メートルにまで詰める」

 角田長官の命令に、幕僚らがぎょっとした目を向ける。
 二隻の戦艦から狙われている中で、しかも自分たちだけが観測機を使える状況なのだから、ここは遠距離砲戦に徹するべきだ。
 それに「長門」と「陸奥」は弾火薬庫の防御こそ充実しているが、しかし他の部分については並か贔屓目に見ても中の上といったところだ。
 タイマンであればともかく、一対二の状況で距離を詰めるのは明らかにまずい。
 もはや、非常識な戦法と言ってもいいほどだ。

 一方の角田長官は、「長門」や「陸奥」の安全よりも、敵の砲門が「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」に指向されていないことに、その意識を向けていた。
 第二戦隊のこれら四隻の戦艦は、艦の中心線上に六基もの連装砲塔を装備したことで、弾火薬庫や機関室の装甲を思い切って厚くすることができなかった。
 そのことで、自身が搭載する三六センチ砲弾に対してでさえ、その防御は不足していると考えられていた。
 当然、英戦艦が放つ三八センチ砲弾に耐えられる道理もない。
 当たりどころによっては、一発で轟沈ということも有り得た。

 しかし、敵の砲弾を「長門」と「陸奥」の二隻で吸収することが出来るのであれば、そのようなことは問題ではなくなってくる。
 むしろ、第二戦隊の四隻の戦艦が有する四八門にも及ぶ三六センチ砲が、いかにも心強いものに思えてくる。
 大砲もまた、数こそ正義なのだ。

 被害を恐れる幕僚と、敵への打撃を考慮の第一とする角田長官。
 それは、一般的な海軍士官と、それらとは違う異質の人間の対比。
 あるいは、帝国海軍という組織と角田覚治という個人の違いだとも言えた。

 そして、決定権は指揮官である角田長官がこれを握っている。
 参謀がいくら反対しようとも、ひとたび司令長官が決定した以上は、これが覆ることはない。
 だから、それは実行に移される。
 遣欧打撃部隊の六隻の戦艦が艦首を左へと振り、英戦艦との距離を詰めにかかる。

 そして、砲戦距離が二〇〇〇〇メートルになったことで、日英の戦艦はともに命中弾を得ることになった。
 遣欧打撃部隊の戦艦は観測機が使える有利をもって、一方の英戦艦は射撃管制システムの優越をもって相手を狙い撃つ。

 真っ先に崩れたのは殿の位置にあった「ロイヤル・ソブリン」だった。
 同艦は「陸奥」に主砲弾を叩き込む一方で、「山城」と「扶桑」から多数の三六センチ砲弾を浴びせられていた。
 その「山城」と「扶桑」は、相手から特に標的にされることも無かった。
 そのことで、将兵らは落ち着いて砲撃に臨むことができた。

 一方の、「ロイヤル・ソブリン」の装甲は「山城」と「扶桑」が放つ三六センチ砲弾を弾き返していた。
 しかし、艦の上部構造物や、装甲が薄いかあるいは皆無の艦首部分や艦尾部分は砲弾の侵入を阻むことができない。
 そういった部分は、そのことごとくが蜂の巣のようにされてしまう。

 さらに、その際に生じた火災が「ロイヤル・ソブリン」を前後から炙り始める。
 相次ぐ被弾とそれに伴う火災の発生によって、ダメコンチームの対応も追いつかない。
 限界を超えた「ロイヤル・ソブリン」は洋上の松明さながらの状態となり、そのことで同艦は戦力を喪失した。

 三番艦の「レゾリューション」もまた、「ロイヤル・ソブリン」と似たような経緯をたどった。
 こちらは「伊勢」と「日向」によって艦上構造物を散々に打ち砕かれ、砲塔以外の部分は鉄の堆積場と化してしまう。
 また、極めて珍しいことに「伊勢」が放った一弾が水中弾効果を発揮し、「レゾリューション」の横腹に大穴を穿った。
 艦上の炎攻めと艦腹の水攻めによる拷問によって、「レゾリューション」もまたその戦力を喪失していった。

 「長門」と「陸奥」に狙われた「ラミリーズ」とそれに「リヴェンジ」は、「レゾリューション」や「ロイヤル・ソブリン」よりは健闘したものの、しかし最期は格上に屈することになった。
 単純な命中数では「レゾリューション」や「ロイヤル・ソブリン」も「長門」や「陸奥」には負けておらず、むしろ勝っていた。
 しかし、四二口径にしか過ぎない三八センチ砲では「長門」や「陸奥」の装甲を撃ち抜くには少しばかり力不足だった。
 逆に「長門」や「陸奥」が装備する四五口径の主砲から発射される四一センチ砲弾は相手の装甲を貫き、艦の心臓部に甚大なダメージを与えていった。

 ただ、同じ三八センチ砲でも、「レゾリューション」や「ロイヤル・ソブリン」がドイツの「ビスマルク」級戦艦やもしくはイタリアの「ヴィットリオ・ヴェネト」級戦艦が装備する長砲身のそれを搭載していれば、あるいは勝敗は逆転していたかもしれない。
 両級の三八センチ砲弾であれば、かなりの確率で「長門」や「陸奥」の装甲を撃ち抜くことが期待できたからだ。
 そうなれば、「長門」と「陸奥」もまた無事では済まず、沈没の憂き目にあっていたかもしれない。
 しかし、しょせんはタラレバだ。
 四隻の英戦艦が致命の打撃を被った今では、ただの詮無き話でもあった。
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