征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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マリアナ決戦

第92話 トラック陥落

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 昭和一八年はミッドウェー海戦を最後に、大規模な艦隊決戦が生起するようなことは無かった。
 ただ、艦隊決戦が起きなかったからと言って、戦闘が無くなったというわけでもない。

 海上交通戦を巡る戦いは、帝国海軍の護衛艦艇が徐々に米潜水艦を押しつつあった。
 英国製の優れた対潜兵器を装備し、さらに自家騒音の低減を図った帝国海軍の対潜艦艇は、これまでとは違って嘘のように米潜水艦を捕捉することができるようになっていた。
 また、ヘッジホッグといった対潜前投兵器もおおいに活躍し、多数の米潜水艦を撃沈、あるいは撃破している。

 海上それに海中とは違い、空中の支配域は昭和一八年の前半と後半で大きく様変わりしていた。
 そのきっかけとなったのは、日本軍がアッツやキスカ、それにウェーク島やマーシャル諸島から兵を引き揚げたことだ。
 この結果、これらの地は米軍が支配するところとなった。
 当然、米軍はそこに航空隊を進出させるから、その分だけ同軍は空の版図を広げることになる。

 なかでも、マーシャル諸島については艦隊泊地として好適であったこと、さらに複数の飛行場が存在したことから、急速に前線基地としての体裁を整えていった。
 そして、マーシャル諸島には多数のB24重爆が配備されることになった。
 もちろん、日本軍にとっての太平洋の要石であるトラック島を叩くためだ。
 そのことで、B24重爆と現地を守る日本軍戦闘機隊との間で激しい戦いが繰り広げられることになった。
 それは昭和一八年が終わり、一九年に入ってからも変わることはなかった。

 事態が大きく動いたのは二月一七日のことだった。
 トラック島近海に忍び寄った、それぞれ六隻の「エセックス」級空母ならびに「インデペンデンス」級空母を主力とする米機動部隊が同島を強襲したのだ。
 それら機動部隊の艦上機の総数は常用機だけでも八〇〇機を数えた。

 一方、当時のトラック島には二〇〇機余りの零戦と五〇機近い月光、それに一〇〇機程の一式陸攻のほかに飛行艇や水上機、それに輸送機や連絡機等を含めて五〇〇機近い航空機が活動していた。

 このうち、トラック島の司令部は夜間戦闘機については月光ではなくさらに高性能の閃光を配備してほしいという意向を持っていた。
 ただ、その閃光の母体となったモスキートは機体が木製で高温多湿を嫌う。
 このため、赤道からさほど離れていないトラック島ではその運用に支障が出るかもしれないとして、配備についてはこれが見送られていた。

 また、零戦が高高度戦闘を苦手としていることで、同司令部はスピットファイアの配備もまたこれを望んでいた。
 しかし、スピットファイアはまだ数が少なく、そのうえ整備が不慣れな液冷発動機を搭載していることで、こちらもまた配備には至っていない。
 だから、米艦上機の襲撃に対しては、零戦だけが頼りだった。

 米艦上機群が迫ってきた時、トラック島の零戦はそのほとんどが離陸に成功していた。
 探知距離が長い英国製レーダーの高性能と、それに頻繁に重爆と戦っていることで何事にも動作が機敏になっている搭乗員らの日々の努力の賜物だった。

 それら零戦は米機動部隊が送り込んできた第一次攻撃隊と真っ向からぶつかり合った。
 米機動部隊のほうはF6Fヘルキャット戦闘機が二一六機、一方の零戦のほうは二〇四機だったから、ほぼ同数の対決だ。
 この時点で、米空母のほうはそのすべてがF4Fワイルドキャット戦闘機からF6Fへの更新を終えていた。

 空中戦は、ほぼ互角で推移した。
 機体性能はF6Fのほうが勝っていた。
 一方で、搭乗員の技量それに実戦経験のほうは、毎日のようにB24重爆との戦いに明け暮れている零戦の搭乗員のほうが上回っていた。
 ただ、それは機体性能の差を埋める程度のものでしかなかった。

 トラック島の日本軍にとって痛かったのは、零戦とF6Fがしのぎを削っている最中にB24重爆が大挙して押し寄せてきたことだ。
 もちろん、これは米軍が意図してやったことだろう
 それらB24重爆はそのすべてが飛行場を目標としており、そのことで滑走路のほとんどが爆弾によって掘り返されてしまった。

 そうなれば、零戦としては使用可能な滑走路に着陸するしか他に方法が無かったわけだが、しかしそれら機体のすべてが無事に着陸できたわけではなかった。
 使える滑走路の数が激減したことで着陸の順番を待つ必要が生じ、その間に燃料切れとなる零戦が続出したからだ。
 そういった機体は滑走路以外の場所に不時着を余儀なくされ、そのことで稼働機が大きく減じてしまった。

 さらに、七二機のF6Fと一〇八機のSBDドーントレス急降下爆撃機、それに同じく一〇八機のTBFアベンジャー雷撃機からなる戦爆連合の第二次攻撃隊が、こちらもまたB24と同様に飛行場を攻撃した。
 生き残った零戦は果敢に反撃したものの、しかしそのすべてを抑えきることはできず、投弾を許すことになってしまった。
 そのことで、すべての飛行場が離発着機能を奪われてしまった。
 結局、零戦もまたそのすべての機体が不時着で失われることになった。

 トラック島の航空機で生き残ったのは、脚が長いことでグアム方面への避退を指示された一式陸攻や一〇〇式司偵、それに九七式大艇や二式大艇といった大型飛行艇くらいのものだった。

 米軍は執拗だった。
 夜を徹して滑走路の復旧を急ぐ日本軍に対し、艦砲射撃による猛射を加えた。
 特に「アイオワ」と「ニュージャージー」の二隻の新型戦艦によるそれは強烈だった。
 同艦が装備する四〇センチ砲は一二〇〇キロを超える重量弾を吐き出し、修理中の滑走路に大穴を穿ち、空爆で生き残った施設を容易に爆砕していった。

 さらに、翌朝には爆弾や魚雷を搭載したSBDやTBFが再び来襲。
 環礁内に取り残されていた商船やそれら護衛艦艇を虱潰しにしていった。
 この攻撃については、急降下爆撃機や雷撃機の搭乗員の技量向上の目的も含まれていた。
 また、零戦による反撃が無いことを見てとったF6Fはわずかに残存する無傷の地上目標に銃撃を繰り返し、それらを蜂の巣にしていった。

 一方、トラック島周辺海域の制空権とそれに制海権を失ったと判断した帝国海軍上層部は、飛ばせるだけの飛行艇を同地に派遣。
 夜の闇をついてトラック島に到着したそれら機体は、同島に残る搭乗員や整備員をそれこそすし詰め状態にして収容。
 マリアナ方面へと脱出させることに成功した。
 そして、それは米軍が上陸作戦を開始するまで続けられた。

 米機動部隊とそれにマーシャル基地航空隊の挟撃によって敗北を喫した日本軍だが、それでも成果がゼロだったわけではなかった。
 零戦は甚大な損害を被ったものの、一方で多数のF6Fを撃墜していた。
 トラック島周辺での戦いだったこともあり、撃墜された零戦の搭乗員の中で友軍によって救助された者も少なくなかった。
 また、そういった者たちのほとんどが同島に送られてきた飛行艇によって救出されている。

 逆にF6Fの搭乗員は敵地上空だったこともあり、撃墜されたうえでそれでも生き残っていた者のほとんどが日本軍に捕らわれ、収容施設に送り込まれた。
 そして、それら収容施設も後の艦砲射撃や空爆によって破壊され、そのことで助かったF6Fの搭乗員はほとんど存在しなかった。

 一方、手厚い航空支援もあり、わずか半月あまりでトラック島の大部分を占領した米軍は、その時点で基地の建設に着手する。
 グアムの日本軍からの航空攻撃に対しては機動部隊のF6Fが対応し、飛行場が稼働してから後は陸軍のP38やP47、それに海兵隊のF4Uがその任務を受け継ぐ。
 そして、拡張した飛行場にB24重爆を呼び寄せたうえで、グアムへの爆撃を開始する。
 さらに、米軍は三カ月後を目処にマリアナ攻略作戦を発動することにしていた。
 ここに来て、事態は大きく動くことになった。
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