征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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マリアナ決戦

第94話 零戦五三型

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 速度、それに武装とくれば、次は防弾装備となるのはお約束だった。
 志津頼先任参謀の長広舌は続く。

 「防御については、基本的には三二型と同じで防弾鋼板と自動消火装置、それに防弾ガラスと防漏タンクの装備となっています。ただし、防弾鋼板と防弾ガラスについてはそれぞれ厚みが増し、その分だけ撃たれ強くなりました。さすがに二〇ミリ弾相手だと厳しいですが、それでも一二・七ミリ弾であればかなりの抗堪性を発揮してくれるものと思います」

 豪州が早い段階で戦争から退場したこともあり、陸上基地同士による航空撃滅戦という名の消耗戦は、これを避けることができた。
 それでも搭乗員の損耗を完全に抑えることはできず、それこそ櫛の歯が欠けるようにして熟練搭乗員が失われている。
 だからこそ、搭乗員を守るための防弾装備はこれを充実しなければならない。
 相手が強敵のF6Fであれば、なおのことだ。

 「防御ついでに言えば、機体や翼の強度もこれがかなり上がっています。おかげで急降下制限速度も大幅に緩和され、さらに機銃弾も以前にも増して収束するようになりました」

 機体強度が低ければ機銃を発射する際の反動を受け止めきれず、そのことで着弾がバラついてしまう。
 威力が大きい二〇ミリ弾であれば、なおさらだ。
 しかし、五三型のほうは四丁もの二〇ミリ機銃を搭載しながら、その問題は無いという。

 「それでも、ずいぶんと重くなったんだろう? その分だけ旋回性能も落ちたんじゃないか」

 大出力の発動機に強武装、さらに充実した防弾装備とそれに強度が増した機体と翼。
 重量肥大化の要素がてんこ盛りだ。
 そうであれば、旋回性能が相応に低下してもおかしくない。

 「そうですね。二一型と比べれば最低でも五〇〇キロ以上は重くなっているはずですから、当然のこととして旋回性能については二一型には及びません。しかし、速度性能が段違いですから、むしろ縦の戦いは五三型の圧勝です。それと、同機体は重くなったとはいえ、それでも同じ発動機を搭載する四式戦に比べればかなり軽いはずですから、それを考えれば特に問題は無いと言ってもいいでしょう」

 四式戦は陸軍の最新鋭戦闘機で零戦と同じ誉発動機を搭載し、実戦投入も間近だと噂されている。
 帝国海軍でもこの機体に目をつけ、陸軍に対してマリアナ諸島にこれを配備するよう申し入れているが、今のところ色よい返事はもらえていない。

 「そうなると、これまでのバカの一つ覚えから脱却できるということだな」

 生沢長官の言うバカの一つ覚えというのは、零戦が得意とする旋回格闘戦のことを指している。
 速度性能が低く、そのうえ降下制限速度に厳しい縛りがあったこれまでの零戦はもっぱら巴戦、欧米で言うところのドッグファイトに活路を見出さざるを得なかった。
 実際には、零戦搭乗員の超人的な見張り能力で先制奇襲攻撃を仕掛けることも多かったのだが、しかし電測兵器の高性能化が著しい昨今では、それに期待するというのはいささかばかり虫が良すぎた。

 「そうですね。これからは従来の旋回格闘戦に加えて一撃離脱戦法に頼る場面が増えると思います。ですので、昨年のうちに戦闘機隊の編成を変更した判断は正しかったと言えますね」

 これまで、帝国海軍の戦闘機隊は三機で一個小隊としていた。
 ただ、これだと三番機の搭乗員の腕が悪いと自身のポジションを維持するのに汲々となり、そのことで周囲に対する警戒が疎かになってしまう弊害があった。
 もちろん、小隊の三人が熟練であればそのような問題は生起しないが、しかし戦争が始まって二年以上が経過した今では状況が違う。

 そのことで、帝国海軍の戦闘機隊は二機を最小戦闘単位とし、それを二つ組み合わせたうえで一個小隊としていた。
 その結果、小隊長の任にあてるべき少尉や曹長といった下級士官それに准士官の不足に対する悩みも幾分かは緩和されている。

 「無線機についてはどうだ」

 情報を何よりも重視する生沢長官にとって、無線機こそが最大の関心事だ。
 戦闘機を有効活用するために実施している航空管制の肝でもある。
 だから、志津頼先任参謀もこの装備については念入りに調べている

 「ドイツ製のものを装備しています。性能それに信頼性は国産のものより明らかに上ですから、運用面で困るようなことは無いでしょう」

 無線機もまた、特に問題は無いという志津頼先任参謀の報告に、生沢長官が満足気に頷く。

 「武装は先ほど聞いたが、爆装のほうはどうだ」

 零戦は二一型で六番が二発、三二型で二五番が一発かあるいは六番が四発と、世代を重ねるごとに爆装能力が向上している。
 戦闘機の数を重視する生沢長官だからこそ、その爆装能力についてもまた強い関心を抱いていた。

 「五三型の場合、腹に増槽を抱いたうえで、さらに両翼にそれぞれ二五番を一発かあるいは六番を四発搭載できます。二一型に比べて出力が二倍近くに達する五三型であればこその積載力ですね」

 零戦については、二一型が九四〇馬力の栄を、三二型が一三〇〇馬力の金星を搭載していた。
 一方の五三型は誉発動機を搭載し、その出力は二一型が搭載する栄発動機の二倍近い一八五〇馬力を発揮する。
 この強心臓こそが、従来機よりも重量が著しく増したはずの五三型に卓越した機動力と防御力、それに爆弾搭載能力を付与していた。
 しかし、その五三型をもってしても両翼にそれぞれ一〇〇〇ポンド爆弾を搭載できるF6Fには及ばない。
 あるいは、五三型が普通であって、F6Fのほうが凄すぎるのかもしれないが。

 「それと、例の兵器ですが、こちらはかなり使えそうです。発射のタイミングが難しいですが、しかしそれさえ克服できれば強力なカードになります」

 生沢長官は欧州遠征の任にあたっていた頃に、ドイツの軍人や技術者と何度も会合を持っていた。
 その際、同国から先進の軍事技術を吸収する一方で、自身が持つアイデアを開陳し、お互いに交流を深めていた。
 あれから一年余り。
 ドイツの技術陣は生沢長官のアイデアを具現化することに成功した。

 「まあ、いつまでも米側に先手を取らせてやる義理なんて無いからな」

 生沢長官の言う先手とは、日米の戦闘機同士の戦いについてのことだ。
 低伸性の高いブローニング機銃を持つ米戦闘機は、自らが奇襲された場合を除けば常に先手を取っていた。
 一方の日本側の戦闘機は、敵の射弾を回避した後の攻撃となるので、常に後手を踏む形となっていた。
 そのことで、米戦闘機の初撃を躱せずに討ち取られた友軍戦闘機も少なくなかった。

 この不毛ともいえる状況を打破すべく、生沢長官は艦隊指揮のみにとどまらず、ドイツを相手に技術交流という名の陳情を繰り返していたのだ。
 他国とはいえ、しかし中将が部下たちのために頭を下げる姿に思うところがあったのだろう。
 ドイツ人技術者は奮起し、そして生沢長官が望むものを形にした。

 「R4M」という名のそれは、ドイツと日本で用途が大きく違っていた。
 ドイツのほうは、近い将来に自分たちに襲いかかってくるであろう、米国の超長距離爆撃機への備えとしてこれを用意することにしていた。
 一方、日本のほうは戦闘機同士の戦いにおいて、先手を取るための手段の一つとして捉えていた。

 「いずれにせよ、例の兵器を一日でも早く、米戦闘機の群れにぶち込んでやりたいものです」

 俄然やる気を漲らせている志津頼先任参謀に対し、生沢長官のほうは苦笑するしかない。
 ただ、その一方でやたらと操縦桿を握りたがる部下に釘を刺すことも忘れない。

 「戦場で貴官を空に上げるような真似は絶対にしないからな。とにかく今は先任参謀としての職務を全うしてくれ」
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