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マリアナ決戦
第95話 ニミッツ提督
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先代のキンメル長官が更迭されて以降、太平洋艦隊の指揮を執り続けているニミッツ大将はいよいよこの時が来たかと気を引き締める。
正式にマリアナ攻略作戦が発令されたのだ。
同地を攻略するための主力となるのは、それぞれ九隻の「エセックス」級空母とそれに「インデペンデンス」級空母を擁する第五艦隊。
それら一八隻の空母には合わせて一二〇〇機を超える艦上機が搭載されている。
太平洋艦隊には他に「エセックス」級空母の「タイコンデロガ」があったが、しかし同艦は就役してから日が浅く、慣熟訓練が未了のために不参加となっている。
空母が充実する一方で、砲撃戦の役に立ちそうなのは「アイオワ」と「ニュージャージー」の二隻の新型戦艦くらいのもので、あとは巡洋艦や駆逐艦といった小物ばかりだった。
これには理由があった。
実のところ、米海軍には「アイオワ」と「ニュージャージー」の二隻の「アイオワ」級戦艦以外にも四隻の「サウスダコタ」級戦艦とそれに二隻の「ノースカロライナ」級戦艦があった。
しかし、これら六隻はそのすべてが大西洋艦隊に配備されていた。
ドイツ海軍それにイタリア海軍に対する備えとして必要だったからだ。
このうちドイツ海軍は戦艦「ティルピッツ」に加え二隻の「シャルンホルスト」級巡洋戦艦を、一方のイタリア海軍のほうは三隻の「ヴィットリオ・ヴェネト」級戦艦を保有していた。
もちろん、米国のほうもこれら六隻の主力艦が東海岸に殴り込みをかけてくるとは思っていない。
もし、そのようなことをすれば、かつての「プリンス・オブ・ウェールズ」や「レパルス」と同じ運命をたどるだけだ。
しかし、北米と南米を結ぶ海上交通路に対して通商破壊戦を仕掛けてくる可能性のほうは、これを否定できなかった。
このため、「サウスダコタ」級戦艦とそれに「ノースカロライナ」級戦艦に関しては、枢軸側の水上打撃戦力に対応するための備えとして、これらを大西洋艦隊に配備せざるを得なかった。
一方、その代償として米海軍上層部は太平洋艦隊に旧式戦艦のほとんどを預けることにした。
「コロラド」級戦艦の最後の生き残りである「コロラド」と、それに三隻の「ニューメキシコ」級戦艦、それに二隻の「ニューヨーク」級戦艦の六隻だ。
本作戦においてこれら六隻は輸送船団の護衛にあたり、上陸作戦が始まって以降は対地支援砲撃任務にあたることになっている。
そして、それらを指揮するのは第五艦隊司令長官のフランク・J・フレッチャー大将だ。
そのフレッチャー提督は珊瑚海海戦で一敗地に塗れたものの、しかし昨年のミッドウェー海戦では日本海軍の空母を、しかもそれを一度に四隻も葬るという離れ業をやってのけた。
また、当時の旗艦だった空母「エセックス」は自艦の艦上機隊だけで「飛鷹」と「龍鳳」、それに「龍驤」の三隻を撃沈するという快挙を成し遂げた。
そのことで、「エセックス」は「ビッグE」という二つ名を献上されている。
その「エセックス」をはじめとした大型正規空母は、従来以上に戦闘機の比率を高めていた。
これは、日本海軍の艦上機編成に倣ったものだ。
艦隊決戦に伴う洋上航空戦は、戦闘機をより多く保有していた側が勝つ。
それを理解したことで、最初は全体の四割だった戦闘機の比率は、今ではそれが六割近くにまで達していた。
もちろん、その分だけ急降下爆撃機や雷撃機が減ってしまうが、しかし空母そのものの数が増えていることと、それにF6Fヘルキャット戦闘機の爆装能力が優れていることもあって、その件については特に問題とはされなかった。
さらに、これら空母を守る護衛艦艇も粒ぞろいだ。
機動部隊に配備された巡洋艦は、そのほとんどが対空戦闘に秀でた「クリーブランド」級軽巡かあるいは「アトランタ」級軽巡といった最新鋭艦であり、駆逐艦も型式の新しい「フレッチャー」級で固められている。
さらに、数は十分ではないものの、これら艦艇にはVT信管付きの高角砲弾が用意されていた。
(残る問題は日本軍基地への対応だな)
マリアナ諸島のうちで、サイパンとテニアン、それにグアムには有力な日本軍の航空基地があることが分かっている。
特に、グアムに展開する日本軍の航空隊は手強い。
トラック島からグアムに向けて出撃を繰り返すB24重爆は、常に手ひどい損害を被っている。
正面からグアムに接近すれば零戦の群れに襲われ、夜間に忍び寄ればモスキートの辻斬りに遭う。
ならばと、高高度から接近を図れば今度はスピットファイアに叩かれる。
そうなってしまえば、取れる手段としては圧倒的な物量で正面からぶつかることのみだ。
戦は数、量で質を凌駕する。
だから、第五艦隊は南から突き上げるようにしてグアム、テニアン、そしてサイパンの航空基地を順繰りに潰していく。
第五艦隊が保有する一二〇〇機を超える艦上機の推進力と突破力をもってすれば、それは十分に可能だ。
もちろん、こちらも相応の流血は必至だが、しかしその分は後方に控える護衛空母から輸血してもらえばいい。
これら護衛空母には自艦の防空用とそれに対潜哨戒用の機材を除くそのすべてが「エセックス」級空母乃至「インデペンデンス」級空母の予備機だ。
いずれにせよ、時間との戦いだ。
マリアナの基地航空隊と日本の機動部隊の戦力が糾合されれば、それこそ厄介極まりない。
だから、短期間でグアムとテニアン、それにサイパンの航空基地を無力化する必要がある。
そして、フレッチャー提督であれば、必ずそれをやり遂げてくれるはずだ。
日本の空母戦力については、これを概ね把握していた。
艦隊戦に使える空母は大小合わせて一四隻。
このうちで「エセックス」級空母とためを張れるのは四隻の「翔鶴」型空母と、あとはオマケで「赤城」と「加賀」くらいのものだろう。
残る八隻のうちでそれなりの戦力を持つものは「蒼龍」と「飛龍」だけで、残る六隻ははっきり言って有象無象の類だ。
そして、それら空母に搭載されている艦上機はどんなに多めに見積もっても九〇〇機には届かない。
なにより、機動部隊の屋台骨を支えるはずの戦闘機は、相も変わらず零戦のままだ。
F6Fに対しては同数でも不利なうえに、さらに数で劣っていてはさすがに勝ち目は無いだろう。
(不確定要素はカズヤ・イクサワの存在だ)
もともと、米海軍では山本五十六大将と、それに山口多聞大将の二人こそを、日本海軍における最高の指揮官としてマークしてきた。
だが、そのうちで山口大将のほうは、彼が中将であった頃に生起したミッドウェー海戦において戦死したことが分かっている。
残る山本大将のほうは、現在では海軍大臣を務めており、戦闘ではなく政治の舞台にその身を置いているから、今のところは取り立てて警戒する必要は無いと判断されていた。
だが、ここに第三の男とでも言うべき存在が現れた。
カズヤ・イクサワだ。
マーシャル沖海戦と珊瑚海海戦で、それぞれ当時の太平洋艦隊に煮え湯を飲ませ、さらに英国そのものを滅亡へと導いた男。
ミッドウェー海戦の英雄として全米から声望を集めるフレッチャー提督もまた、珊瑚海海戦ではカズヤ・イクサワに後れを取っている。
(それでも、あの時と今とでは条件が違う)
珊瑚海海戦のときは、米日ともにその戦力に大きな差は無かった。
しかし、今はこちらが圧倒している。
そして、珊瑚海海戦の敗北とミッドウェー海戦の勝利によってフレッチャー提督の経験値はカズヤ・イクサワに劣らぬものとなった。
(頼んだぞ、フレッチャー)
ハルゼー提督やスプルーアンス提督といった、名うての指揮官のそのことごとくを失った現在、頼れる者はフレッチャー提督を置いて他には無い。
だから、ニミッツ長官は祈る。
それが、軍人の態度として相応しいものではないと自覚しながら。
正式にマリアナ攻略作戦が発令されたのだ。
同地を攻略するための主力となるのは、それぞれ九隻の「エセックス」級空母とそれに「インデペンデンス」級空母を擁する第五艦隊。
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しかし、これら六隻はそのすべてが大西洋艦隊に配備されていた。
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このうちドイツ海軍は戦艦「ティルピッツ」に加え二隻の「シャルンホルスト」級巡洋戦艦を、一方のイタリア海軍のほうは三隻の「ヴィットリオ・ヴェネト」級戦艦を保有していた。
もちろん、米国のほうもこれら六隻の主力艦が東海岸に殴り込みをかけてくるとは思っていない。
もし、そのようなことをすれば、かつての「プリンス・オブ・ウェールズ」や「レパルス」と同じ運命をたどるだけだ。
しかし、北米と南米を結ぶ海上交通路に対して通商破壊戦を仕掛けてくる可能性のほうは、これを否定できなかった。
このため、「サウスダコタ」級戦艦とそれに「ノースカロライナ」級戦艦に関しては、枢軸側の水上打撃戦力に対応するための備えとして、これらを大西洋艦隊に配備せざるを得なかった。
一方、その代償として米海軍上層部は太平洋艦隊に旧式戦艦のほとんどを預けることにした。
「コロラド」級戦艦の最後の生き残りである「コロラド」と、それに三隻の「ニューメキシコ」級戦艦、それに二隻の「ニューヨーク」級戦艦の六隻だ。
本作戦においてこれら六隻は輸送船団の護衛にあたり、上陸作戦が始まって以降は対地支援砲撃任務にあたることになっている。
そして、それらを指揮するのは第五艦隊司令長官のフランク・J・フレッチャー大将だ。
そのフレッチャー提督は珊瑚海海戦で一敗地に塗れたものの、しかし昨年のミッドウェー海戦では日本海軍の空母を、しかもそれを一度に四隻も葬るという離れ業をやってのけた。
また、当時の旗艦だった空母「エセックス」は自艦の艦上機隊だけで「飛鷹」と「龍鳳」、それに「龍驤」の三隻を撃沈するという快挙を成し遂げた。
そのことで、「エセックス」は「ビッグE」という二つ名を献上されている。
その「エセックス」をはじめとした大型正規空母は、従来以上に戦闘機の比率を高めていた。
これは、日本海軍の艦上機編成に倣ったものだ。
艦隊決戦に伴う洋上航空戦は、戦闘機をより多く保有していた側が勝つ。
それを理解したことで、最初は全体の四割だった戦闘機の比率は、今ではそれが六割近くにまで達していた。
もちろん、その分だけ急降下爆撃機や雷撃機が減ってしまうが、しかし空母そのものの数が増えていることと、それにF6Fヘルキャット戦闘機の爆装能力が優れていることもあって、その件については特に問題とはされなかった。
さらに、これら空母を守る護衛艦艇も粒ぞろいだ。
機動部隊に配備された巡洋艦は、そのほとんどが対空戦闘に秀でた「クリーブランド」級軽巡かあるいは「アトランタ」級軽巡といった最新鋭艦であり、駆逐艦も型式の新しい「フレッチャー」級で固められている。
さらに、数は十分ではないものの、これら艦艇にはVT信管付きの高角砲弾が用意されていた。
(残る問題は日本軍基地への対応だな)
マリアナ諸島のうちで、サイパンとテニアン、それにグアムには有力な日本軍の航空基地があることが分かっている。
特に、グアムに展開する日本軍の航空隊は手強い。
トラック島からグアムに向けて出撃を繰り返すB24重爆は、常に手ひどい損害を被っている。
正面からグアムに接近すれば零戦の群れに襲われ、夜間に忍び寄ればモスキートの辻斬りに遭う。
ならばと、高高度から接近を図れば今度はスピットファイアに叩かれる。
そうなってしまえば、取れる手段としては圧倒的な物量で正面からぶつかることのみだ。
戦は数、量で質を凌駕する。
だから、第五艦隊は南から突き上げるようにしてグアム、テニアン、そしてサイパンの航空基地を順繰りに潰していく。
第五艦隊が保有する一二〇〇機を超える艦上機の推進力と突破力をもってすれば、それは十分に可能だ。
もちろん、こちらも相応の流血は必至だが、しかしその分は後方に控える護衛空母から輸血してもらえばいい。
これら護衛空母には自艦の防空用とそれに対潜哨戒用の機材を除くそのすべてが「エセックス」級空母乃至「インデペンデンス」級空母の予備機だ。
いずれにせよ、時間との戦いだ。
マリアナの基地航空隊と日本の機動部隊の戦力が糾合されれば、それこそ厄介極まりない。
だから、短期間でグアムとテニアン、それにサイパンの航空基地を無力化する必要がある。
そして、フレッチャー提督であれば、必ずそれをやり遂げてくれるはずだ。
日本の空母戦力については、これを概ね把握していた。
艦隊戦に使える空母は大小合わせて一四隻。
このうちで「エセックス」級空母とためを張れるのは四隻の「翔鶴」型空母と、あとはオマケで「赤城」と「加賀」くらいのものだろう。
残る八隻のうちでそれなりの戦力を持つものは「蒼龍」と「飛龍」だけで、残る六隻ははっきり言って有象無象の類だ。
そして、それら空母に搭載されている艦上機はどんなに多めに見積もっても九〇〇機には届かない。
なにより、機動部隊の屋台骨を支えるはずの戦闘機は、相も変わらず零戦のままだ。
F6Fに対しては同数でも不利なうえに、さらに数で劣っていてはさすがに勝ち目は無いだろう。
(不確定要素はカズヤ・イクサワの存在だ)
もともと、米海軍では山本五十六大将と、それに山口多聞大将の二人こそを、日本海軍における最高の指揮官としてマークしてきた。
だが、そのうちで山口大将のほうは、彼が中将であった頃に生起したミッドウェー海戦において戦死したことが分かっている。
残る山本大将のほうは、現在では海軍大臣を務めており、戦闘ではなく政治の舞台にその身を置いているから、今のところは取り立てて警戒する必要は無いと判断されていた。
だが、ここに第三の男とでも言うべき存在が現れた。
カズヤ・イクサワだ。
マーシャル沖海戦と珊瑚海海戦で、それぞれ当時の太平洋艦隊に煮え湯を飲ませ、さらに英国そのものを滅亡へと導いた男。
ミッドウェー海戦の英雄として全米から声望を集めるフレッチャー提督もまた、珊瑚海海戦ではカズヤ・イクサワに後れを取っている。
(それでも、あの時と今とでは条件が違う)
珊瑚海海戦のときは、米日ともにその戦力に大きな差は無かった。
しかし、今はこちらが圧倒している。
そして、珊瑚海海戦の敗北とミッドウェー海戦の勝利によってフレッチャー提督の経験値はカズヤ・イクサワに劣らぬものとなった。
(頼んだぞ、フレッチャー)
ハルゼー提督やスプルーアンス提督といった、名うての指揮官のそのことごとくを失った現在、頼れる者はフレッチャー提督を置いて他には無い。
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