征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
102 / 108
マリアナ決戦

第102話 手綱は緩めない

しおりを挟む
 「第一次攻撃隊は四五〇機前後のF6Fと交戦。このうちの八割以上を殲滅しました。実際、第二次攻撃隊の前に現れたF6Fのほうは五〇機あまりにしか過ぎなかったとのことですから、この戦果については概ね正確なものだとみて差し支えないでしょう」

 戦果を読み上げるのは志津頼中佐に代わって航空甲参謀になった和葉主税(かずは・ちから)中佐だった。
 和葉航空甲参謀は志津頼先任参謀の海兵二期後輩で、航空甲参謀になる前は「雲鶴」と「神鶴」から成る旧六航戦で航空参謀を務めていた。
 彼もまた、生沢長官のかつての部下だった。
 そのことで、航空甲参謀に就くにあたっては態度にこそ出さなかったものの、しかし内心ではゲンナリしていた。
 生沢長官の人使いの荒さを、それこそその身をもって知っていたからだ。
 そして、運の悪い彼は、かつての志津頼航空甲参謀と同じように、情報参謀や作戦参謀のような仕事まで押し付けられていた。

 「次に第二次攻撃隊の戦果ですが、こちらは九隻の『インデペンデンス』級空母と、それに一一隻の駆逐艦を撃沈しています。さらに、九隻の『エセックス』級空母を撃破し、七隻の駆逐艦もまた同じく撃破しています。これらは指揮官機ならびに接触維持任務にあたっている彗星搭乗員による二重のチェックを受けたものですので、その信憑性は高いものと判断できます」

 第二次攻撃隊の主力を務めた天山は、新兵器のイ号一型甲無線誘導弾を用いて米機動部隊を攻撃。
 それらに配備されていた一八隻の空母をすべて撃破した。
 さらに、このうちで小型の「インデペンデンス」級空母については、その全艦を撃沈するという快挙を成し遂げている。

 面白いのは、一航艦から四航艦までのすべての攻撃隊指揮官が駆逐艦には小隊単位で、空母には中隊単位でこれを攻撃させたことだった。
 どの指揮官も考えることは一緒だということだ。
 そして、その判断は、今回に限って言えば正しいものだと言えた。

 いずれにせよ、このことで駆逐艦には一発から三発、空母には五発から七発のイ号一型甲無線誘導弾が命中した。
 その中でも、特筆すべきは「エセックス」級空母のタフさだった。
 本来、三〇〇キロの炸薬を内包する一トン近い弾体を同時に五発以上被弾すれば、いかに新型正規空母といえども一隻や二隻は沈没していてもおかしくないはずだ。
 しかし、同級空母で沈没に至った艦は一隻も無く、さらにそのいずれもが鎮火に成功している。
 恐るべき被害応急能力の高さだと言えた。

 「『エセックス』級空母の状態についてはどうなっている」

 報告途中の和葉航空甲参謀に、生沢長官が口を差し挟む。

 「すべての艦が艦橋を盛大に破壊され、そのいずれもが平甲板型空母のような外見になっているそうです。また、これらはそのすべてが機関部、おそらくはボイラーをやられたために、現時点では極低速しか出せなくなっています。そしてこれら『エセックス』級空母を含む米機動部隊は南東へとその舳先を向けているとのことですから、おそらくはトラック島に避退しているものと思われます。
 なお、撃沈した一一隻の駆逐艦ですが、実際にイ号一型甲無線誘導弾で撃沈したものは五隻のみであり、残る六隻については米軍がこれを撃沈処分したものです。おそらく、航行不能に陥ったことで切り捨てられたのでしょう」

 一切のよどみなく答える和葉航空甲参謀に満足の意を示しつつ、生沢長官は報告を続けるよう促す。

 「七〇〇機を超える米艦上機隊を迎え撃った直掩隊ですが、こちらは敵の九割を撃墜したとのことです。ただ、接触維持にあたっている彗星からの報告によれば、合わせて一五〇機ほどの機体が戻ってきたそうですから、実際に撃墜したのは八割程度にとどまるものとみられます。ただし、取り逃がした一五〇機の米艦上機のほうはそのすべてが不時着水していますから、こちらはある意味において全滅させたと言えるかもしれません」

 六七二機にも及ぶ零戦から成る直掩隊は、F6Fヘルキャット戦闘機やSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機、それにTBFアベンジャー雷撃機を散々に打ちのめした。
 このことで、損害を被った友軍艦艇は一隻もなかった。
 そして、生還に成功した米艦上機のそのすべてが不時着水したということは、「エセックス」級空母はそのいずれもが艦上機の離発着能力を喪失しているということだ。
 つまりは、イ号一型甲無線誘導弾は艦橋を破壊しただけにとどまらず、飛行甲板にも少なくないダメージを与えていたことになる。

 「次にこちらの損害ですが、第一次攻撃隊は二九機の零戦が未帰還。第二次攻撃隊のほうは零戦が六機、天山のほうは七機が失われています。防空戦闘にあたった直掩隊のほうは六八機が未帰還となりましたが、一方で一七人の搭乗員が味方の艦載機によって救助されています」

 優勢に戦ったはずの第一次攻撃隊だったが、それでも一割を超える零戦がついに還ってこなかった。
 また、完璧に友軍艦艇を守り通したはずの直掩隊も、しかし同様に一割を超える機体を失った。
 ただし、こちらは少なくない搭乗員が救助されたことで、その分だけ人的ダメージが少なくて済んでいる。

 一方、第二次攻撃隊のほうは零戦が五パーセント、天山のほうは三パーセント強という損耗率だった。
 天山の被害がこの程度で済んだのは、もちろんイ号一型甲無線誘導弾によるおかげだ。
 狙われた米艦のほとんどは自分たちに向かってくるイ号一型甲無線誘導弾を墜とすことに躍起となり、そのことで天山に指向された対空火器はほとんど無かった。
 もし、これが従来の雷撃であったならば、その損害は大げさではなく一桁多いものになっていたことだろう。

 ただし、万事に素早い対応を見せる米軍であれば、天山を撃墜すればイ号一型甲無線誘導弾を無力化できることに、すでに気づいていると考えるべきだった。
 もし、次もまたイ号一型甲無線誘導弾で攻撃すれば、その時はとてもではないが三パーセント強の損耗で済むことは無いはずだ。

 「すぐに使える零戦、それに天山の数は分かるか」

 戦果と損害の報告を終えた和葉航空甲参謀に、生沢長官が早速とばかりに残存戦力についてその数を尋ねる。

 「零戦が七五五機、それに天山が一七三機です」

 戦闘開始当初に比べ、零戦の稼働率が七割を切っているのに対し、逆に天山のほうは八割を超えている。
 過去の艦隊決戦に比べて、攻撃後の艦攻の稼働率は異様とも言えるほどに高い。
 これまでであれば、一度の攻撃で艦爆や艦攻の稼働率が半減するのは当たり前で、時には三割を切ることさえあったのだ。

 和葉航空甲参謀が挙げた数字を元に、生沢長官はその脳内でそろばんを弾く。
 可能性は極めて低いが、それでも敵の新手の出現に備えて各空母ともに一個中隊の零戦を残す。

 さらに、乙一もそのままにはしておけないので、それなりの数の爆装零戦を投入しなければならない。
 こちらは「大鳳」型空母と、それに「翔鶴」型空母からそれぞれ二個中隊を充てることにする。

 そうなれば、敵機動部隊への攻撃に投入できるのは零戦が三四七機に天山が一七三機となる。
 そうであれば、敵の一個機動部隊に対して、合わせて一三〇機前後の零戦と天山を差し向けることができる。

 一機艦には他に、対艦攻撃力を持つ機体として一五機の彗星と一八機の九七艦攻がある。
 しかし、彗星のほうは交代で接触維持任務にあたっているから、当然のこととして同機体は使えない。
 また、九七艦攻のほうも対潜哨戒任務から外すわけにもいかないから、こちらもまた攻撃任務に使うわけにはいかなかった。

 「零戦については、上空直掩として各空母ともに一個中隊を残す。また、『大鳳』型空母と『翔鶴』型空母については、直掩隊とは別にさらに二個中隊を編成し、これらを乙一の攻撃に充てる。残る零戦とそれに天山のほうは、引き続き米機動部隊を攻撃するものとする」

 零戦のほうは二一六機が直掩任務にあたり、別の一九二機が乙一を攻撃。
 そして、残る三四七機が甲一から甲四までの機動部隊を叩く。
 天山については、そのすべてを米機動部隊にぶつける。

 生沢長官が示した攻撃配分に、異を唱える者はいなかった。
 そのことで第三次攻撃の実施が決定される。

 一機艦の全艦にそのことが伝達され、準備が開始される。
 すべての敵空母を撃沈破したことで、すでに勝負は決した。
 それでも、生沢長官は攻撃の手綱を緩めるつもりは無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...