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マリアナ決戦
第103話 戦闘爆撃機
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乙一と呼称される米水上打撃部隊に対し、こちらは零戦に爆弾を装備したうえでこれを攻撃することとされた。
その戦力として「大鳳」型空母それに「翔鶴」型空母から二個中隊の零戦が出撃したが、それらはいずれも第三中隊ならびに第四中隊で編成されていた。
最も腕の立つ第一中隊とそれに第二中隊については、こちらは米機動部隊を攻撃することになっている。
乙一を目標とする攻撃隊には、一九二機の零戦とは別に四機の彩雲が同道していた。
このうち、二機が指揮管制ならびに航法支援、残る二機は戦果確認にあたる。
当然のこととして、弓削中尉率いる「大鳳」第四中隊もまた、これら攻撃隊の一翼を担っていた。
その「大鳳」第四中隊は第一次攻撃で九機のF6Fを撃墜する一方で、第三小隊の四番機を失っていた。
第三小隊長の槍田上飛曹によれば、四番機の楯川二飛曹は上空から突如として降りかかってきたF6Fの射弾をまともに浴び、それが致命傷になったとのことだった。
数百機が混交する空中戦であれば、前後左右だけでなく上からの撃ち降ろしやあるいは下からの突き上げにもさらされる。
神ならぬ人の身でそのすべてを躱し切ることは不可能だ。
だからこそ、零戦は代を重ねるごとに防弾装備を強化していった。
だが、それでも限界はある。
だから、無念ではあるものの、それでも楯川二飛曹の戦死は仕方が無いとあきらめるしかなかった。
それと、第一小隊四番機と第二小隊三番機は、ともに被弾していたことで出撃を見合わせている。
搭乗員のほうは飛行が可能だから出撃すると言い張ったのだが、しかしこちらは弓削中尉とそれに飛行長が許可しなかった。
現状は圧倒的に優勢なのだから、無理を押して出撃するような状況ではないという判断からだ。
弓削中尉だけであればともかく、雲の上の中佐にまでダメだと言われては、二人の搭乗員も引き下がるしかなかった。
これら三人の抜けた穴については、他の中隊から補充がなされていた。
第四中隊に臨時に組み込まれたのは第五中隊と第六中隊、それに第七中隊から送られてきた一人の上飛曹とそれに二人の一飛曹だった。
下士官については個人差はあるものの、それでも一般的には二飛曹よりも一飛曹、そして一飛曹よりも上飛曹のほうが技量が上だ。
つまり、他の三個中隊は第四中隊に対してそれなりに腕の立つ者をよこしてくれたということだ。
そのようなことを思い出している弓削中尉の耳に、一航戦ならびに二航戦の指揮管制を担当する彩雲から指示が入ってくる。
「接触維持任務にあたっている彗星からの報告によれば、乙一は中央に四隻の巡洋艦とそれにその後方に二隻の戦艦。さらにその右翼と左翼にそれぞれ八隻の駆逐艦が単縦陣を形成しているとのことだ。これらのうち、一航戦と二航戦は右翼に展開する駆逐艦を叩く。
これより目標を指示する。『大鳳』隊一、二番艦。『白鳳』隊三、四番艦。『天鳳』隊五、六番艦。『海鳳』隊七、八番艦。敵対空砲火の分散を図るため、各隊ともに同時攻撃とする」
自分たちの目標は右に位置する駆逐艦列の前から二番目だ。
そのことを頭に刻み込みつつ、弓削中尉は三番機の矢野一飛曹に自分とポジションチェンジをするよう命令する。
そのことで、弓削中尉が三番機の位置に下がり、矢野一飛曹のほうは編隊の先頭に立つ。
指揮管制官は同時攻撃といったが、それは中隊単位の話だ。
実際の攻撃は三個小隊が順次攻撃、つまりは波状攻撃のような形になる。
そして、攻撃に際しては小隊の中で最も爆撃技量に優れた者が嚮導機となって他の三機を引っ張るものとされていた。
そして、第一小隊の中で最も爆撃技量に優れているのが、なぜか弓削中尉ではなく矢野一飛曹だった。
一方、第二小隊とそれに第三小隊のほうは、それぞれ剣持上飛曹と槍田上飛曹が嚮導機を務めるから、こちらのほうが当たり前だと言えた。
ただ、そのことを弓削中尉が気にすることはなかった。
おそらく、矢野一飛曹には爆撃に対するセンス、つまりは天賦の才能が有るのだ。
ならば、それを活用しない手はない。
変なプライドよりも実利を優先する。
そこらあたりは、海兵出ではない兵上がりの弓削中尉だからこその割り切りかもしれなかった。
弓削中尉と矢野一飛曹がそれぞれの位置を交代してほどなく、指揮管制官より突撃態勢をつくれとの新たなる命令が下される。
少し以前であれば「トツレ」の電文が飛び込んでくるのだが、しかし今は明瞭な音声によるそれだ。
どちらが良いかなどは、考えるまでもない。
命令から少し後、米水上打撃部隊の姿が搭乗員らの目に映り込んでくる。
五個ある艦隊のうちの殿の位置。
つまりは、機動部隊の盾となるつもりなのだろう。
ここで、一九二機の零戦は二手に分かれる。
一航戦と二航戦は右、三航戦と四航戦は左へとその機首を向ける。
逆に米水上打撃部隊から見れば、この動きは自分たちを挟撃するように見えているはずだ。
「全機、突撃せよ!」
これまでの平坦な声音とは一転、指揮管制官のけしかけるような大音声が搭乗員らの耳朶を打つ。
同時に、右翼に展開する二番艦に向けて矢野一飛曹が降下を開始する。
降下角度は三〇度とされているが、しかし体感としては垂直に近いものを感じる。
一方、米駆逐艦のほうは両用砲や機関砲、それに機銃を総動員して零戦を撃ち墜とそうと躍起になる。
しかし、僚艦の支援を受けにくい外郭に位置しているうえに、前後の艦も自身が狙われているから、他艦を助けている余裕など無い。
いかに米駆逐艦の対空能力が優れているとは言っても、単艦ではさすがに限界がある。
「撃てっ!」
矢野一飛曹の気迫の込もった声が耳に飛び込んできた瞬間、弓削中尉は間髪入れずに爆弾を投下する。
他の二人の搭乗員もまた同様だ。
零戦五三型の両翼のハードポイントから二五番が切り離される。
四機合わせて八発の二五番が二番艦の周囲に降り注ぎ、七本の水柱とそれに一本の爆煙をわき上がらせる。
わずかな時間差を置き、第二小隊と第三小隊がこれに続く。
こちらはそれぞれ二発の命中を得る。
第二小隊とそれに第三小隊が第一小隊よりも成績が良いのは、相手の動きが鈍ったか、あるいは第一小隊の着弾状況を見て風向きや風速のパラメーターを投弾のそれに組み込むことができたからだろう。
いずれにせよ、装甲皆無の駆逐艦が二五番を、しかもそれを同時に五発も叩き込まれてはさすがにもたない。
一方で、第四中隊のほうは被弾機こそ生じたものの、それでも失われた機体は一機も無かった。
引き起こしの必要が無く、そのことで敵艦上空を高速航過できる緩降下爆撃だったからだろう。
逆にダイブブレーキを効かせつつ、低速で目標に肉薄する急降下爆撃であれば、何機かは討ち取られていたかもしれない。
それと、敵艦が孤立無援の状態であったことも大きかったはずだ。
「凄いな」
敵艦隊の対空砲火の射程圏を抜け、さらに矢野一飛曹とポジションを交代して一番機の位置に戻った弓削中尉が小さくつぶやく。
海上には一六本の煙が立ち上っていた。
左翼の駆逐艦列を攻撃した三航戦とそれに四航戦もまた、自分たちに負けず劣らずの戦果を挙げたのだろう。
それらの中には大爆発を起こすものもある。
こちらは、おそらくは魚雷か爆雷に火が入ったのだろう。
いずれにせよ、弓削中尉が見た限りでは助かりそうな駆逐艦は一隻も無かった。
対艦攻撃が本職ではない一六個の戦闘機中隊が、それこそ瞬く間に一六隻の駆逐艦、つまりは一個水雷戦隊を葬ってしまったのだ。
(あるいは、これからの戦闘機乗りは空戦が上手なだけではやっていけないのかもしれん)
これまでは、戦闘機乗りはただひたすらに敵機を撃墜すればよかった。
しかし、戦闘機の急激とも言える爆装能力の向上に対し、帝国海軍の上層部がこれに目をつけないはずがない。
(うかうかしてられんな)
これからの戦闘機乗りは空中戦はもちろん、爆撃技量もまたこれを強く求められることになるだろう。
そして、その両方が出来て初めて一人前とみなされる。
そんな時代が、もうすでに目前にまで迫ってきている。
戦闘機の今後の趨勢を理解した弓削中尉は、人知れず気を引き締め直した。
その戦力として「大鳳」型空母それに「翔鶴」型空母から二個中隊の零戦が出撃したが、それらはいずれも第三中隊ならびに第四中隊で編成されていた。
最も腕の立つ第一中隊とそれに第二中隊については、こちらは米機動部隊を攻撃することになっている。
乙一を目標とする攻撃隊には、一九二機の零戦とは別に四機の彩雲が同道していた。
このうち、二機が指揮管制ならびに航法支援、残る二機は戦果確認にあたる。
当然のこととして、弓削中尉率いる「大鳳」第四中隊もまた、これら攻撃隊の一翼を担っていた。
その「大鳳」第四中隊は第一次攻撃で九機のF6Fを撃墜する一方で、第三小隊の四番機を失っていた。
第三小隊長の槍田上飛曹によれば、四番機の楯川二飛曹は上空から突如として降りかかってきたF6Fの射弾をまともに浴び、それが致命傷になったとのことだった。
数百機が混交する空中戦であれば、前後左右だけでなく上からの撃ち降ろしやあるいは下からの突き上げにもさらされる。
神ならぬ人の身でそのすべてを躱し切ることは不可能だ。
だからこそ、零戦は代を重ねるごとに防弾装備を強化していった。
だが、それでも限界はある。
だから、無念ではあるものの、それでも楯川二飛曹の戦死は仕方が無いとあきらめるしかなかった。
それと、第一小隊四番機と第二小隊三番機は、ともに被弾していたことで出撃を見合わせている。
搭乗員のほうは飛行が可能だから出撃すると言い張ったのだが、しかしこちらは弓削中尉とそれに飛行長が許可しなかった。
現状は圧倒的に優勢なのだから、無理を押して出撃するような状況ではないという判断からだ。
弓削中尉だけであればともかく、雲の上の中佐にまでダメだと言われては、二人の搭乗員も引き下がるしかなかった。
これら三人の抜けた穴については、他の中隊から補充がなされていた。
第四中隊に臨時に組み込まれたのは第五中隊と第六中隊、それに第七中隊から送られてきた一人の上飛曹とそれに二人の一飛曹だった。
下士官については個人差はあるものの、それでも一般的には二飛曹よりも一飛曹、そして一飛曹よりも上飛曹のほうが技量が上だ。
つまり、他の三個中隊は第四中隊に対してそれなりに腕の立つ者をよこしてくれたということだ。
そのようなことを思い出している弓削中尉の耳に、一航戦ならびに二航戦の指揮管制を担当する彩雲から指示が入ってくる。
「接触維持任務にあたっている彗星からの報告によれば、乙一は中央に四隻の巡洋艦とそれにその後方に二隻の戦艦。さらにその右翼と左翼にそれぞれ八隻の駆逐艦が単縦陣を形成しているとのことだ。これらのうち、一航戦と二航戦は右翼に展開する駆逐艦を叩く。
これより目標を指示する。『大鳳』隊一、二番艦。『白鳳』隊三、四番艦。『天鳳』隊五、六番艦。『海鳳』隊七、八番艦。敵対空砲火の分散を図るため、各隊ともに同時攻撃とする」
自分たちの目標は右に位置する駆逐艦列の前から二番目だ。
そのことを頭に刻み込みつつ、弓削中尉は三番機の矢野一飛曹に自分とポジションチェンジをするよう命令する。
そのことで、弓削中尉が三番機の位置に下がり、矢野一飛曹のほうは編隊の先頭に立つ。
指揮管制官は同時攻撃といったが、それは中隊単位の話だ。
実際の攻撃は三個小隊が順次攻撃、つまりは波状攻撃のような形になる。
そして、攻撃に際しては小隊の中で最も爆撃技量に優れた者が嚮導機となって他の三機を引っ張るものとされていた。
そして、第一小隊の中で最も爆撃技量に優れているのが、なぜか弓削中尉ではなく矢野一飛曹だった。
一方、第二小隊とそれに第三小隊のほうは、それぞれ剣持上飛曹と槍田上飛曹が嚮導機を務めるから、こちらのほうが当たり前だと言えた。
ただ、そのことを弓削中尉が気にすることはなかった。
おそらく、矢野一飛曹には爆撃に対するセンス、つまりは天賦の才能が有るのだ。
ならば、それを活用しない手はない。
変なプライドよりも実利を優先する。
そこらあたりは、海兵出ではない兵上がりの弓削中尉だからこその割り切りかもしれなかった。
弓削中尉と矢野一飛曹がそれぞれの位置を交代してほどなく、指揮管制官より突撃態勢をつくれとの新たなる命令が下される。
少し以前であれば「トツレ」の電文が飛び込んでくるのだが、しかし今は明瞭な音声によるそれだ。
どちらが良いかなどは、考えるまでもない。
命令から少し後、米水上打撃部隊の姿が搭乗員らの目に映り込んでくる。
五個ある艦隊のうちの殿の位置。
つまりは、機動部隊の盾となるつもりなのだろう。
ここで、一九二機の零戦は二手に分かれる。
一航戦と二航戦は右、三航戦と四航戦は左へとその機首を向ける。
逆に米水上打撃部隊から見れば、この動きは自分たちを挟撃するように見えているはずだ。
「全機、突撃せよ!」
これまでの平坦な声音とは一転、指揮管制官のけしかけるような大音声が搭乗員らの耳朶を打つ。
同時に、右翼に展開する二番艦に向けて矢野一飛曹が降下を開始する。
降下角度は三〇度とされているが、しかし体感としては垂直に近いものを感じる。
一方、米駆逐艦のほうは両用砲や機関砲、それに機銃を総動員して零戦を撃ち墜とそうと躍起になる。
しかし、僚艦の支援を受けにくい外郭に位置しているうえに、前後の艦も自身が狙われているから、他艦を助けている余裕など無い。
いかに米駆逐艦の対空能力が優れているとは言っても、単艦ではさすがに限界がある。
「撃てっ!」
矢野一飛曹の気迫の込もった声が耳に飛び込んできた瞬間、弓削中尉は間髪入れずに爆弾を投下する。
他の二人の搭乗員もまた同様だ。
零戦五三型の両翼のハードポイントから二五番が切り離される。
四機合わせて八発の二五番が二番艦の周囲に降り注ぎ、七本の水柱とそれに一本の爆煙をわき上がらせる。
わずかな時間差を置き、第二小隊と第三小隊がこれに続く。
こちらはそれぞれ二発の命中を得る。
第二小隊とそれに第三小隊が第一小隊よりも成績が良いのは、相手の動きが鈍ったか、あるいは第一小隊の着弾状況を見て風向きや風速のパラメーターを投弾のそれに組み込むことができたからだろう。
いずれにせよ、装甲皆無の駆逐艦が二五番を、しかもそれを同時に五発も叩き込まれてはさすがにもたない。
一方で、第四中隊のほうは被弾機こそ生じたものの、それでも失われた機体は一機も無かった。
引き起こしの必要が無く、そのことで敵艦上空を高速航過できる緩降下爆撃だったからだろう。
逆にダイブブレーキを効かせつつ、低速で目標に肉薄する急降下爆撃であれば、何機かは討ち取られていたかもしれない。
それと、敵艦が孤立無援の状態であったことも大きかったはずだ。
「凄いな」
敵艦隊の対空砲火の射程圏を抜け、さらに矢野一飛曹とポジションを交代して一番機の位置に戻った弓削中尉が小さくつぶやく。
海上には一六本の煙が立ち上っていた。
左翼の駆逐艦列を攻撃した三航戦とそれに四航戦もまた、自分たちに負けず劣らずの戦果を挙げたのだろう。
それらの中には大爆発を起こすものもある。
こちらは、おそらくは魚雷か爆雷に火が入ったのだろう。
いずれにせよ、弓削中尉が見た限りでは助かりそうな駆逐艦は一隻も無かった。
対艦攻撃が本職ではない一六個の戦闘機中隊が、それこそ瞬く間に一六隻の駆逐艦、つまりは一個水雷戦隊を葬ってしまったのだ。
(あるいは、これからの戦闘機乗りは空戦が上手なだけではやっていけないのかもしれん)
これまでは、戦闘機乗りはただひたすらに敵機を撃墜すればよかった。
しかし、戦闘機の急激とも言える爆装能力の向上に対し、帝国海軍の上層部がこれに目をつけないはずがない。
(うかうかしてられんな)
これからの戦闘機乗りは空中戦はもちろん、爆撃技量もまたこれを強く求められることになるだろう。
そして、その両方が出来て初めて一人前とみなされる。
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