征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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マリアナ決戦

第105話 悪徳商人か奪略者か

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 「第三次攻撃隊のうちで、乙一に向かった艦戦隊は一六隻の駆逐艦を攻撃。そのすべてを撃沈しました。また、甲一から甲四までの四個機動部隊を相手取った艦戦隊ならびに艦攻隊のほうは九隻の『エセックス』級空母と八隻の巡洋艦、それに三一隻の駆逐艦を撃沈しています。
 このことで、乙一には戦艦二隻と巡洋艦が四隻、甲一から甲四までの機動部隊には合わせて七隻の駆逐艦が残存するのみとなっています。このうち、駆逐艦についてはそのすべてが一発以上の二五番を被弾しております」

 第一機動艦隊は第三次攻撃隊として、乙一と呼称される水上打撃部隊には一九二機の零戦を、さらに甲一から甲四までの機動部隊には三四七機の零戦とそれに一七三機の天山をその刺客として差し向けた。
 第二次攻撃隊によってすでに半身不随の状態となっていた太平洋艦隊に対し、第三次攻撃隊は容赦の無い猛撃を加え、もはやダメ押しと言っていいほどの打撃を与えた。

 「敵の残存艦艇の動きはどうなっている」

 戦果を読み上げる和葉航空甲参謀に、生沢長官が最も気になっていることを尋ねる。

 「接触中の彗星からの報告によりますと、敵の残存艦艇はそのすべてが現海域にとどまり、沈没した友軍艦艇の乗組員の救助にあたっているとのことです」

 溺者救助は海戦にはつきものだが、しかしこれを実際に行うのは駆逐艦のような小回りの効く軽快艦艇だ。
 間違っても戦艦の仕事ではない。
 しかし、その駆逐艦が払底した以上は、背に腹は代えられないのだろう。
 そして、海に投げ出されたであろう将兵に対し、残存艦艇の数はあまりにも少ない。
 救助活動には相当な時間を要するだろう。

 状況を理解した生沢長官が小さく頷く。
 そのことで、和葉航空甲参謀が報告を再開する。

 「次に友軍の損害ですが、乙一にあたった零戦のほうは九機。一方、甲一から甲四までを攻撃した部隊については、一七機の零戦とそれに一八機の天山が未帰還となっております」

 弱敵の米駆逐艦を攻撃した零戦は五パーセント弱の損耗率だったのに対し、空母や巡洋艦を相手取った天山のほうはそれが一〇パーセントを超えてしまった。
 天山については、第二次攻撃の時はそれが三パーセント強だったから、逆に言えば米軍の対応の素早さが際立っているとも言えた。
 それでも、雷撃に比べれば被害は少ないと言える。
 しかし、それでも決して無視していい数字ではない。

 「零戦と、それに天山について、すぐに使える機体はどれくらいある」

 生沢長官が端的に尋ねる。
 最も重要なことだからこそ、無駄な言葉は必要ない。

 「零戦は五三六機、天山のほうは八五機です。修理を施せば使える機体は増えるはずですが、その数についてはまだ把握できておりません」

 戦闘開始当初に比べて零戦は五割、天山のほうは四割以下にまでその数を減じてしまった。
 それでも二隻の戦艦と四隻の巡洋艦、それに深手を負った七隻の駆逐艦を沈めるには十分な戦力だろう。
 そして、データの収集とその分析に秀でた米軍であれば、これまでの戦いからこちらの手持ち戦力をかなり正確に把握しているはずだ。

 (だからこそ、米戦艦は避退よりも仲間の救助を優先した)

 二隻の米戦艦はその特徴的な艦型から、そのいずれもが新型高速戦艦だということが分かっている。
 情報部門によると、同戦艦は三三ノットの速度性能を持ち合わせているとのことだった。
 にわかには信じがたい話だが、しかし優れた機関技術を持つ米国であれば、それは十分にクリアできるハードルなのだろう。
 それでも、船と飛行機ではその速度差は圧倒的だ。
 おそらく、敵の指揮官は新型高速戦艦の脚をもってしてもこちらの艦上機から逃れることは出来ないと考えたのだろう。
 そして、その判断は正しいと生沢長官も思う。

 「他に何かあるか」

 戦果と損害、それに敵の残存戦力とこちらの使用可能兵力は理解した。
 それでも、何か抜けがあるかもしれない。
 情報に対しては常に慎重な姿勢を崩さない生沢長官は、和葉航空甲参謀に重ねて尋ねる。

 「『蒼龍』と『飛龍』についてはイ号一型甲無線誘導弾の在庫が払底しかかっています。両空母にはそれぞれ七機の使用可能な天山が残っています。これら機体については、日没までに在庫に余裕がある空母に移動させたほうがよろしいかと思います」

 「蒼龍」と「飛龍」は細身の船体に巨大な格納庫と大出力エンジンを搭載したことで逆に爆弾搭載能力や魚雷調整能力が低く、航空燃料の搭載量も危険なくらいに少なかった。
 また、自身の航続性能も低いことで補給計画が立てにくく、つまりは参謀泣かせの艦でもあった。

 「了解した。『蒼龍』一中隊の機体は一航戦、同二中隊は二航戦、『飛龍』一中隊は三航戦、それに同二中隊は四航戦に一時移動してもらうこととする」

 現状、八五機しか使えない天山であれば一機でも欠けるのは痛い。
 それが一四機もあればなおさらだ。
 その連絡と手配を通信参謀に依頼しつつ、生沢長官は志津頼先任参謀にその視線を向ける。

 「今後についてはどう考える」

 あまりにもざっくりとした生沢長官の問いかけに、しかし志津頼先任参謀のほうは慣れたものだった。

 「今日は午前中に第一次攻撃と第二次攻撃、午後には第三次攻撃を実施しました。この結果、搭乗員はそのいずれもが披露困憊です。ですので、夜間接触維持の任務に着く者以外はさっさと休ませたほうが良いでしょう。それと、まさかとは思いますが、薄暮攻撃や夜間攻撃を企図しているといったようなことはないですよね」

 そう言って、志津頼先任参謀が決して上官に向けてはならない表情で生沢長官を見据える。

 「貴官は私を鬼かなにかだと勘違いしておらんか? そのような真似をするわけがなかろう」

 そう言って、生沢長官が証拠だとばかりに、今すぐに搭乗員を休ませるよう航空乙参謀に指示する。
 一方の志津頼先任参謀は胸中で生沢長官に毒づいている。
 これまで、こちらを馬車馬のごとくこき使ってくれていた御仁が何を言っているのかと、そう思いながら。
 しかし、そんなことはおくびにも出さず、志津頼先任参謀が自身の考えを開陳する。

 「いまだに溺者救助をやっているということは、もはや我々から逃げる意志はないものと思われます。なので、まずは降伏勧告ですね。戦争ですから、手続きは大事です。まあ、敵の動きを見る限りでは、降伏するつもりなのは間違いないでしょう。ただ、万一ということもあります。夜間接触維持の機体には、二隻の戦艦の動きは特に注意するよう念押しすべきです。
 それと、気がかりというほどのものではないのですが、それでもサイパンとそれにテニアンを襲った旧式戦艦の存在は考慮に入れておくべきでしょう。もちろん、一八隻の空母を沈めた相手に数隻の旧式戦艦で突撃を仕掛けてくるような真似はさすがにしないとは思いますが」

 夜間接触維持には索敵を担当した彩雲が交代でこれに当たることになっていた。
 しかも、搭乗員は夜間飛行を苦にしない超の付く熟練ペアのみでこれを実施する。
 そんな彼らであれば、何か異変があったとしても適切に対応してくれるはずだ。

 「たぶん貴官の考える通りだろう。無傷を維持しているのが二隻の戦艦とそれに四隻の巡洋艦しかなく、そのうえ大勢の溺者を抱えていれば、それこそまともな戦闘など出来たものではないからな。
 それと、貴官が指摘した敵の旧式戦艦については、もしこれが出現した場合は第一艦隊に対応してもらうことにしよう。もし、仮に敵が第一艦隊よりも優勢であった場合は、その時は機動部隊から『金剛』型戦艦と重巡を応援に出せばいいし、状況次第では零戦と天山にこれを叩かせてもいい」

 生沢長官の言葉に、志津頼先任参謀はつくづく戦は数だなと思う。
 数があればその分だけ取り得る選択肢の幅も広がる。
 実際、敵の機動部隊とやり合った直後でさえ、一機艦がこれほど多くのオプションを持ち得ているのはひとえに数、つまりは戦力の多さからだ。

 (だからと言って、生沢長官は数ばかりを気にしているわけではない。質もまた、同じくらいに重視している)

 生沢長官が最後まで新型戦艦に手を出さなかった理由を志津頼先任参謀は理解している。
 長官は、最初から新型戦艦を分捕るつもりでいたのだ。
 その新型戦艦は最先端技術の宝の山と言ってもいい存在だ。
 中でも電子戦装備は、是非ともこれを手に入れておきたいところだろう。

 (あるいは、生沢長官にとっては勝つのは当たり前で、むしろ米軍の技術を奪い取ることを最優先に考えていたのではないか)

 そこに考えが至った時、志津頼先任参謀は欧州遠征の当時を思い出す。
 あの時、生沢長官はドイツや英国の技術を貪欲に取り込んでいった。
 実際、それは航空管制やイ号一型甲無線誘導弾といった形で結実している。

 (今回もまた、同じか)

 志津頼先任参謀は生沢長官に対して呆れにも似た感情を覚えている。
 彼の発想は指揮官というよりも、むしろ悪徳商人や奪略者のそれに近い。
 使える技術であれば、敵味方を問わずそれを毟り取ろうとする。
 あるいは、相手を倒すことよりも、奪い取ることを優先して考える。
 まったくもって軍人らしくない。

 だが、その彼が獲得した技術のおかげで自分たちは勝ち戦の中に身を置くことができている。
 もし、英国製のソナーや聴音機、それにヘッジホッグが無ければ、あるいは「大鳳」や「翔鶴」は米潜水艦に撃沈されていたかもしれない。
 ドイツから技術を導入したイ号一型甲無線誘導弾があればこそ、太平洋艦隊を一方的に撃滅することがかなった。

 (まだまだ敵わないな)

 そう思いつつ、志津頼先任参謀は生沢長官の話に耳を傾ける。
 その生沢長官の口からは、最後の仕上げに関する命令が紡がれていた。
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