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第二次ミッドウェー海戦
第29話 見えざる深手
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挑発めいた予告状や、あるいは連合艦隊司令長官の山本大将自らが囮になるなど、奇策が多かったMI作戦だったが、しかし予想以上の成果をもってこれを終了する運びとなった。
第一航空艦隊と第二航空艦隊、それに第三航空艦隊と第一艦隊は太平洋艦隊それにミッドウェー基地に対して痛撃を与えた。
連合艦隊は太平洋艦隊を相手に一度に四隻もの空母を葬るという快挙を成し遂げたのだ。
それ以外の戦果も大きかった。
四隻の空母の護衛にあたっていた八隻の巡洋艦とそれに一四隻の駆逐艦を撃沈した。
一方で、二隻の駆逐艦を取り逃がしてしまったが、しかし戦場においてパーフェクトゲームを期待するのは酷が過ぎるというものだろう。
なにより大きかったのは、日本側のほうで失われた艦が一隻も無いという事実だった。
このことが、米海軍に大きな衝撃を与えていることは間違いのないところだろう。
ただ、日本側も複数の艦艇が損傷したり、あるいは少なくない艦上機を失ったりするなど、相応のダメージは被っている。
しかし、それでも米側の被害に比べれば、軽微とは言えないまでもかなりマシなレベルであることもまた事実だった。
当然のこととしてミッドウェー海戦の戦捷は、いち早く国民に告知されていた。
マーシャル沖海戦、それにインド洋海戦に続く大勝利に日本国中は沸きに沸いている。
また、同盟国のドイツやイタリアからも祝電が相次いでいる。
その最中、連合艦隊司令長官の山本大将は海軍大臣の嶋田大将からの呼び出しを受けて海軍省に出頭していた。
「ミッドウェーでの囮役、まことにご苦労だったな。お前が米機動部隊を誘引、撃滅してくれたおかげで本土の安全性も飛躍的に高まった。関係者らは皆、枕を高くして寝ることが出来ると喜んでいる」
上機嫌の嶋田大臣が山本長官の活躍を寿ぐ。
海軍の重鎮として、B25による帝都爆撃には心を痛めていた当事者の一人だったせいか、その言葉には実感が込もっていた。
「確かに、我々は四隻の米空母を撃沈した。これで残っているのは『レンジャー』一隻のみとなったから、母艦航空戦力の格差は決定的だ。ただ、このアドバンテージも長くはもたん。貴様も知っているだろうが、早ければ年末、遅くとも年明け早々には米軍の新型空母が完成する。この空母は『ヨークタウン』級をも凌ぐ大型空母なのだそうだ。もし、この空母の数が揃いだしたら、それこそ我々の勝機は皆無となる」
あと半年ほどで始まる米海軍の新型空母の竣工ラッシュ。
それは、二大洋艦隊整備法案に基づくものであり、確定事項だ。
同法案によれば、昭和一八年と一九年にそれぞれ三隻、さらに昭和二〇年以降に五隻の新型空母が整備されるものとしている。
しかし、開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦で米軍は空母とその艦上機が持つ威力を実感したはずだ。
だから、新型空母の建造ペースは加速はされても鈍ることは決して無い。
そして、米国の工業力を考えれば、新型空母の竣工は大幅に前倒しされると考えるべきだった。
また、追加建造も多数にのぼることだろう。
そして、そのことに対して山本長官は憂慮の念を抱いている。
「米国と事を構えるにあたっては、短期決戦早期和平しかない。それが貴様の持論だったな。しかし、現状を考えればそれは無理な話だろう」
嶋田大臣の言わんとしていることは、山本長官にも理解できた。
海軍大臣は軍政を司るとともに、人事についてもまたその職掌としている。
そして、嶋田大臣はその人事から帝国海軍の問題点を読み取ることが出来た。
「搭乗員の損耗だな」
山本長官の短い指摘に、嶋田大臣が小さくうなずきつつ話を続ける。
「その通りだ。開戦以降、我々は勝利を続けている。これは紛れもない事実だ。しかし、その一方で搭乗員の損耗は深刻だ。一般将兵と比べた場合、搭乗員の死傷率は大げさではなく一桁多い。特に艦爆ならびに艦攻の搭乗員のそれは深刻だ。戦前に入念な訓練を受けたベテラン、そのうちのすでに半数近くを失っている」
マーシャル沖海戦やインド洋海戦、それにミッドウェー海戦で連合艦隊が勝利を挙げることができたのは、ひとえに空母とその艦上機隊のおかげだ。
彼らの働きがあったからこそ、連合艦隊は連勝街道をひた走ることがかなった。
しかし、その原動力ともいえる艦上機隊に暗雲が広がっている。
各空母の艦爆隊それに艦攻隊では名人や達人、あるいは神様と呼ばれる准士官や下士官が相次いで戦死し、また少佐や大尉といった将来の海軍航空を担うはずの幹部搭乗員も相当数失われている。
このままではジリ貧というか、むしろすでに崖っぷちに立たされていると言ってもよかった。
「俺はこの秋にはハワイへ殴り込みに行くつもりだった」
自身の考えを吐露する山本長官に、嶋田大臣は口を挟まず次の言葉を待つ。
「だが、それが無理なことは承知している。確かに空母とそれに載せる艦上機に不足は無い。だが、搭乗員がいなければ、それらはただの張り子の虎にしか過ぎん」
帝国海軍では空母の増勢が進んでいる。
最近では建造途中で空母へと改造された「日進」が就役を果たし、さらに来月には貨客船を改造した「飛鷹」が竣工する予定だ。
また、南方地域からの資源輸送が順調なこともあり、艦上機の生産も捗っている。
だが、肝心の搭乗員が決定的に不足している。
開戦前に教育態勢を拡充したことで頭数だけは揃っているのだが、しかし一定技量の水準に達している者に限って言えば、現状は明らかに足りていない。
特に狭い飛行甲板に離発着可能な人材は、その不足が著しい。
もし、マーシャル沖海戦以降に「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」が搭乗員養成の任務を放棄して作戦行動に終始していたとすれば、状況はさらに悲惨なものになっていたことだろう。
「帝国海軍がもっと早く航空主兵に移行してくれていればなあ」
ボヤくような口調の山本長官に、嶋田大臣としては同意の首肯を返すしかなかった。
第一航空艦隊と第二航空艦隊、それに第三航空艦隊と第一艦隊は太平洋艦隊それにミッドウェー基地に対して痛撃を与えた。
連合艦隊は太平洋艦隊を相手に一度に四隻もの空母を葬るという快挙を成し遂げたのだ。
それ以外の戦果も大きかった。
四隻の空母の護衛にあたっていた八隻の巡洋艦とそれに一四隻の駆逐艦を撃沈した。
一方で、二隻の駆逐艦を取り逃がしてしまったが、しかし戦場においてパーフェクトゲームを期待するのは酷が過ぎるというものだろう。
なにより大きかったのは、日本側のほうで失われた艦が一隻も無いという事実だった。
このことが、米海軍に大きな衝撃を与えていることは間違いのないところだろう。
ただ、日本側も複数の艦艇が損傷したり、あるいは少なくない艦上機を失ったりするなど、相応のダメージは被っている。
しかし、それでも米側の被害に比べれば、軽微とは言えないまでもかなりマシなレベルであることもまた事実だった。
当然のこととしてミッドウェー海戦の戦捷は、いち早く国民に告知されていた。
マーシャル沖海戦、それにインド洋海戦に続く大勝利に日本国中は沸きに沸いている。
また、同盟国のドイツやイタリアからも祝電が相次いでいる。
その最中、連合艦隊司令長官の山本大将は海軍大臣の嶋田大将からの呼び出しを受けて海軍省に出頭していた。
「ミッドウェーでの囮役、まことにご苦労だったな。お前が米機動部隊を誘引、撃滅してくれたおかげで本土の安全性も飛躍的に高まった。関係者らは皆、枕を高くして寝ることが出来ると喜んでいる」
上機嫌の嶋田大臣が山本長官の活躍を寿ぐ。
海軍の重鎮として、B25による帝都爆撃には心を痛めていた当事者の一人だったせいか、その言葉には実感が込もっていた。
「確かに、我々は四隻の米空母を撃沈した。これで残っているのは『レンジャー』一隻のみとなったから、母艦航空戦力の格差は決定的だ。ただ、このアドバンテージも長くはもたん。貴様も知っているだろうが、早ければ年末、遅くとも年明け早々には米軍の新型空母が完成する。この空母は『ヨークタウン』級をも凌ぐ大型空母なのだそうだ。もし、この空母の数が揃いだしたら、それこそ我々の勝機は皆無となる」
あと半年ほどで始まる米海軍の新型空母の竣工ラッシュ。
それは、二大洋艦隊整備法案に基づくものであり、確定事項だ。
同法案によれば、昭和一八年と一九年にそれぞれ三隻、さらに昭和二〇年以降に五隻の新型空母が整備されるものとしている。
しかし、開戦劈頭に生起したマーシャル沖海戦で米軍は空母とその艦上機が持つ威力を実感したはずだ。
だから、新型空母の建造ペースは加速はされても鈍ることは決して無い。
そして、米国の工業力を考えれば、新型空母の竣工は大幅に前倒しされると考えるべきだった。
また、追加建造も多数にのぼることだろう。
そして、そのことに対して山本長官は憂慮の念を抱いている。
「米国と事を構えるにあたっては、短期決戦早期和平しかない。それが貴様の持論だったな。しかし、現状を考えればそれは無理な話だろう」
嶋田大臣の言わんとしていることは、山本長官にも理解できた。
海軍大臣は軍政を司るとともに、人事についてもまたその職掌としている。
そして、嶋田大臣はその人事から帝国海軍の問題点を読み取ることが出来た。
「搭乗員の損耗だな」
山本長官の短い指摘に、嶋田大臣が小さくうなずきつつ話を続ける。
「その通りだ。開戦以降、我々は勝利を続けている。これは紛れもない事実だ。しかし、その一方で搭乗員の損耗は深刻だ。一般将兵と比べた場合、搭乗員の死傷率は大げさではなく一桁多い。特に艦爆ならびに艦攻の搭乗員のそれは深刻だ。戦前に入念な訓練を受けたベテラン、そのうちのすでに半数近くを失っている」
マーシャル沖海戦やインド洋海戦、それにミッドウェー海戦で連合艦隊が勝利を挙げることができたのは、ひとえに空母とその艦上機隊のおかげだ。
彼らの働きがあったからこそ、連合艦隊は連勝街道をひた走ることがかなった。
しかし、その原動力ともいえる艦上機隊に暗雲が広がっている。
各空母の艦爆隊それに艦攻隊では名人や達人、あるいは神様と呼ばれる准士官や下士官が相次いで戦死し、また少佐や大尉といった将来の海軍航空を担うはずの幹部搭乗員も相当数失われている。
このままではジリ貧というか、むしろすでに崖っぷちに立たされていると言ってもよかった。
「俺はこの秋にはハワイへ殴り込みに行くつもりだった」
自身の考えを吐露する山本長官に、嶋田大臣は口を挟まず次の言葉を待つ。
「だが、それが無理なことは承知している。確かに空母とそれに載せる艦上機に不足は無い。だが、搭乗員がいなければ、それらはただの張り子の虎にしか過ぎん」
帝国海軍では空母の増勢が進んでいる。
最近では建造途中で空母へと改造された「日進」が就役を果たし、さらに来月には貨客船を改造した「飛鷹」が竣工する予定だ。
また、南方地域からの資源輸送が順調なこともあり、艦上機の生産も捗っている。
だが、肝心の搭乗員が決定的に不足している。
開戦前に教育態勢を拡充したことで頭数だけは揃っているのだが、しかし一定技量の水準に達している者に限って言えば、現状は明らかに足りていない。
特に狭い飛行甲板に離発着可能な人材は、その不足が著しい。
もし、マーシャル沖海戦以降に「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」が搭乗員養成の任務を放棄して作戦行動に終始していたとすれば、状況はさらに悲惨なものになっていたことだろう。
「帝国海軍がもっと早く航空主兵に移行してくれていればなあ」
ボヤくような口調の山本長官に、嶋田大臣としては同意の首肯を返すしかなかった。
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