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マル四計画
第18話 金と忠義
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マル四計画における敏太それに帝国海軍上層部が持つ意識の決定的な違い。
それは、戦争に対するそれと言ってもいいかもしれない。
敏太は金や人、それに物資の流れから欧州大戦はもう目前にまで迫ってきていると考えている。
そして、日本もまたその国家方針を間違えれば、その戦争に巻き込まれる恐れがあると危惧している。
かたや帝国海軍のほうはそのようなことはなく、本格的な戦争に対する危機感を持っていない。
「帝国海軍は空母に関して、戦時急造型のようなプランを持っていますか」
米内大臣それに山本次官の二人に、敏太は直截に尋ねる。
「ひとたび事が起これば、商船を空母に改造する計画はあります。しかし、正規空母の急造についてはノープランです」
おそらくは機密に抵触しているはずだが、しかし米内大臣は正直に敏太に打ち明ける。
予想通りの返答に、敏太は少し表情を引き締め、空母に対する資金提供の条件を告げる。
「これから要件仕様の策定と設計に半年、さらに建造に二年の合わせて三〇カ月で空母を完成させてください。もし、それがかなえば三隻の空母については建造にかかった全額をこちらで負担させていただきます」
唐突とも言える敏太の申し出に、米内大臣がその理由を尋ねる。
「預言者のような物言いで恐縮ですが、装甲空母は肝心なときに間に合いません。建造にあまりにも時間がかかり過ぎます。なので、米内大臣が希望された三隻の空母については、その援助にあたってこちらで条件を付けさせていただきました」
敏太の言葉に米内大臣それに山本次官が眉をひそめる。
「肝心なときとは何を意味するのですか」
丁寧な口調を崩すことも無く、米内大臣が疑問を口にする。
「もちろん戦争です」
敏太の即答に、米内大臣それに山本次官がぎょっとした視線を敏太に向ける。
「名称は何であれ、日本はすでに中国と実質的な戦争状態にあります。そして、遠くない将来において米国は経済制裁を用いた介入を日本に対して仕掛けてくる。なにせ、米国は大陸の権益を喉から手が出るほどに欲していますから。その制裁の対象となるのは間違いなく石油や鉄といった戦略物資です。中でも経済の血液とも言える石油を絶たれては、日本としてはどうすることも出来ません」
未来において日米が干戈を交えるという敏太に、しかし山本次官が反論する。
「札田場さんのお話は少し飛躍が過ぎませんか。確かに米国は大陸における日本の行状について不快感を示してはいる。しかし、国内の経済状況が芳しくない彼らが日本への輸出をストップするとは思えないのだが」
米国にとって日本は間違いなくお得意様だ。
自動車やトラックそれに土木機械や工作機械といった工業製品、石油や金属といった天然資源などを日本は大量に購入している。
高オクタン価ガソリンや高性能潤滑油のパテントそれに製造設備などは、それこそ法外な値段を吹っかけられたのにもかかわらず言い値で購入した。
おかげで日本は米国に対して大幅な貿易赤字だが、しかし国家としてはさほど問題視はしていない。
なにせ、その金の出所が札田場敏太という個人によるものだからだ。
だが、米国はその上得意を切ってでも日本に対して経済制裁をすると敏太は考えている。
「まず、前提として世界の動きをお話ししますが、ドイツは年内にポーランドへの侵攻を企てます。これは一〇〇パーセント確実です。もし間違っていたら、私はマル五計画にかかる費用を全額負担します」
とんでもない約束をする敏太に、米内大臣と山本次官は口をさしはさまず黙ったまま次の言葉を待つ。
「そのドイツに対して、英国とフランスは宣戦布告します。これによって欧州大戦とも呼ぶべき大きな混乱が彼の地で巻き起こります。米国のルーズベルト大統領もまた、欧州大戦への参戦を望みます。彼にとってドイツというかナチスは打倒すべき敵だからです。
しかし、それ以上に大きいのが国内事情です。米国の失業率はここ最近では二割前後を推移しています。回復のきざしを見せない米国の高い失業率ですが、その回復手段をルーズベルト大統領は持ち合わせていない。つまりは手詰まりだということです。しかし、米国が戦争に参加すれば状況は一変する。おそらく、失業率は五パーセント以下にまで激減するでしょう。その好機をルーズベルト大統領が見逃すはずがありません」
経済、なかでも米国が絡む話は敏太の独擅場だ。
だから、米内大臣と山本次官は小さく首肯しつつ、目で話の続きを促す。
「もし、仮に日本とドイツが参戦条項を含む同盟関係にでもなれば、米国はそれを奇貨としてそれこそ日本に対してありとあらゆる挑発を繰り出してくるはずです。そして、その米国の振る舞いに対して頭に血が上りやすい日本人は冷静さを失い、彼らが仕掛けた陥穽に自ら飛び込んでいくことになるでしょう」
敏太が「肝心なとき」の説明を終えると同時に山本次官が口を開く。
「札田場さんの話を要約すれば、年内にも欧州で戦争が始まる。さらに、ドイツ打倒を望むルーズベルトが参戦のきっかけに我が国を利用しようとする。
しかし、仮に欧州大戦が勃発するとしても、我が国はドイツと同盟を結んでいるわけではない。つまり、ドイツと組まなければ、米国は我々に必要以上にちょっかいをかけようとはしないのではないか」
「山本さんのおっしゃる通りです。ですが、それは可能ですか?
現在の情勢を考えれば、自動参戦条項は回避できるとしても、しかしかなり踏み込んだ内容の同盟が結ばれる公算が大きい。もし仮に、欧州大戦の初期の段階でドイツが快進撃を続ければ、それこそバスに乗り遅れるなの大合唱が日本国中に響き渡りますよ。そのような中で同盟反対を唱えれば、それこそ狂信的な同盟推進者によるテロの標的になりかねない。ドイツと距離を置こうとしている米内さんと山本さんはそれこそ非常に危険な状態に陥るはずです」
世界大戦の懸念から個人の心配へと一気に話をスケールダウンさせた敏太に山本次官は微笑を向ける。
「御心配には感謝しますが、しかしそのようなことは覚悟の上です。国が道を誤ろうとしているときに、座してこれを見過ごすのはそれこそ国家に対する不忠です。私も米内大臣も米国との戦争を避けるためであれば何だってします。この命を惜しむものではありません」
それは、戦争に対するそれと言ってもいいかもしれない。
敏太は金や人、それに物資の流れから欧州大戦はもう目前にまで迫ってきていると考えている。
そして、日本もまたその国家方針を間違えれば、その戦争に巻き込まれる恐れがあると危惧している。
かたや帝国海軍のほうはそのようなことはなく、本格的な戦争に対する危機感を持っていない。
「帝国海軍は空母に関して、戦時急造型のようなプランを持っていますか」
米内大臣それに山本次官の二人に、敏太は直截に尋ねる。
「ひとたび事が起これば、商船を空母に改造する計画はあります。しかし、正規空母の急造についてはノープランです」
おそらくは機密に抵触しているはずだが、しかし米内大臣は正直に敏太に打ち明ける。
予想通りの返答に、敏太は少し表情を引き締め、空母に対する資金提供の条件を告げる。
「これから要件仕様の策定と設計に半年、さらに建造に二年の合わせて三〇カ月で空母を完成させてください。もし、それがかなえば三隻の空母については建造にかかった全額をこちらで負担させていただきます」
唐突とも言える敏太の申し出に、米内大臣がその理由を尋ねる。
「預言者のような物言いで恐縮ですが、装甲空母は肝心なときに間に合いません。建造にあまりにも時間がかかり過ぎます。なので、米内大臣が希望された三隻の空母については、その援助にあたってこちらで条件を付けさせていただきました」
敏太の言葉に米内大臣それに山本次官が眉をひそめる。
「肝心なときとは何を意味するのですか」
丁寧な口調を崩すことも無く、米内大臣が疑問を口にする。
「もちろん戦争です」
敏太の即答に、米内大臣それに山本次官がぎょっとした視線を敏太に向ける。
「名称は何であれ、日本はすでに中国と実質的な戦争状態にあります。そして、遠くない将来において米国は経済制裁を用いた介入を日本に対して仕掛けてくる。なにせ、米国は大陸の権益を喉から手が出るほどに欲していますから。その制裁の対象となるのは間違いなく石油や鉄といった戦略物資です。中でも経済の血液とも言える石油を絶たれては、日本としてはどうすることも出来ません」
未来において日米が干戈を交えるという敏太に、しかし山本次官が反論する。
「札田場さんのお話は少し飛躍が過ぎませんか。確かに米国は大陸における日本の行状について不快感を示してはいる。しかし、国内の経済状況が芳しくない彼らが日本への輸出をストップするとは思えないのだが」
米国にとって日本は間違いなくお得意様だ。
自動車やトラックそれに土木機械や工作機械といった工業製品、石油や金属といった天然資源などを日本は大量に購入している。
高オクタン価ガソリンや高性能潤滑油のパテントそれに製造設備などは、それこそ法外な値段を吹っかけられたのにもかかわらず言い値で購入した。
おかげで日本は米国に対して大幅な貿易赤字だが、しかし国家としてはさほど問題視はしていない。
なにせ、その金の出所が札田場敏太という個人によるものだからだ。
だが、米国はその上得意を切ってでも日本に対して経済制裁をすると敏太は考えている。
「まず、前提として世界の動きをお話ししますが、ドイツは年内にポーランドへの侵攻を企てます。これは一〇〇パーセント確実です。もし間違っていたら、私はマル五計画にかかる費用を全額負担します」
とんでもない約束をする敏太に、米内大臣と山本次官は口をさしはさまず黙ったまま次の言葉を待つ。
「そのドイツに対して、英国とフランスは宣戦布告します。これによって欧州大戦とも呼ぶべき大きな混乱が彼の地で巻き起こります。米国のルーズベルト大統領もまた、欧州大戦への参戦を望みます。彼にとってドイツというかナチスは打倒すべき敵だからです。
しかし、それ以上に大きいのが国内事情です。米国の失業率はここ最近では二割前後を推移しています。回復のきざしを見せない米国の高い失業率ですが、その回復手段をルーズベルト大統領は持ち合わせていない。つまりは手詰まりだということです。しかし、米国が戦争に参加すれば状況は一変する。おそらく、失業率は五パーセント以下にまで激減するでしょう。その好機をルーズベルト大統領が見逃すはずがありません」
経済、なかでも米国が絡む話は敏太の独擅場だ。
だから、米内大臣と山本次官は小さく首肯しつつ、目で話の続きを促す。
「もし、仮に日本とドイツが参戦条項を含む同盟関係にでもなれば、米国はそれを奇貨としてそれこそ日本に対してありとあらゆる挑発を繰り出してくるはずです。そして、その米国の振る舞いに対して頭に血が上りやすい日本人は冷静さを失い、彼らが仕掛けた陥穽に自ら飛び込んでいくことになるでしょう」
敏太が「肝心なとき」の説明を終えると同時に山本次官が口を開く。
「札田場さんの話を要約すれば、年内にも欧州で戦争が始まる。さらに、ドイツ打倒を望むルーズベルトが参戦のきっかけに我が国を利用しようとする。
しかし、仮に欧州大戦が勃発するとしても、我が国はドイツと同盟を結んでいるわけではない。つまり、ドイツと組まなければ、米国は我々に必要以上にちょっかいをかけようとはしないのではないか」
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「御心配には感謝しますが、しかしそのようなことは覚悟の上です。国が道を誤ろうとしているときに、座してこれを見過ごすのはそれこそ国家に対する不忠です。私も米内大臣も米国との戦争を避けるためであれば何だってします。この命を惜しむものではありません」
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