札束艦隊

蒼 飛雲

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マル四計画

第20話 金の使途は選びます

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 空母やその護衛艦艇の充実には気前よく金を出す敏太だが、しかし例外もある。
 その筆頭に挙げられるのが商船改造空母だ。

 実のところ、帝国海軍では大型貨客船を空母に改造する計画を持っていた。
 これを機動部隊に組み入れ、洋上航空戦力の厚みを増すのだ。
 その建造にあたっては費用の大半を補助する一方で、有事の際にはこれを空母に改造して戦列に加える腹積もりだった。
 そして、帝国海軍は例によってそのための資金を敏太に求めてきた。

 担当者によれば、その商船改造空母は小型の「龍驤」を大きくしのぎ、中型の「蒼龍」に迫る艦上機の運用能力を持つとの触れ込みだった。
 そして、その商船改造空母は連合艦隊に組み込まれ、他の空母とともに艦隊決戦兵力の一翼を担うという。
 これに対し、敏太は怒りもあらわにその要求を却下する。

 「商船改造空母など、当たり所が悪ければ魚雷一本であっという間に火だるまになる。しかも、それを船団護衛や潜水艦狩りに使うのであればともかく、真っ先に空母が狙われるであろう艦隊決戦に使うという。こんなバカなことに金が出せるわけがないでしょう」

 荒ぶる敏太に、しかし海軍の担当者はなおも言い募る。
 総力戦だからこそ、商船改造空母でさえも最前線に引っ張り出して戦力の一助としなければならないのだと。

 「帝国海軍は商船改造空母のような脆弱な艦に魚雷や爆弾、それに航空燃料といった爆発物や可燃物をたっぷりと詰め込み、そこへ訓練されたなにより貴重な将兵を大量に乗せるという。苛烈な洋上航空戦の中にあっては紙防御の商船改造空母など、それこそひとたまりも無いでしょう。そして、正規の軍艦に比べて抗堪性の低い構造ゆえに、失われる搭乗員や乗組員の損耗がどれほどすさまじいものになるのかは素人の私でもすぐに分かる」

 人材のことを言われると、担当者は反論できない。
 帝国海軍では中堅士官それに特修兵が不足していることは誰の目にも明らかだったからだ。
 さらに、腹の虫がおさまらない敏太は帝国海軍に爆弾を投げつける。

 「もはや、人命軽視の組織にかかわるつもりはありません。これまで約束した分の援助が終われば、帝国海軍への資金提供はこれを終わりにさせていただきます」

 敏太のこの発言は帝国海軍に大きな波紋を広げる。
 彼の資金援助無しには、もはや海軍組織が立ち行かないことは明らかだったからだ。
 結局、この件は米内大臣それに山本次官が出張ってきて、そして敏太に謝罪したことで一応の解決をみることになる。
 しかし、この騒動が元で大型貨客船を「蒼龍」や「飛龍」に準じる空母に改造するという話はお流れとなった

 それと、敏太は空母やその護衛艦艇の充実に援助の多くを割いているが、しかしそれ以上に熱心に支援したのが技術開発とそれに燃料や弾薬をはじめとした物資の備蓄だった。
 海軍技術研究所では敏太の支援によって早い段階から誘導兵器の開発が進められていた。
 研究者らは電波や赤外線、それに熱や音を追尾する爆弾や魚雷を完成させるべく、日々研究に没頭している。

 この中で、電波部門の研究者からひとつの提案がなされる。
 電波を発射することで遠方にある物体を探知できるのではないかというアイデアだった。
 反射波を測定する装置を作れば、それで対象物までの距離や方位が測定できると言うのだ。

 さらに精度を高めれば、射撃照準装置にも使えそうだった。
 現在、戦艦や巡洋艦といった水上打撃艦艇に搭載されている射撃照準装置の主流を成すのは光学測距儀だ。
 この光学測距儀は方位精度こそそれなりだが、しかし距離精度を出すことを非常に苦手としている。
 しかし、電波を使えば正確な距離を測ることが可能になると研究者は言う。

 それと、帝国海軍はこれまで、夜間や荒天下での演習の際に手痛い衝突事故を何度も繰り返していた。
 そのことで沈没した艦やあるいは犠牲になった将兵は少なくない。
 だが、電波を活用した探知機というものがあれば、視界の効かない状況でも互いの位置を確認することが出来る。
 さらに広範囲を捜索できるのであれば、遠方にいる敵を発見することも可能だろう。
 敵の発見が早ければ早いほど迎撃に充てるリアクションタイムを多く得ることが出来るから、その分だけ効率的な戦闘が可能になる。

 それゆえに、帝国海軍は早いうちからこの電波兵器に有用性を見出し、その研究を進めていた。
 敏太もまたその効用を理解する一人で、彼は電波兵器が有望株であることを確信すると同時に、さらに手厚い経済支援を実施している。

 肝心の誘導兵器に関しては、様々な追尾方式の中において特に無線操縦によって目標を攻撃できる動力付き誘導爆弾がその実用化において一歩リードしていた。
 これは、発射母機である攻撃機あるいは爆撃機のクルーが、無線を介した手動操縦によって爆弾を目標に誘導し、命中させるようになっていた。
 もちろん、科学力の低い日本だから、姿勢制御技術やロケット技術といった様々な分野で壁にぶち当たった。
 しかし、昭和七年から研究がスタートしているうえに、さらに敏太から青天井とも言える研究費の支援もあったから、昭和十年代半ばとなる頃にはさすがにそれなりの形は出来ていた。

 誘導兵器の開発が進む中、その裏で関係者の間で急速に興味が失われていったのが急降下爆撃だった。
 その名前から連想されるイメージとは裏腹に、低空で引き起こしを必要とする急降下爆撃は、ダイブブレーキを利かせながら低速で敵艦上空数百メートルまで肉薄するという極めて危険な戦技でもあった。
 高い命中率と引き換えに、爆撃途中で撃ち墜とされる確率もまた大きかったのだ。
 機関砲や機銃の高性能化が著しい昨今において、急降下爆撃のような戦術を用いればそれこそあっという間に搭乗員を摺り潰してしまう。
 敏太の要望を入れる形で防弾装備を充実した帝国海軍の機体であってもそれは避けられないはずだった。
 そのようなこともあり、帝国海軍では九六艦爆が最後の急降下爆撃機となった。
 開発が予定されていた一一試艦上爆撃機のほうは企画倒れに終わった。
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