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マーシャル沖海戦
第21話 終わらせる金
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(まるで預言者のようだったな)
米国との戦争が避けられなくなった現在、連合艦隊司令長官の山本大将は日吉にある連合艦隊司令部で編成表を眺めつつ、ある男のことを思い出している。
札田場敏太。
マル四計画における経済貢献が評価され、特務少佐から特務中佐へと昇任した彼。
その彼のおかげで帝国海軍の空母部隊は充実している。
戦艦あるいは巡洋戦艦を改造した「加賀」と「赤城」。
中型高速空母の「蒼龍」と「飛龍」。
さらにマル三計画で建造が進められた「翔鶴」と「瑞鶴」。
本来であればこの時期、帝国海軍が保有する中大型の正規空母はこれら六隻だけだったはずだ。
しかし、敏太の経済支援のおかげで帝国海軍はその二倍近い一一隻を擁している。
「翔鶴」型空母の三番艦それに四番艦の「神鶴」と「天鶴」。
マル四計画において、戦時急造型空母として建造された「雲龍」と「白龍」それに「赤龍」。
「雲龍」型と呼ばれるこれら三隻は「飛龍」の設計をベースに建造されており、同艦の準姉妹艦とも言える存在だった。
これ以外にも小型の「鳳翔」と「龍驤」、それに特務艦改造の「瑞鳳」と「祥鳳」それに「龍鳳」がある。
「加賀」と「赤城」それに三隻の特務艦改造の空母はそのいずれもが敏太の資金提供によって機関から艦上構造物まで、金に糸目を付けない徹底した工事が行われていた。
「加賀」と「赤城」はそれぞれ一五二〇〇〇馬力のエンジンを搭載し、「加賀」は三〇ノット弱、「赤城」に至っては三二ノットの高速を発揮できる。
三隻の特務艦改造空母のほうは空母や巡洋艦に使用されている機関の半数を搭載している。
七六〇〇〇馬力に達するそれは「瑞鳳」と「祥鳳」に三〇ノット、「龍鳳」に二八・五ノットと十分な速度性能を与えていた。
また、艦上構造物の徹底した改造によりこれら五隻の改造空母はそのいずれもが良好な形状の格納庫を持っている。
このうち、「加賀」と「赤城」は八一機、特務艦改造の三隻はそれぞれ常用機ベースで三〇機の搭載能力を誇っている。
山本長官の中では空母に次ぐ戦力であり、一方で無用の長物でもある戦艦もまた充実している。
一〇隻の旧式戦艦はそのいずれもが一三六〇〇〇馬力に達する大出力エンジンを搭載し、「長門」型は二九ノット、「伊勢」型それに「扶桑」型は二七ノットから二七・五ノット、「金剛」型に至っては三〇ノットの高速が発揮できた。
また、「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」はそれぞれ六基の三六センチ連装砲塔を装備していたが、しかしそのいずれもが改装によって四基の四一センチ連装砲塔に換装、「長門」型と同等の攻撃力を持つに至っている。
山本長官にとって一六隻の空母それに一〇隻の戦艦は心強い手駒だが、それ以上にありがたいのは敏太からの資金援助で建造された油槽船の存在だった。
当時の米内大臣とともに臨んだマル四計画における敏太との会合の終わりに、その彼から油槽船を提供するという提案があったのだ。
この油槽船のおかげで補給計画がずいぶんと楽になり、作戦に柔軟性を持たせることが可能になった。
「マル一計画からマル四計画における戦闘艦艇の充実は凄まじいものがあります。しかし、一方でそれらを支える戦力があまりにも脆弱です。なので、その支援艦艇についてご支援させていただきます」
そう言って敏太は一〇隻の油槽船の建造費を帝国海軍に献納してくれた。
また、油槽船以外に二隻の「明石」型工作艦をはじめとした支援艦艇についても同様に建造費を提供してくれている。
それと、彼は経済畑の人間だからだろうか、特に油槽船の貧弱さに懸念を抱いていたようだった。
「日本には油槽船が小さいものを含めても一〇〇隻程度、その総量も五〇万トン以下でしかありません。これではとても満足な戦争など出来ない」
彼はこうも言っていた。
「日本を打倒するには、これら油槽船を一〇〇隻沈めるだけで十分です。油がなければ空母も戦艦も動けないし、そもそもとして経済が立ち行かない。もし、フィリピンという存在が無ければ、米海軍はドイツのように通商破壊戦にその全力を傾注していたかもしれません」
艦隊決戦を前提にその戦備を充実させている帝国海軍にとってはぞっとしない話だが、しかし米海軍にはそれを実行できる力がある。
彼の国が本気になれば、それこそあっという間にUボート部隊をしのぐ潜水艦隊を構築してしまうだろう。
(そのための海上護衛総隊か・・・・・・)
昭和一六年四月、帝国海軍内に連合艦隊と同格の海上護衛総隊が発足した。
戦力の中心は旧式軽巡や旧式駆逐艦、それに新造の海防艦や駆潜艇といった小艦艇だ。
しかし、単純な数では連合艦隊のそれを大きく上回る。
そして、それら艦艇の多くが大砲や魚雷よりも高角砲や機銃、それに対潜装備を主兵装に据えていた。
もちろん、これらの多くに敏太の支援の手が差し伸べられている。
初代司令長官には嶋田大将がこれに就任した。
本来、嶋田大将は今年の秋に海軍大臣になるはずだった。
しかし、敏太が組織発足の最初のトップは帝国海軍内でも最高の人材がその職責を務めるべしと言って伏見宮元帥に直談判したのだ。
自身が寵愛する嶋田大将を敏太が評価していると勘違いした伏見宮元帥は彼の要請を快諾、この人事と相成ったわけだった。
そのことを思い出し、山本長官はついつい悪い笑みを浮かべてしまう。
敏太は嶋田大将を評価などしていない。
彼は米内大将と山本大将それに井上中将が海軍左派トリオと呼ばれていることをもじって、海軍四天王というものをつくってしまった。
伏見宮元帥と永野大将、それに及川大将と嶋田大将がそのメンツだ。
このことを聞いた井上中将は、彼にしては珍しく大笑いしていた。
つまりは、そういうことだ。
そして、現在の海軍大臣は山本長官や嶋田長官の同期である塩沢大将がこれを務めている。
(札田場さんは今頃どうしていることか)
山本長官は帝国海軍に莫大な資金援助をしてくれている世界有数の金持ちのことを思う。
現在、連合艦隊司令部が陸に上がってその指揮を執っているのも敏太の金銭支援を伴った入れ知恵によるものだ。
「これからの時代はいかに正確な情報を素早く入手できるかが勝負の分かれ目となります。そのような中で、狭隘で通信能力に限界のある戦艦に司令部を置くのはナンセンスです」
そう言って、日吉に地下壕を備えたビルを建設するための資金を提供してくれた。
それとは別に、多額の工作資金も用意してくれた。
誰よりも情報が持つ価値を知悉する敏太は、以前から駐在武官それに諜報部門に多額の資金を用立てていた。
しかし、今回は別腹だった。
そして、それを自分以外に米内大将と井上中将、さらにその三人の息がかかった人間たちに使ってほしいのだという。
使途は聞かなくても分かった。
メンバーを見れば分かる。
戦争を終わらせるための、それだ。
そして、その中心人物となるのは間違いなく札田場敏太その人だった。
米国との戦争が避けられなくなった現在、連合艦隊司令長官の山本大将は日吉にある連合艦隊司令部で編成表を眺めつつ、ある男のことを思い出している。
札田場敏太。
マル四計画における経済貢献が評価され、特務少佐から特務中佐へと昇任した彼。
その彼のおかげで帝国海軍の空母部隊は充実している。
戦艦あるいは巡洋戦艦を改造した「加賀」と「赤城」。
中型高速空母の「蒼龍」と「飛龍」。
さらにマル三計画で建造が進められた「翔鶴」と「瑞鶴」。
本来であればこの時期、帝国海軍が保有する中大型の正規空母はこれら六隻だけだったはずだ。
しかし、敏太の経済支援のおかげで帝国海軍はその二倍近い一一隻を擁している。
「翔鶴」型空母の三番艦それに四番艦の「神鶴」と「天鶴」。
マル四計画において、戦時急造型空母として建造された「雲龍」と「白龍」それに「赤龍」。
「雲龍」型と呼ばれるこれら三隻は「飛龍」の設計をベースに建造されており、同艦の準姉妹艦とも言える存在だった。
これ以外にも小型の「鳳翔」と「龍驤」、それに特務艦改造の「瑞鳳」と「祥鳳」それに「龍鳳」がある。
「加賀」と「赤城」それに三隻の特務艦改造の空母はそのいずれもが敏太の資金提供によって機関から艦上構造物まで、金に糸目を付けない徹底した工事が行われていた。
「加賀」と「赤城」はそれぞれ一五二〇〇〇馬力のエンジンを搭載し、「加賀」は三〇ノット弱、「赤城」に至っては三二ノットの高速を発揮できる。
三隻の特務艦改造空母のほうは空母や巡洋艦に使用されている機関の半数を搭載している。
七六〇〇〇馬力に達するそれは「瑞鳳」と「祥鳳」に三〇ノット、「龍鳳」に二八・五ノットと十分な速度性能を与えていた。
また、艦上構造物の徹底した改造によりこれら五隻の改造空母はそのいずれもが良好な形状の格納庫を持っている。
このうち、「加賀」と「赤城」は八一機、特務艦改造の三隻はそれぞれ常用機ベースで三〇機の搭載能力を誇っている。
山本長官の中では空母に次ぐ戦力であり、一方で無用の長物でもある戦艦もまた充実している。
一〇隻の旧式戦艦はそのいずれもが一三六〇〇〇馬力に達する大出力エンジンを搭載し、「長門」型は二九ノット、「伊勢」型それに「扶桑」型は二七ノットから二七・五ノット、「金剛」型に至っては三〇ノットの高速が発揮できた。
また、「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」はそれぞれ六基の三六センチ連装砲塔を装備していたが、しかしそのいずれもが改装によって四基の四一センチ連装砲塔に換装、「長門」型と同等の攻撃力を持つに至っている。
山本長官にとって一六隻の空母それに一〇隻の戦艦は心強い手駒だが、それ以上にありがたいのは敏太からの資金援助で建造された油槽船の存在だった。
当時の米内大臣とともに臨んだマル四計画における敏太との会合の終わりに、その彼から油槽船を提供するという提案があったのだ。
この油槽船のおかげで補給計画がずいぶんと楽になり、作戦に柔軟性を持たせることが可能になった。
「マル一計画からマル四計画における戦闘艦艇の充実は凄まじいものがあります。しかし、一方でそれらを支える戦力があまりにも脆弱です。なので、その支援艦艇についてご支援させていただきます」
そう言って敏太は一〇隻の油槽船の建造費を帝国海軍に献納してくれた。
また、油槽船以外に二隻の「明石」型工作艦をはじめとした支援艦艇についても同様に建造費を提供してくれている。
それと、彼は経済畑の人間だからだろうか、特に油槽船の貧弱さに懸念を抱いていたようだった。
「日本には油槽船が小さいものを含めても一〇〇隻程度、その総量も五〇万トン以下でしかありません。これではとても満足な戦争など出来ない」
彼はこうも言っていた。
「日本を打倒するには、これら油槽船を一〇〇隻沈めるだけで十分です。油がなければ空母も戦艦も動けないし、そもそもとして経済が立ち行かない。もし、フィリピンという存在が無ければ、米海軍はドイツのように通商破壊戦にその全力を傾注していたかもしれません」
艦隊決戦を前提にその戦備を充実させている帝国海軍にとってはぞっとしない話だが、しかし米海軍にはそれを実行できる力がある。
彼の国が本気になれば、それこそあっという間にUボート部隊をしのぐ潜水艦隊を構築してしまうだろう。
(そのための海上護衛総隊か・・・・・・)
昭和一六年四月、帝国海軍内に連合艦隊と同格の海上護衛総隊が発足した。
戦力の中心は旧式軽巡や旧式駆逐艦、それに新造の海防艦や駆潜艇といった小艦艇だ。
しかし、単純な数では連合艦隊のそれを大きく上回る。
そして、それら艦艇の多くが大砲や魚雷よりも高角砲や機銃、それに対潜装備を主兵装に据えていた。
もちろん、これらの多くに敏太の支援の手が差し伸べられている。
初代司令長官には嶋田大将がこれに就任した。
本来、嶋田大将は今年の秋に海軍大臣になるはずだった。
しかし、敏太が組織発足の最初のトップは帝国海軍内でも最高の人材がその職責を務めるべしと言って伏見宮元帥に直談判したのだ。
自身が寵愛する嶋田大将を敏太が評価していると勘違いした伏見宮元帥は彼の要請を快諾、この人事と相成ったわけだった。
そのことを思い出し、山本長官はついつい悪い笑みを浮かべてしまう。
敏太は嶋田大将を評価などしていない。
彼は米内大将と山本大将それに井上中将が海軍左派トリオと呼ばれていることをもじって、海軍四天王というものをつくってしまった。
伏見宮元帥と永野大将、それに及川大将と嶋田大将がそのメンツだ。
このことを聞いた井上中将は、彼にしては珍しく大笑いしていた。
つまりは、そういうことだ。
そして、現在の海軍大臣は山本長官や嶋田長官の同期である塩沢大将がこれを務めている。
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そう言って、日吉に地下壕を備えたビルを建設するための資金を提供してくれた。
それとは別に、多額の工作資金も用意してくれた。
誰よりも情報が持つ価値を知悉する敏太は、以前から駐在武官それに諜報部門に多額の資金を用立てていた。
しかし、今回は別腹だった。
そして、それを自分以外に米内大将と井上中将、さらにその三人の息がかかった人間たちに使ってほしいのだという。
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