札束艦隊

蒼 飛雲

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オアフ島沖海戦

第44話 オアフ沖の殲滅戦

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 「目標変更! 『長門』『陸奥』一番艦、『伊勢』『日向』二番艦、『山城』『扶桑』三番艦」

 圧倒的な優勢。
 命令を出す高須長官の声音にも、わずかに興奮の色が混ざっている。

 日米の戦艦同士の戦いは六対六で始まった。
 先手を取ったのは日本側だった。
 殿の「扶桑」が敵六番艦の「ニューヨーク」級戦艦に痛打を浴びせ、これを後落させる。
 さらに、「扶桑」は間髪入れずに妹の「山城」に加勢。
 二隻がかりで、五番艦の位置にあった同じく「ニューヨーク」級戦艦を袋叩きにしてしまう。

 圧巻なのは敵の四番艦と対峙していた「日向」の一撃だった。
 「日向」は「ニューメキシコ」級戦艦と一進一退か、むしろ少しばかり押し負けていた。
 だが、「日向」が放った四一センチ砲弾のうちの一発が「ニューメキシコ」級戦艦の一番砲塔の脇に命中する。
 装甲を突き破り、艦内への進入を果たした一トンを超える重量弾は弾薬庫でその爆発威力を解放した。
 その熱と衝撃によって庫内にあった装薬や砲弾が誘爆する。
 内部からの爆圧に耐えられる戦艦などあろうはずもない。
 敵四番艦は大爆発を起こし、そのままオアフ島の海底深くへとその身を沈めた。

 「これまでの敵の様子から、どうやら連中は『伊勢』や『日向』それに『山城』や『扶桑』を『金剛』型戦艦だと勘違いしていたようですな」

 こちらの有利が揺るぎないものになったからだろう。
 小林参謀長の言葉に焦燥の色は無い。

 「おそらくは、参謀長の言う通りだろう。敵はこちらの戦力を『長門』型戦艦が二隻に『金剛』型戦艦が四隻と見積もった。だから、こちらが先に砲撃を開始しても、慌てて応戦するようなまねはしなかった。彼らが事前に設定した砲戦距離になるまで砲撃を控えていたのは、自分たちのほうが戦力が上だという自信があればこそだったのだろう」

 そう話しつつ、高須長官は「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」の改装に思いを馳せている。
 実のところ、「扶桑」には一二門の三六センチ砲を一〇門の四一センチ砲に換装する計画があった。
 高須長官が聞いた話によれば、元々の案では艦首に連装砲塔を二基、それに艦中央と艦尾に三連装砲塔がそれぞれ一基だったという。
 だが、四隻の戦艦の改装がとある金持ちの提案によって取りざたされた時点において、一方の帝国海軍はすでに四六センチ砲の開発に着手していた。
 当然のことながら、帝国海軍に新たに四一センチ三連装砲塔の開発に割けるリソースなどあろうはずもない。
 そこで、門数が一〇門から八門に減少するのをしのんで、四隻の戦艦はそのいずれもが連装砲塔を四基装備することとなったのだ。

 その際、とある金持ちは一つの提案を帝国海軍に持ちかけたという。
 「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」の艦型を可能な限り「金剛」型戦艦に似せて造ってしまえというものだった。
 艦型の確認において、砲塔配置は艦橋や煙突と同等かあるいはそれ以上に大きな識別要素の一つだ。
 艦の全長に極端な差が無い日本の戦艦であれば、特にその傾向は顕著だろう。

 そして、米軍は見事にそれに引っかかった。
 四〇センチ砲が一六門に三六センチ砲が三二門という想定は、しかし実際には四一センチ砲が四八門だったのだ。

 さらに、見逃せないのが改装によって防御力が向上したことだろう。
 六基あった主砲塔を四基に減らしたことで、重要区画の装甲の厚みを増やすことが可能になったのだ。

 (あるいは、以前の三六センチ砲搭載戦艦の状態でこの戦いに望んでいたら、「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」のうちの何隻かは敵の四番艦と同じ運命をたどっていたかもしれん。そうなっていれば、逆にこちらが負ける可能性もあった)

 ふと思い浮かんだ想念に、高須長官は小さく身震いする。
 「金剛」型戦艦ほど極端ではないが、しかし「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」もまた改装前は三六センチ砲であってもその防御力は心もとないとされていたのだ。
 あるいは、現在の勝勢は、四隻の戦艦が改装されたことによってもたらされたものなのかもしれない。

 「敵一番艦回頭、二番艦それに三番艦も続きます」

 見張りの報告に、高須長官は思索を打ち切り双眼鏡で米戦艦の動きを確認する。
 三隻の米戦艦はその舳先を東へ向けようとしている。
 戦況が決定的に不利になったことで、戦線離脱を図ろうというのだろう。

 「全艦針路九〇度、最大戦速! 一隻たりとも逃がすな!」

 高須長官のけしかけるような命令に、米戦艦を逃すまいと六隻の戦艦が加速する。
 第一艦隊の戦艦は一番脚の遅い「扶桑」でさえ二七ノットを発揮できる。
 二〇ノットそこそこしか出せない米戦艦を取り逃がす心配は無い。
 米戦艦の回頭によってわずかに開いた間合いも、しかし見る見るうちにその距離が縮まっていく。

 米戦艦と再び同航戦が可能なポジションにつくと同時に第一艦隊の六隻の戦艦は砲撃を再開する。
 三隻の米戦艦も反撃に務めるが、しかし二倍にも及ぶ数の差はあまりにも大き過ぎた。
 そのうえ機動力も大きく劣るから、逃げることもままならない。

 三隻の米戦艦が文字通り進退きわまった頃には、補助艦艇同士の戦いもすでに終焉を迎えていた。
 四隻の「最上」型重巡に対して、同じく四隻で戦いに臨んだのは「オマハ」級軽巡だった。
 しかし、相手が悪すぎた。
 「オマハ」級軽巡は旧式とはいえ、それでも一五・二センチ砲を一二門装備する、それなりに有力な巡洋艦だった。
 ただ、片舷に指向できるのは八門にしか過ぎず、一〇門の二〇センチ砲を両舷に指向できる「最上」型重巡と比べれば、攻撃力はどうしても見劣りしてしまう。
 そのうえ、排水量も「最上」型重巡の七割程度でしかないから、防御力もまたそれなりのものでしかなかった。

 それでも、「オマハ」級軽巡は果敢に「最上」型重巡に立ち向かう。
 威力に劣る一五・二センチ砲弾といえども、多数を浴びせれば格上の「最上」型重巡であろうとも仕留めることは可能だ。
 一方、格上であるはずの「最上」型重巡のほうは搦手を使っていた。
 相手が格下だからといって、胸を貸すような戦いを演じる必要などまったくない。
 「最上」型重巡は砲撃戦に先んじて、各艦ともに六本の酸素魚雷を「オマハ」級軽巡の針路前方に撃ち出していた。

 砲撃戦の序盤、その罠が炸裂する。
 三番艦の位置にあった「ミルウォーキー」の舷側に巨大な水柱が立ち上ったのだ。
 「ミルウォーキー」は見る見るうちに速力を落とし、そのまま隊列から落伍する。
 質的劣勢のうえに数的不利が重なれば「オマハ」級軽巡に勝ち目はない。
 逆に四隻の「最上」型重巡は、それこそ先を争うようにして生き残った「オマハ」級軽巡に二〇センチ砲弾を撃ち込んでいく。
 「オマハ」級軽巡のほうも反撃の砲火をあげて「最上」型重巡に主砲弾を叩き込む。
 しかし、それらは上部構造物の破壊にとどまり、弾火薬庫や機関室といった重要区画を撃ち抜くには至らない。
 逆に、一五・二センチ砲弾の二倍半にも及ぶ重量を持つ二〇センチ砲弾は、「オマハ」級軽巡の装甲を貫き、艦内部に深刻なダメージを与えた。

 一六隻の米駆逐艦と対峙した「那珂」それに「北上」と「大井」の三隻の軽巡とそれに一六隻の「陽炎」型駆逐艦のほうもまた、圧倒的とも言える勝利を挙げていた。
 これら一九隻はマーシャル沖海戦の時と同様、先制の遠距離飽和雷撃を敢行していた。
 米駆逐艦の針路前方、そこに向けて扇状に放たれた酸素魚雷の総数は第一波だけで一七二本にも及ぶ。
 このうち、命中したのはわずかに五本でしかなく、その命中率は三パーセントに届かない。

 だが、五隻の駆逐艦がほぼ同時に被雷したことで米駆逐艦部隊の隊列に乱れが生じる。
 その隙を一九隻の艨艟は見逃さない。
 一四センチ砲や一二・七センチ砲を振りかざして肉薄、さらに「北上」と「大井」に至っては在庫処分とばかりに両艦合わせて四〇本の第二波魚雷を放っていた。

 一方、連携を断ち切られた米駆逐艦は各個に反撃に転じるしかない。
 しかし、数的不利のうえにバラバラに戦っていては勝利は覚束ない。
 米駆逐艦の多くは「陽炎」型駆逐艦によって袋叩きにされてしまったが、中には戦線離脱に成功した艦もあった。
 しかし、それらも撃沈される運命からは逃れられなかった。
 オアフ島の戦力を無力化したと判断した第一航空艦隊と第二航空艦隊が残敵掃討戦に移行したからだ。
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