札束艦隊

蒼 飛雲

文字の大きさ
68 / 72
第二次オアフ島沖海戦

第68話 砲撃戦開始

しおりを挟む
 第五八・七任務群の上空には、わずかではあるがP38ライトニングやP47サンダーボルト、それにF4Uコルセアの姿があった。
 絶望的な状況の中、それでもオアフ島を見捨てることもなく、日本の水上打撃部隊に立ち向かおうとする第五八・七任務群に傘をさしかけるためなのだろう。
 彼らは数的不利にもかかわらず、圧倒的多数の零戦に勝負を挑んだ。

 だが、結果は無残なものだった。
 P38やP47、それにF4Uがいかに高性能な機体であろうとも、しかし零戦とはあまりにもその数が違い過ぎた。
 かつて、小沢長官が飛行機は数だと看破したが、まさにそれを地で行くような戦いだった。
 そして、その空戦域からほど近い海面では日米の艨艟が相まみえんとしていた。

 「真っ向勝負を受けてくれたか」

 こちらの進行方向に対して、同じくその舳先を向けつつある四隻の米戦艦。
 その姿に第一艦隊司令長官の角田中将は感嘆交じりのつぶやきを漏らす。
 勝つ自信が有るのか、あるいは後退することが許されていないのかは知る由も無いが、しかし角田長官にとっては望む展開だ。

 「目標を指示する。『大和』敵戦艦一番艦、『武蔵』二番艦、『長門』『陸奥』三番艦、『伊勢』『日向』四番艦。距離二五〇〇〇メートルで砲撃を開始せよ」

 制空権争いに勝ったことで観測機が使い放題だから、本来であればもう少し遠めから撃ちかけてもよかった。
 ただ、遠距離砲撃は命中率が悪い。
 それゆえに、どうしても外れ弾が多く生じてしまう。
 それと、今後の状況次第では、第一艦隊はオアフ島に対して艦砲射撃を実施することが考えられた。
 ある程度の距離まで踏み込んでからの砲撃としたほうが、よけいな無駄弾を出さずに済む。

 先に砲撃を開始したのは米戦艦のほうだった。
 彼我の距離がまだ二七〇〇〇メートル以上あった時点でその砲門を開いたのだ。
 おそらくは三〇〇〇〇ヤードあたりに砲戦距離を設定していたのではないか。
 たとえ観測機が使えない状況であったとしても、しかし優れた射撃管制システムを持つ米戦艦であれば命中弾を得ることは可能だと考えたのかもしれない。

 「敵一番艦、目標本艦。敵二番艦、同じく目標本艦。敵三番艦、目標『武蔵』。敵四番艦、同じく目標『武蔵』」

 見張りからの報告に、「大和」艦橋にいるその誰もが納得の表情を浮かべる。
 敵は「大和」や「武蔵」を無視して、「長門」や「陸奥」それに「伊勢」や「日向」にその矛先を向けるような真似はしなかった。
 最大脅威から排除していくという、集団戦のセオリーに忠実な振る舞いだ。
 つまりは、米水上打撃部隊の指揮官は堅実で常識的な人物だということなのだろう。

 (こちらとしては、そのほうが助かる)

 二隻の米新型戦艦に狙われるはめになったのにもかかわらず、しかし角田長官は胸中で安堵の吐息をこぼす。
 「大和」それに「武蔵」のバイタルパートに張り巡らされた装甲は、距離二〇〇〇〇~三〇〇〇〇メートルから発射された四六センチ砲弾に耐えられるように設計されていると角田長官は聞いている。
 ただし、あくまでも設計段階における話であり、実際のところはどうなのかは分からない。
 しかし、それでも米戦艦が持つ四〇センチ砲弾であれば、十分にこれに耐えることができるはずだ。
 一方で、「長門」型戦艦や「伊勢」型戦艦はそうはいかない。
 彼女たちは「大和」型戦艦ほどには撃たれ強くない。
 当たり所によっては、一撃で轟沈ということもあり得た。
 だからこそ敵戦艦部隊が採用した戦術は、角田長官にとっては目論見通りというか、ある意味ありがたいものに感じられた。

 その米戦艦が装備する射撃管制システムはかなり優秀なのだろう。
 直撃はもちろんのこと挟叉すらもされてはいないが、しかしそれほど見当はずれの場所に着弾しているわけでもない。
 二七〇〇〇メートルという大遠距離の初弾ということを考慮すれば、十分に合格点が与えられる成績だ。

 「命令を変更する。少し早いがただちに応射を開始せよ」

 戦いの中での急な命令変更は、たいての場合において歓迎されることは無い。
 しかし、角田長官の命令に異を唱える者は皆無だった。
 このままでは確実に着弾を寄せられ、機先を制されてしまう。
 そういった危機感あるいは焦慮を抱くくらいには、米戦艦の砲撃の正確性は脅威に映っていた。

 砲術員たちはすでに用意万端整えていたのだろう。
 角田長官の命令からさほど間を置かずに砲撃を開始した。
 「大和」が口火を切り「武蔵」がそれに続く。
 「長門」や「陸奥」それに「伊勢」や「日向」もまた四一センチ砲を振りかざして反撃に出る。

 「大和」以下六隻の戦艦には英国製の射撃照準レーダーが装備されていた。
 射撃照準レーダーは従来の光学測距儀に比べてかなりに正確に距離精度を出すことができる。
 ただし、一方で射撃照準レーダーは方位精度が甘いので、ここは従来の光学測距儀を併用することでその難を補うことにしている。
 それと、本音を言えば光学測距儀もまたドイツ製の優秀なものに換装できていればベストだったのだが、さすがにこの戦いには間に合わなかった。

 彼我の距離が近づくにつれ、互いの射撃精度も向上していく。
 先に命中弾を得たのは、先に砲撃を開始した米戦艦のほうだった。
 敵の旗艦であり一番艦の「サウスダコタ」が放った四〇センチ砲弾が「大和」の予備射撃指揮所脇に命中、着弾それに炸裂の衝撃によってこれを使用不能に陥れた。
 さらに二番艦の「インディアナ」も旗艦に続く。
 こちらは予備射撃指揮所のすぐ後方にある四番副砲塔に命中、これを爆砕した。

 相次ぐ被弾に、だがしかし角田長官以下第一艦隊司令部員に悲壮の色は無い。
 確かに、米戦艦の四〇センチ砲弾が命中すれば艦上構造物に無視できない損害が発生する。
 しかし、一方で四〇センチ砲弾は「大和」の装甲を貫くには至っていない。
 このことで、弾薬庫を貫かれたりあるいは機関室に甚大なダメージを被る危険性は限りなく小さいことがはっきりした。

 それでも、やはり相手に一方的に殴られるのは気分が良いものではない。
 第一艦隊司令部員にイライラが募っていく。
 さらに二発の四〇センチ砲弾を食らったところで、だがしかし砲術長から待望の報告が上がってくる。

 「挟叉! これより一斉打方に移行します!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...