札束艦隊

蒼 飛雲

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第二次オアフ島沖海戦

第69話 殲滅の水上砲雷撃戦

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 「大和」が放った九発の砲弾が敵一番艦、米軍で言うところの戦艦「サウスダコタ」に降り注ぐ。
 艦上に爆煙がわきあがるとともに、八本の水柱が立ち上る。
 一トン半にも及ぶ重量砲弾は米戦艦の中でも屈指の防御力を誇る「サウスダコタ」の装甲を貫き、艦の奥深くで炸裂する。
 一方で、「サウスダコタ」にとって命中個所が弾火薬庫や機関室といった致命部でなかったことは不幸中の幸いだった。

 「大和」はさらに二発、三発と四六センチ砲弾を「サウスダコタ」に叩き込む。
 しかし、彼女はさほど参った様子を見せない。
 いかに四六センチ砲弾が破格の威力を持っていようとも、わずかな命中数ではよほど当たり所に恵まれない限りは撃沈にはもっていけない。
 実際、帝国海軍では四六センチ砲弾で相手の戦艦を廃艦に追い込むのであれば最低でも一〇発程度、防御力に優れた新型戦艦ならば一五発以上が必要だと見積もられていた。

 「さすがにしぶとい」

 高柳参謀長の小さなつぶやきに、角田長官も胸中で同意する。
 一斉打ち方に移行して以降、「大和」は短時間のうちに敵一番艦に対して一〇発以上の四六センチ砲弾を叩き込んでいる。
 一方、敵一番艦ならびに敵二番艦から砲撃を受けている「大和」のほうはその二倍近い二〇発に迫る四〇センチ砲弾を食らっている。
 しかし、「大和」の致命部を貫いた砲弾はただの一発として存在しない。
 その強靭な装甲が、大重量を誇る四〇センチ砲弾のバイタルパートへの侵入を完全に阻止しているのだ。
 一方、「大和」の四六センチ砲弾は敵戦艦のどこに命中しようとも装甲を貫く力を持っている。
 だから、間違いなく相当数が重要区画を刺し貫いているはずなのだが、それでも敵一番艦は猛煙を後方に曳きがらも反撃の砲火を繰り出してくる。
 敵一番艦はこちらとは逆の意味で当たり所に恵まれているのだ。

 しかし、幸運が永遠に続くとは限らないし、そのようなことはめったに無い。
 敵戦艦の散布界に捉えられているのであれば、なおのことだ。
 「大和」が放った第一二斉射弾が「サウスダコタ」の第一砲塔脇に突き刺さる。
 四六センチ砲弾は構造用鋼それに装甲をあっさりと貫き、弾火薬庫でその爆発威力を解放した。
 そして、そこにあった砲弾や装薬が機能するのに十分な熱と衝撃を与える。
 いかに分厚い装甲を備え、そのうえ卓越した被害応急能力を擁している「サウスダコタ」といえども、内部からの爆圧に耐えられるものではない。
 冲天高く炎を突き上げ、「サウスダコタ」は猛煙の中にその身を沈める。

 「大和」が「サウスダコタ」を仕留めたのとほぼ同時、「武蔵」と「インディアナ」の勝負にも決着がついている。
 「武蔵」もまた、「マサチューセッツ」と「アラバマ」からしたたかに四〇センチ砲弾を浴びせられたが、しかしこちらもまた「大和」と同様に重要区画を貫かれたものは一つも無かった。
 「武蔵」は四〇センチ砲弾によって多数の副砲や高角砲、それに機銃を潰されはしたものの、しかし主砲は最後までその機能を維持し、逆に一〇発を超える四六センチ砲弾を「インディアナ」に命中させ、同艦の戦闘力を完全に奪い去った。

 「サウスダコタ」と「インディアナ」がそれぞれ「大和」それに「武蔵」に屈したのは、艦の性能差というよりもむしろ単純な大きさの差だった。
 三万トン級戦艦が六万トン級戦艦と同じ土俵で戦おうとしたことに無理があったのだ。
 それは、あるいは優れたライト級ボクサーが、凡庸なヘビー級ボクサーに挑んで返り討ちにあったようなものなのかもしれない。

 三番艦の「マサチューセッツ」それに四番艦の「アラバマ」はともに多数の四一センチ砲弾に全身を切り刻まれ炎上していた。
 「マサチューセッツ」と「アラバマ」は「長門」と「陸奥」それに「伊勢」と「日向」から一方的に撃ちかけられてもいるのにもかかわらず、「武蔵」にその砲門を向けていた。
 あるいは、旧式戦艦の砲弾であれば、かなりの程度耐えられると考えていたのかもしれない。
 しかし、四隻の戦艦が放つ四一センチ砲弾は一トンを超えており、その打撃力は「大和」型戦艦それに米新型戦艦を除けば最強クラスだ。
 あっという間に累増する被害に危険を感じ、「マサチューセッツ」と「アラバマ」が反撃に転じた時にはすでに手遅れだった。
 その頃には「サウスダコタ」と「インディアナ」を仕留めた「大和」と「武蔵」がこの戦いに参入してきたからだ。
 それからはあっという間だった。

 戦艦同士の戦闘に決着がついた頃には、他の部隊の戦いもすでに終わっている。
 一三隻の米駆逐艦と、それに軽巡「阿賀野」ならびに一六隻の「陽炎」型駆逐艦からなる水雷戦隊の軽快艦艇同士のぶつかり合いは日本側の圧勝に終わった。
 先手を取ったのは日本側だった。
 距離一五〇〇〇メートルで各艦ともに八本の魚雷を発射、合わせて一三六本の酸素魚雷を米駆逐艦に向けてぶっ放した。

 一方、米駆逐艦の側もこの攻撃を読んでいた。
 これまでの戦いで米海軍は、日本の艦艇が航跡が見えにくいうえに異様なほどに射程の長い魚雷を装備していることをつかんでいたからだ。
 だから、水上見張りを厳にし、日本の駆逐艦が魚雷を発射するタイミングを見逃さずにいたことで酸素魚雷の槍衾から逃れることが出来た。

 だが、水雷戦隊の側もまた米軍の動きを読んでいた。
 米軍が回避行動に出ている間に次発装填装置を使って発射管に予備魚雷を送り込み、砲撃開始と同時にそれらを発射したのだ。
 砲煙に紛れるようにして撃ち出された酸素魚雷は米駆逐艦に察知されることもなく海中を突き進んだ。
 米軍は長射程の魚雷の存在は知っていた。
 しかし次発装填装置の存在は知らなかったかあるいは知っていたとしても急速装填が可能なことまでは承知していなかった。

 魚雷を完全に躱したとばかり思いこんでいた一三隻の米駆逐艦は無造作に水雷戦隊に接近、そして海面下に仕掛けられた陥穽に自らはまり込んだ。
 命中した酸素魚雷は四本だった。
 三パーセントを割る命中率は水雷屋たちにとっては不本意な成績だったが、しかしこのことで米駆逐艦は九隻にまでその数を激減させた。

 後は「阿賀野」がタイマン、「陽炎」型駆逐艦は二隻でチームを組み、それぞれが目星をつけた米駆逐艦に戦いを挑んだ。
 駆逐艦は軽巡には勝てない。
 優秀な「フレッチャー」級駆逐艦も、しかし二倍の数の「陽炎」型駆逐艦にはかなわない。
 米駆逐艦は急速にその数を減らし、ごく短時間のうちに全艦が海の藻屑となって潰え去った。

 二隻の「ボルチモア」級重巡と四隻の「クリーブランド」級軽巡、それに四隻の「高雄」型重巡と「山城」「扶桑」の戦いだが、こちらもまた日本側の圧勝に終わった。
 「ボルチモア」とそれに姉妹艦の「ボストン」はそれぞれ「山城」ならびに「扶桑」に戦いを挑んだ。
 どの海軍列強の重巡にも負けない性能を持つ「ボルチモア」級重巡も、しかしさすがに戦艦を相手取るには役不足だった。
 「ボルチモア」と「ボストン」は二〇センチ砲としては破格の一五〇キロ弾を「山城」それに「扶桑」に撃ち込んでいくが、しかしそれらが両艦のバイタルパートを撃ち抜くことはない。
 逆に「山城」や「扶桑」が放つ一トン弾のほうは、どこに命中しようとも容易に装甲を食い破り、艦内部に甚大なダメージを与えた。

 早い段階で「ボルチモア」それに「ボストン」を始末した「山城」と「扶桑」は、それぞれ四隻の「クリーブランド」級軽巡それに「高雄」型重巡の戦いに加わる。
 互角の撃ち合いを演じていたところに、二隻の四一センチ砲搭載戦艦が乱入してきては、「クリーブランド」級軽巡もたまったものではない。
 側背を突かれた四隻の「クリーブランド」級軽巡のうちの二隻がたちまちのうちに撃破され、残る二隻のほうは四隻の「高雄」型重巡によって袋叩きにされた。
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