超克の艦隊

蒼 飛雲

文字の大きさ
6 / 57
マーシャル沖海戦

第6話 索敵戦

しおりを挟む
 夜間のうちに戦闘海域に突入した第一艦隊それに第一航空艦隊と第二航空艦隊は太平洋艦隊の姿を求めて索敵機を発進させた。
 夜明け前に「翔鶴」と「瑞鶴」それに「雲鶴」からそれぞれ九七艦攻が三機、重巡「筑摩」から零式水偵一機の合わせて一〇機からなる索敵第一陣が北東から南西に向けて飛び立っていく。
 さらに三〇分後に同じく九機の九七艦攻と一機の零式水偵が索敵第二陣として第一陣の後を追った。

 もともと帝国海軍は索敵についてはそれほど熱心な組織ではなかった。
 決してないがしろにしていたわけではないが、しかし攻撃に比べてその熱意といったものは明らかに低かった。
 転機となったのは米海軍が六〇〇〇〇トン級戦艦を建造するという大誤報、いわゆる海軍甲事件だ。
 この事件によって、誤った情報が組織に甚大なダメージをもたらすということを帝国海軍は学習した。
 そして、それまでの態度を一変させる。
 正確な情報を少しでも早く入手することが成功あるいは勝利への要諦だと理解した帝国海軍は、当然のこととして索敵の重要性にも気づいた。
 二〇機にも及ぶ索敵機の大量投入はその文脈によるものだ。

 「八隻の戦艦を主力とする前衛水上打撃部隊と、それにそれぞれ一隻の空母を基幹とする機動部隊が三群か」

 索敵機からもたらされた敵情に、一航艦司令長官の南雲中将が航空甲参謀の源田中佐それに航空乙参謀の吉岡少佐を等分に見回す。

 「まずは数百キロ離れた相手に攻撃できる能力を持つ空母こそを真っ先に潰すべきです。水上打撃部隊のほうは今しばらくは放置しても構わないでしょう」

 「私も甲参謀の考えに賛成です。空母にとっての最大の脅威は空母とその艦上機です。一航艦それに二航艦はもてる戦力のそのすべてを敵機動部隊にぶつけるべきだと考えます」

 勢い込んで自身の見解を訴える二人の航空参謀。
 その彼らに小さく頷きつつ、南雲長官は次に参謀長の草鹿少将にその視線を向ける。

 「私も甲参謀ならびに乙参謀の戦策に同意します。戦力の集中は兵法における基本中の基本です。今は敵機動部隊の撃滅にこそ、その持てる力を傾注すべきです」

 三人の航空専門家の意見が同じであるのならば、南雲長官としても決断をためらう理由は無い。

 「三群ある敵機動部隊は北からそれぞれ甲一、甲二、甲三と呼称する。水上打撃部隊はこれを乙一とする。一航艦の第一次攻撃隊ならびに第二次攻撃隊はそれぞれ甲一それに甲三を攻撃せよ。二航艦のほうは甲二だ。乙一についてはしばし放置する」

 南雲長官の命令一下、一航艦の四隻の空母が風上にその舳先を向けて速度を上げていく。
 一航艦から出撃する第一次攻撃隊は第一航空戦隊の「赤城」から零戦一二機に九七艦攻二一機、「加賀」から零戦一二機に九九艦爆一八機。
 第二航空戦隊の「蒼龍」から九九艦爆一八機、「飛龍」から零戦一二機に九七艦攻一五機の合わせて一〇八機からなる。

 さらに、「赤城」から九九艦爆一八機、「加賀」から零戦一二機に九七艦攻二一機、「蒼龍」から零戦一二機に九七艦攻一五機、「飛龍」から九九艦爆一八機の合わせて九六機が第二次攻撃隊として第一次攻撃隊の後を追う。

 二航艦からは第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」それに「雲鶴」からそれぞれ零戦一二機に九九艦爆一八機、それに九七艦攻一二機の合わせて一二六機が出撃する。
 七隻の空母から二波合わせて三三〇機の艦上機が出撃してなお一航艦には四八機、一航艦の前衛に位置する二航艦のほうは七二機の零戦を直掩として残している。
 敵を早期に発見したこと、それに今後の方針が定まったことでほっとした空気が流れた一航艦の旗艦「赤城」艦橋だったが、しかしそれも長くは続かなかった。

 「我レ敵艦上機ノ接触ヲ受ク」

 「大和」からの緊急電だった。
 つまりは、一航艦それに二航艦の盾となって前を進む第一艦隊が敵に発見されたのだ。
 そして、相手がよほどの間抜けでない限り、その後方に機動部隊が存在することを想像するはずだ。

 「我々が発見されるのも時間の問題だな」

 南雲長官のつぶやきに「赤城」艦橋にいるその誰もが小さく頷く。

 「第一次攻撃隊ならびに第二次攻撃隊の発進を急がせろ。それが終われば直掩機の準備だ。そして、それらが発艦する際には特に対潜警戒を厳にせよ。それと、『利根』に接触維持のための機体を出すよう要請してくれ」

 必要な命令を発しつつ、南雲長官は脳内でそろばんを弾く。
 発見された敵の空母は三隻。
 そうであれば最低でも一五〇機、場合によっては二〇〇機近い艦上機が第一艦隊や一航艦それに二航艦の上空に押し寄せてくるはずだ。
 太平洋艦隊と一航艦の間には第一艦隊と二航艦が存在する。
 しかし、それでも安心はできない。
 雲の気まぐれによっては、敵の艦上機群が第一艦隊や二航艦を素通りして一航艦にいきなり襲いかかってこないとも限らないのだ。

 (先手を取ることは出来なかったものの、しかし一方で敵に後れを取るようなこともなかった。そして、彼我の戦力差から言って、洋上航空戦については我々の優位は動かないはずだ。だが、油断することだけは絶対にこれを避けねばならん)

 敵を発見したという安堵の気持ちを弾き出し、南雲長官は気を引き締める。
 戦場では何が起こるか分からない。
 将兵が当たり前に知るその常識を、南雲長官もまた深く理解していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離反艦隊 奮戦す

みにみ
歴史・時代
1944年 トラック諸島空襲において無謀な囮作戦を命じられた パターソン提督率いる第四打撃群は突如米国に反旗を翻し 空母1隻、戦艦2隻を含む艦隊は日本側へと寝返る 彼が目指したのはただの寝返りか、それとも栄えある大義か 怒り狂うハルゼーが差し向ける掃討部隊との激闘 ご覧あれ

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【架空戦記】炎立つ真珠湾

糸冬
歴史・時代
一九四一年十二月八日。 日本海軍による真珠湾攻撃は成功裡に終わった。 さらなる戦果を求めて第二次攻撃を求める声に対し、南雲忠一司令は、歴史を覆す決断を下す。 「吉と出れば天啓、凶と出れば悪魔のささやき」と内心で呟きつつ……。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す

みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための 「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した 航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。 航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。 そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

処理中です...