何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ

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第三十三話 席は残らない

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第三十三話 席は残らない

 

 王国に届いたのは、会議の議事録だった。

 招待状ではない。
 確認依頼でもない。

 議事録だけだ。

 

「……決定事項、すべて確定済みですね」

 外務局の官僚が、淡々と紙をめくる。

「修正余地は?」

「ありません。
 付記として、
 “参考意見があれば後日提出可”とあります」

 参考意見。

 誰もが、その意味を理解していた。

 

 王太子のもとへ、議事録が届けられる。

 彼は、最初の数行を読んだだけで、
 続きを閉じた。

「……席が、
 残っていないな」

 誰かが奪ったわけではない。
 誰かが追い出したわけでもない。

 ただ、
 空けておかなかった。

 

 官僚の一人が、声を絞り出す。

「殿下……
 抗議すべきでは?」

 王太子は、ゆっくりと首を振る。

「抗議は、
 席がある者だけができる」

「我々は、
 すでに“外”だ」

 

 外務局では、
 別の報告も上がっていた。

「次回以降の調整会議ですが……
 王国は、
 必要に応じて意見提出、
 という扱いになるそうです」

 必要に応じて。

 その“必要”を決めるのは、
 王国ではない。

 

 一方、帝国。

 新たな調整会議が、
 すでに予定に組み込まれていた。

「次は、
 実施段階の確認です」

「問題が出た場合は?」

「即時修正。
 参加国で再調整」

 議論は、
 実務の域に入っている。

 理念でも、立場でもない。
 動かすための会話だ。

 

 宰相府で、
 ネフェリアは会議予定を確認していた。

「王国は?」

「今回は、
 正式参加ではありません」

「分かりました」

 それ以上、
 話題にもしない。

 帝国にとって、
 今重要なのは、
 席にいる国との合意だ。

 

 王国では、
 地方からも声が上がり始めていた。

「なぜ、
 中央は何も言わない?」

「なぜ、
 王国の意向が反映されない?」

 だが、
 中央は答えられない。

 言っていないからではない。
 聞かれる場所がないからだ。

 

 夜。

 王太子は、
 古い記録に目を通していた。

 かつて、
 王国が主導した会議の議事録。

 その末尾には、
 必ずこう書かれていた。

「次回会合は、
 王国の提案をもとに――」

「……席は、
 用意されるものじゃない」

 静かに、呟く。

「座り続けた結果、
 残るものだ」

 

 同じ夜、帝国。

 ネフェリアは、
 会議室の灯りを落としながら、
 一瞬だけ立ち止まった。

 机の周りに並ぶ椅子。
 すべて、埋まっている。

 だが、
 余分な椅子はない。

 

「……席は、
 空けておくものではありません」

 誰もいない部屋で、
 彼女は小さく呟く。

「必要な者が、
 座り続けるから、
 残るのです」

 

 王国は、
 いま、
 席を失ったことに
 気づき始めている。

 だが、
 失った席は、
 簡単には戻らない。

 新しい席が用意されるのは、
 また、
 “必要な国”になれたときだけだ。

 それが、
 黙って突きつけられた現実だった。
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