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第三十四話 知らされない決定
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第三十四話 知らされない決定
王国が最初に異変に気づいたのは、
地方から届いた一通の問い合わせだった。
「この新しい通行税について、
王国としての正式見解を教えていただきたい」
文面は丁寧で、
責める調子ではない。
だが、
外務局の官僚は、
その一文を読んだ瞬間、
手を止めた。
「……新しい通行税?」
調べるまでもなかった。
帝国と中立都市、
さらに周辺二国の合意によって、
すでに施行日まで決まっている制度だった。
王国には、
通知すら来ていない。
「なぜ、
報告がなかった?」
外務局長の問いに、
部下は首を振る。
「来ていません。
議事録にも、
“関係国への事後共有”とだけ」
関係国。
その中に、
王国の名はある。
だが、
意思決定に関与した国の欄には、
書かれていない。
王太子は、
その報告を静かに聞いていた。
「……決まった後で、
知らされたわけか」
「はい」
王太子は、
一瞬だけ目を閉じる。
怒りはない。
驚きもない。
むしろ――
納得してしまっている自分がいた。
「帝国は、
我々を外したのではない」
彼は、
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「最初から、
含めなかっただけだ」
官僚の一人が、
苦しそうに言う。
「抗議は……?」
「何に対してだ?」
王太子の問いは、
鋭かった。
「決定に参加しなかったことか。
呼ばれなかったことか。
知らされなかったことか」
どれも、
抗議の理由にならない。
なぜなら、
王国は、
決める側としての行動を、
何度も放棄してきたからだ。
一方、帝国。
新制度の施行準備は、
すでに最終段階に入っていた。
「王国からの反応は?」
「特にありません」
「では、
予定通り進めます」
会話は、
それで終わる。
誰も、
王国を軽視しているつもりはない。
ただ、
判断に必要な国として、
数えられていないだけだ。
宰相府で、
ネフェリアは報告を受けていた。
「王国には、
事後共有のみ行っています」
「妥当ですね」
彼女は、
淡々と答える。
「事前に意見を求めても、
返事が来ない可能性が高い」
「時間を浪費する理由は、
ありません」
冷たい判断ではない。
実務として、
当然の判断だ。
王国では、
地方からの不満が、
少しずつ表に出始めていた。
「なぜ、
こんな重要な制度を、
知らされていなかった?」
「中央は、
何をしている?」
問いは、
中央に向けられる。
だが、
中央は答えられない。
知らされなかった理由を、
説明できないからではない。
説明すれば、
自分たちが
“不要だった”と認めることになるからだ。
夜。
王太子は、
一人で地図を広げていた。
新しい通行税が、
どこに影響を与えるか。
どの街が、
どれだけ不利になるか。
すべて、
分かる。
分かっているのに――
決定は、
すでに終わっている。
「……知らされない、
というのは」
小さく呟く。
「拒絶よりも、
重いな」
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
最終確認の書類に署名していた。
日付。
責任者。
発効時刻。
すべてが、
整っている。
「……決定とは、
知らせるものではなく」
彼女は、
ペンを置き、
静かに言う。
「共有されるものです」
共有されない決定は、
最初から、
共有相手として
数えられていなかった証だ。
王国は、
今になって理解する。
呼ばれない会議。
残らない席。
届かない声。
その先にあるのは、
知らされない決定だ。
それは、
滅びの兆しではない。
だが――
国として、
“関与する力”を
失った証だった。
王国が最初に異変に気づいたのは、
地方から届いた一通の問い合わせだった。
「この新しい通行税について、
王国としての正式見解を教えていただきたい」
文面は丁寧で、
責める調子ではない。
だが、
外務局の官僚は、
その一文を読んだ瞬間、
手を止めた。
「……新しい通行税?」
調べるまでもなかった。
帝国と中立都市、
さらに周辺二国の合意によって、
すでに施行日まで決まっている制度だった。
王国には、
通知すら来ていない。
「なぜ、
報告がなかった?」
外務局長の問いに、
部下は首を振る。
「来ていません。
議事録にも、
“関係国への事後共有”とだけ」
関係国。
その中に、
王国の名はある。
だが、
意思決定に関与した国の欄には、
書かれていない。
王太子は、
その報告を静かに聞いていた。
「……決まった後で、
知らされたわけか」
「はい」
王太子は、
一瞬だけ目を閉じる。
怒りはない。
驚きもない。
むしろ――
納得してしまっている自分がいた。
「帝国は、
我々を外したのではない」
彼は、
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「最初から、
含めなかっただけだ」
官僚の一人が、
苦しそうに言う。
「抗議は……?」
「何に対してだ?」
王太子の問いは、
鋭かった。
「決定に参加しなかったことか。
呼ばれなかったことか。
知らされなかったことか」
どれも、
抗議の理由にならない。
なぜなら、
王国は、
決める側としての行動を、
何度も放棄してきたからだ。
一方、帝国。
新制度の施行準備は、
すでに最終段階に入っていた。
「王国からの反応は?」
「特にありません」
「では、
予定通り進めます」
会話は、
それで終わる。
誰も、
王国を軽視しているつもりはない。
ただ、
判断に必要な国として、
数えられていないだけだ。
宰相府で、
ネフェリアは報告を受けていた。
「王国には、
事後共有のみ行っています」
「妥当ですね」
彼女は、
淡々と答える。
「事前に意見を求めても、
返事が来ない可能性が高い」
「時間を浪費する理由は、
ありません」
冷たい判断ではない。
実務として、
当然の判断だ。
王国では、
地方からの不満が、
少しずつ表に出始めていた。
「なぜ、
こんな重要な制度を、
知らされていなかった?」
「中央は、
何をしている?」
問いは、
中央に向けられる。
だが、
中央は答えられない。
知らされなかった理由を、
説明できないからではない。
説明すれば、
自分たちが
“不要だった”と認めることになるからだ。
夜。
王太子は、
一人で地図を広げていた。
新しい通行税が、
どこに影響を与えるか。
どの街が、
どれだけ不利になるか。
すべて、
分かる。
分かっているのに――
決定は、
すでに終わっている。
「……知らされない、
というのは」
小さく呟く。
「拒絶よりも、
重いな」
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
最終確認の書類に署名していた。
日付。
責任者。
発効時刻。
すべてが、
整っている。
「……決定とは、
知らせるものではなく」
彼女は、
ペンを置き、
静かに言う。
「共有されるものです」
共有されない決定は、
最初から、
共有相手として
数えられていなかった証だ。
王国は、
今になって理解する。
呼ばれない会議。
残らない席。
届かない声。
その先にあるのは、
知らされない決定だ。
それは、
滅びの兆しではない。
だが――
国として、
“関与する力”を
失った証だった。
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