何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ

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第三十五話 影響だけが残る

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第三十五話 影響だけが残る

 

 新しい通行税が施行されてから、王国の街道は目に見えて変わった。

 馬車の流れが変わる。
 宿場町の賑わいが、少しずつ偏る。
 取引量が減る場所と、逆に増える場所が生まれる。

 ――それらはすべて、
 王国が決めていない決定の結果だった。

 

「……この数字、見てください」

 財務局の官僚が、震える指で報告書を示す。

「北部街道の通行量が、
 先月比で二割減っています」

「原因は?」

「通行税の迂回です。
 帝国側の新ルートが、
 事実上の主流になっています」

 誰も、驚かない。
 すでに、予測されていた結果だ。

 

 王太子は、
 その報告を黙って聞いていた。

「対策は?」

「……短期的には、ありません」

 官僚の声が、低くなる。

「制度が確定している以上、
 我々が今からできるのは、
 国内調整のみです」

 国内調整。

 つまり――
 決まった影響を、
 どう受け止めるかという話だ。

 

 地方からは、
 次々と陳情が届いていた。

「交易が減った」
「税収が落ちた」
「帝国経由に切り替えざるを得ない」

 どの声にも、
 共通点がある。

 ――中央に対する期待が、
 すでに含まれていない。

 

「中央が動かないなら、
 こちらで動くしかない」

 ある地方領主の言葉は、
 静かだったが、
 重かった。

 

 一方、帝国。

 新制度の影響分析が、
 すでに始まっていた。

「王国北部、
 予測通りの減少です」

「では、
 補助線は予定通り延長」

「了解しました」

 そこに、
 感情はない。

 あるのは、
 結果と、次の一手だけだ。

 

 宰相府で、
 ネフェリアは報告を受けていた。

「王国側からの正式な抗議は?」

「ありません」

「では、
 調整は不要ですね」

 彼女は、
 淡々と書類を閉じる。

 帝国は、
 王国を押さえつけているわけではない。

 ただ、
 影響を受け止める側に
 回しただけだ。

 

 王国では、
 別の変化も起きていた。

「中央を通さず、
 帝国側の窓口と直接話したい」

 そう言い出す商人が、
 増えている。

「問題は?」

「形式上は、
 ありません」

 形式上は。

 その言葉が、
 何度も繰り返される。

 

 夜。

 王太子は、
 一人で地図を見つめていた。

 線を引いていない場所に、
 新しい流れが描かれている。

 王国は、
 その流れを、
 止めることも、
 導くこともできない。

「……決めなかった結果は」

 小さく呟く。

「必ず、
 形になって残る」

 

 同じ夜、帝国。

 ネフェリアは、
 今日の影響報告を読み終え、
 静かに息を吐いた。

「……決定の外に出た国は」

 誰に聞かせるでもなく、
 言葉を継ぐ。

「影響だけを、
 受け取ることになります」

 それは、
 罰ではない。

 当然の帰結だ。

 

 王国は、
 まだ滅びてはいない。

 だが、
 自分で選ばなかった未来を、
 自分で調整するしかない立場に
 立たされている。

 影響だけが残る国。

 それは、
 静かで、
 確実に、
 選択肢が減っていく状態だった。
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