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第三十七話 選択肢が減る音
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第三十七話 選択肢が減る音
王国の政務は、表面上は静かだった。
会議は行われている。
書類も回っている。
制度も、形としては機能している。
だが――
選択肢が減っている音だけが、
確かに響いていた。
「この案件ですが……」
外務局の会議室で、
官僚が慎重に言葉を選ぶ。
「帝国主導で進んでいます。
我が国は、
“影響評価のみ提出可”と」
「評価のみ?」
「はい。
意思決定には、
関与しません」
誰も驚かない。
もはや、
それが通常になっている。
王太子は、
報告書を一枚ずつ確認していた。
ページをめくるたびに、
同じ文言が目に入る。
「選択不可」
「既定路線」
「対応のみ」
「……減っているな」
独り言のように呟く。
国の選択肢が、
少しずつ、
確実に、
削られている。
官僚の一人が、
かすかな希望を口にする。
「殿下……
まだ、
影響評価という形で
関われています」
王太子は、
ゆっくりと顔を上げた。
「評価は、
選択ではない」
「選択肢があって、
初めて評価が意味を持つ」
王国は、
判断する側から、
評価する側へ。
それは、
後方に下がった、
という意味ではない。
盤の外へ、
一歩ずつ出ている
という意味だ。
一方、帝国。
新しい案件の初期会合が、
すでに開かれていた。
「参加国は、
いつもの顔ぶれです」
「王国は?」
「今回は、
最初から含めていません」
誰も、
それを問題にしない。
時間をかける理由が、
ないからだ。
宰相府で、
ネフェリアは議題一覧に目を通していた。
「次の案件、
期限は?」
「七日です」
「十分ですね」
彼女は、
短く答える。
「判断できる国だけで、
進めましょう」
王国では、
地方の現場に、
変化が現れ始めていた。
「中央の判断を待つより、
帝国側と直接話した方が早い」
「中央は、
どうせ評価しか出さない」
その言葉に、
怒りはない。
ただの、
実務的な判断だ。
夜。
王太子は、
灯りを落とした執務室で、
一つの書類を見つめていた。
新たに作られた、
“対応優先順位表”。
そこには、
こう書かれている。
「選択不可案件:全体の六割」
「……音がするな」
小さく呟く。
椅子が引かれる音。
扉が閉まる音。
盤上から、
駒が片付けられる音。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
一日の記録を閉じていた。
決めた案件。
保留にした案件。
切り捨てた選択肢。
どれも、
国が前に進むための整理だ。
「……選択肢が減る、というのは」
誰もいない部屋で、
彼女は静かに言う。
「外から見れば、
何も起きていないように見えます」
「ですが、
中では、
確実に音がしています」
王国は、
今も国として存在している。
だが、
選択肢が減る音に、
耳を塞ぎ続ければ――
やがて、
選ぶという行為そのものを、
忘れてしまう。
その時、
国は滅びない。
ただ、
動かなくなる。
それが、
最も静かで、
最も取り返しのつかない
終わり方だった。
王国の政務は、表面上は静かだった。
会議は行われている。
書類も回っている。
制度も、形としては機能している。
だが――
選択肢が減っている音だけが、
確かに響いていた。
「この案件ですが……」
外務局の会議室で、
官僚が慎重に言葉を選ぶ。
「帝国主導で進んでいます。
我が国は、
“影響評価のみ提出可”と」
「評価のみ?」
「はい。
意思決定には、
関与しません」
誰も驚かない。
もはや、
それが通常になっている。
王太子は、
報告書を一枚ずつ確認していた。
ページをめくるたびに、
同じ文言が目に入る。
「選択不可」
「既定路線」
「対応のみ」
「……減っているな」
独り言のように呟く。
国の選択肢が、
少しずつ、
確実に、
削られている。
官僚の一人が、
かすかな希望を口にする。
「殿下……
まだ、
影響評価という形で
関われています」
王太子は、
ゆっくりと顔を上げた。
「評価は、
選択ではない」
「選択肢があって、
初めて評価が意味を持つ」
王国は、
判断する側から、
評価する側へ。
それは、
後方に下がった、
という意味ではない。
盤の外へ、
一歩ずつ出ている
という意味だ。
一方、帝国。
新しい案件の初期会合が、
すでに開かれていた。
「参加国は、
いつもの顔ぶれです」
「王国は?」
「今回は、
最初から含めていません」
誰も、
それを問題にしない。
時間をかける理由が、
ないからだ。
宰相府で、
ネフェリアは議題一覧に目を通していた。
「次の案件、
期限は?」
「七日です」
「十分ですね」
彼女は、
短く答える。
「判断できる国だけで、
進めましょう」
王国では、
地方の現場に、
変化が現れ始めていた。
「中央の判断を待つより、
帝国側と直接話した方が早い」
「中央は、
どうせ評価しか出さない」
その言葉に、
怒りはない。
ただの、
実務的な判断だ。
夜。
王太子は、
灯りを落とした執務室で、
一つの書類を見つめていた。
新たに作られた、
“対応優先順位表”。
そこには、
こう書かれている。
「選択不可案件:全体の六割」
「……音がするな」
小さく呟く。
椅子が引かれる音。
扉が閉まる音。
盤上から、
駒が片付けられる音。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
一日の記録を閉じていた。
決めた案件。
保留にした案件。
切り捨てた選択肢。
どれも、
国が前に進むための整理だ。
「……選択肢が減る、というのは」
誰もいない部屋で、
彼女は静かに言う。
「外から見れば、
何も起きていないように見えます」
「ですが、
中では、
確実に音がしています」
王国は、
今も国として存在している。
だが、
選択肢が減る音に、
耳を塞ぎ続ければ――
やがて、
選ぶという行為そのものを、
忘れてしまう。
その時、
国は滅びない。
ただ、
動かなくなる。
それが、
最も静かで、
最も取り返しのつかない
終わり方だった。
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