お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ

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第6話 国内小麦の買い占め

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第6話 国内小麦の買い占め

 その判断は、
 大胆で、
 拙速で、
 そして――
 誰にも止められていなかった。

「――買え」

 プロフィット・アンドロスは、短く命じた。

「国内産の小麦だ。あるだけ、すべて」

 向かいに座る商人が、一瞬だけ言葉を失う。

「……す、すべて、ですか?」

「そうだ」

 即答だった。

 王都の商業地区。
 ここは、アンドロス公爵家が長年付き合いのある穀物商会である。

「今は価格が落ち着いているが、
 いずれ必ず跳ね上がる」

 プロフィットは、得意げに続ける。

「今年は不作の噂もある。
 外国産に頼る動きが出れば、
 国内産の価値は上がる」

 ――机上の理屈としては、間違っていない。

 ただし。

「ですが……」

 商人は、慎重に言葉を選んだ。

「在庫を一気に抱えるとなりますと、
 保管費用、管理費、人件費も……」

「問題ない」

 遮る。

「資金は、潤沢だ」

 商人は、それ以上言わなかった。
 言えなかった、と言うべきかもしれない。

 相手は、公爵家の令息。
 そして“次期当主”。

 拒む理由が、ない。

「……承知いたしました」

 そうして、契約は結ばれた。

 王国内の小麦は、
 静かに、だが確実に――
 一人の男の倉庫へと吸い込まれていった。

 ◇

 その頃。

 王都のとあるサロンで、
 一人の令嬢が紅茶をかき混ぜていた。

 ルーマー・イグザジェレイション。

 噂と情報を愛し、
 そして何より、
 自分の身を守ることを最優先する女。

「……ふうん」

 彼女は、誰にも聞こえない声で呟く。

「国内産を、全部?」

 膝の上には、何通かの手紙。
 商人、御者、港湾関係者――
 出所は様々だが、内容は一致している。

「これは……」

 口元が、わずかに歪んだ。

「強気、というより……
 無謀、ですわね」

 彼女は、プロフィットを嫌ってはいない。

 むしろ、都合がいい。

 次期公爵という肩書だけを持ち、
 中身が伴わない男ほど、
 利用しやすい存在はないからだ。

「でも……」

 紅茶を一口。

「“全部”は、少しやりすぎですわ」

 情報は、彼女の頭の中で整理されていく。

 ・国内産を独占
 ・長期保管が必要
 ・価格操作を狙っている
 ・判断は、独断

 そして、もう一つ。

「……外国産」

 小さく呟く。

「動いていない、とは限りませんもの」

 ルーマーは、噂を集める女だ。
 噂とは、必ずしも虚言ではない。

 事実の欠片が、混ざっている。

「港が、妙に忙しいと聞きましたし……」

 彼女は、今はまだ、何もしない。

 噂として流すには、
 まだ“材料”が足りないからだ。

「これは……」

 微笑む。

「しばらく、
 静かに見ている案件ですわね」



 一方その頃。

 プロフィット・アンドロスは、
 新しく確保した倉庫を視察していた。

「壮観だな」

 天井まで積み上げられた麻袋。
 整然と並ぶ小麦。

「これが、力だ」

 満足そうに頷く。

「物を押さえれば、
 相場は、俺のものになる」

 誰も反論しない。

 反論できる者が、いない。

 彼は知らない。

 この倉庫が、
 金を生む場所ではなく、
 金を食い潰す場所になる可能性を。

 そして。

 この判断を、
 シグネア・ヴァレンティスが
 まだ、何も知らないことを。

 ――否。

 正確には。

 知っていたとしても、
 この時点では、
 何もする必要がないことを。

 物語は、
 まだ、静かに進んでいた。
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