お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ

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21話|金を拾いなさい

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21話|金を拾いなさい

 倉庫の中は、静まり返っていた。

 かつては天井近くまで積み上げられていた小麦袋は、すでに半分以下に減っている。出荷が始まった証拠だった。車輪の跡が床に残り、運び出された分だけ空間が広がっている。

 プロフィットは、その光景を呆然と見つめていた。

「……なぜ、止められない」

 誰に向けた言葉でもない。

 契約だ。署名もある。引き取りも完了している。倉庫の管理権も、すでに自分の手を離れている。理解はしている。だが、納得はしていない。

 ここは、自分の倉庫だったはずだ。

 小麦も、自分のものだったはずだ。

 重い扉が開く音がした。

 振り返ると、そこにいたのはシグネア・ヴァレンティス侯爵だった。護衛も大勢は連れていない。視察に来たというより、確認に来たという雰囲気だった。

「順調ですわね」

 淡々とした声で、シグネアは言った。

「出荷は予定通り。品質も問題ありません」

 プロフィットは、言葉を失った。

「なぜ……ここに?」

「引き取り主ですもの」

 当然のことのように言う。

「所有権は、すでに私に移っています。倉庫の確認は必要でしょう?」

 その一言で、逃げ道が消えた。

 プロフィットは歯を食いしばり、言葉を絞り出した。

「……話がしたい。これは、やり方があるはずだ。多少の融通を――」

「融通?」

 シグネアは足を止め、彼を見た。

「何の話をしていらっしゃるの?」

 静かな問いだったが、逃げ場はない。

「この小麦は、私が引き取りました。正規の契約で。仕入れ値で」

 彼女は視線を床に落とし、倉庫の中央に歩み寄った。

 次の瞬間。

 シグネアは、懐から小さな革袋を取り出し、逆さにした。

 金貨が、床にばら撒かれた。

 乾いた音が倉庫に響き、金貨が転がる。

「これは……」

「引取料金ですわ」

 はっきりと、そう言った。

「貴方の倉庫に保管されていた小麦を、私が引き取った際の費用。運送費、保管管理費、事務手数料を差し引いた残額」

 プロフィットの顔色が変わる。

「ば、馬鹿な……こんな額で済むはずが……!」

「ええ。済みません」

 シグネアは冷静だった。

「なぜなら、相場はすでに崩れ始めていますもの。外国産の流入も確認済み。今引き取らなければ、価値はさらに下がった」

 彼女は一歩、近づいた。

「私は、損をしない価格で引き取った。それだけですわ」

 床に散らばる金貨を、顎で示す。

「拾いなさい」

 命令だった。

「それが、貴方に支払われる引取料金です」

 プロフィットは、動けなかった。

 それは金だった。だが、金額の問題ではない。

 これは“支払い”だ。

 自分が売った側であることを、突きつける行為だった。

「……ふざけるな」

「ふざけていません」

 即答だった。

「契約です。現実です。そして、結果です」

 シグネアは淡々と続ける。

「貴方は小麦を“資産”だと思っていた。でも、管理できない資産は、負債です」

 金貨に視線を落としながら言う。

「私は負債を引き取りました。その対価を支払っているだけ」

 倉庫の空気が、重く沈む。

「拾いなさい」

 再度、言われた。

「それが、貴方の立場です」

 プロフィットは、ゆっくりと膝を折った。

 床に落ちた金貨を、震える指で拾い上げる。

 冷たい感触が、はっきりと伝わる。

 その瞬間、理解した。

 これは救済ではない。

 これは清算だ。

 そして、自分はすでに――
 終わった側なのだと。


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