お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ

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第23話|虎の威を借る狐

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第23話|虎の威を借る狐

 倉庫を出た後も、プロフィット・アンドロスは立ち尽くしていた。

 頭の中では、先ほどの会話が何度も反芻されている。

 ――大損です。

 あの言葉が、思った以上に重かった。

 だが、それでもなお、心の奥底では抗っていた。

(……それでも、俺は公爵家の人間だ)

(完全に終わったわけじゃない)

 そう思わなければ、立っていられなかった。

 その背中に、再び声がかかる。

「まだ、何か期待していらっしゃるようですわね」

 振り向くと、シグネアが立っていた。

 今度は、逃げ道のない距離で。

「……期待など」

 プロフィットは、言葉を濁す。

「公爵家の名は、まだ残っている」

 無意識に出たその言葉に、
 シグネアは、初めてはっきりとした感情を滲ませた。

 ――失望。

「なるほど」

 ゆっくりと、一歩近づく。

「では、確認いたしましょうか」

 その声音は、静かで、冷たい。

「あなたは、公爵ですか?」

 問いは、単純だった。

「……いずれ、なる」

 プロフィットは、そう答える。

 それが、これまで彼を支えてきた言葉だった。

 シグネアは、首を傾げる。

「“いずれ”ですわね」

 そして、はっきりと言い切った。

「現時点では、違います」

 プロフィットは、口を開こうとして、閉じた。

「あなたは、公爵家の“令息”」

「それ以上でも、それ以下でもありません」

 淡々と、事実だけを並べる。

「爵位は、持っていない」

「決裁権も、統治権も、最終判断権も、ありません」

 一つずつ、逃げ場を塞ぐように。

「では、その自信はどこから来るのかしら?」

 問いかける。

 答えは、分かりきっていた。

「……父の名だ」

 プロフィットは、絞り出すように言った。

 シグネアは、そこで小さく息を吐いた。

「やはり」

 その一言には、蔑みすら含まれていない。

 ただの、確認。

「それを、こう言いますのよ」

 一拍置いて。

「虎の威を借る狐」

 はっきりと。

 容赦なく。

 プロフィットの肩が、わずかに揺れた。

「あなたは、自分の力で判断したことが、一度でもありました?」

「父の名を背負って、周囲が従うのを“自分の価値”だと錯覚していただけ」

 視線が、まっすぐ突き刺さる。

「その結果が、これですわ」

 倉庫の空間を、軽く見渡す。

「判断を誤り」

「責任を取れず」

「最終的に、頭を下げる先も間違えた」

 プロフィットは、唇を噛みしめた。

「……なら、どうすればよかった」

 初めて、弱音に近い言葉が漏れる。

 だが、シグネアは慰めない。

「簡単ですわ」

 あまりにも、あっさりと。

「最初から、自分が“狐”であると自覚すること」

 そして、続ける。

「虎のふりをしなければ、噛まれることもなかった」

 その言葉は、残酷なほど正確だった。

「あなたは、無能だから失敗したのではありません」

「無能であることを理解せず、虎の威を振りかざしたから、失敗したのです」

 沈黙が落ちる。

 プロフィットは、もう言い返せなかった。

 自分が何者でもなかったことを、
 ようやく理解し始めていた。

 シグネアは、踵を返す。

「次はありません」

 背を向けたまま、告げる。

「これが、現実ですわ」

 虎の威を借りる狐は、
 その威を失った瞬間、ただの狐になる。

 それだけの話だった。

 教育は、終盤に差しかかっていた。
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