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第24話|見下して、理解させる
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第24話|見下して、理解させる
プロフィット・アンドロスは、もう何も言えなかった。
先ほどまで、頭の中を占めていたはずの言葉――
公爵家、名誉、将来、立場。
それらはすべて、音を立てて崩れていた。
目の前にいるのは、
助けてくれるかもしれない元婚約者ではない。
判断を下す側。
価値を決める側。
シグネア・ヴァレンティス侯爵だった。
「……それでも」
ようやく絞り出した声は、情けないほど掠れていた。
「俺は、誰かを救おうとした」
自分でも驚くほど、必死だった。
「小麦を確保したのは、領民のためだ」
「外国産に頼らず、国内で回そうとした」
「だから……」
そこまで言って、言葉が途切れる。
シグネアは、振り返らなかった。
その沈黙が、返答だった。
「それは」
ゆっくりと、冷静に。
「“行動した気になっているだけ”ですわ」
プロフィットの喉が鳴る。
「救おうとした、とおっしゃいましたね」
「では、お聞きします」
初めて、こちらを向いた。
その視線は、完全に見下ろしている。
「何を、どこまで、どう救うおつもりでした?」
答えられない。
具体が、何一つない。
「倉庫を埋めただけ」
「相場も、流通も、出口も考えず」
「それで“善意”を名乗るのは、ただの自己満足ですわ」
言葉は鋭いが、感情はない。
だからこそ、重かった。
「慈善では、街は回りません」
「感情では、人は救えません」
シグネアは、淡々と続ける。
「統治とは、設計です」
「流通を読み」
「品質を見極め」
「価格を壊さず」
「必要な場所へ、必要な量を届ける」
一つ一つ、指を折る。
「そのどれも、あなたは考えていない」
プロフィットは、唇を噛みしめた。
「……では、なぜ」
声が震える。
「なぜ、助けなかった」
その問いに、シグネアは即答した。
「助ける必要がなかったからですわ」
はっきりと。
「正確には――」
一拍置く。
「助ける“価値”が、なかった」
胸を、鈍器で殴られたような感覚。
「誤解なさらないで」
追い打ちのように、続ける。
「私は、あなたを嫌っているわけではありません」
「興味がないだけです」
それは、最大の侮辱だった。
「あなたが失敗したのは」
「運が悪かったからでも」
「周囲が裏切ったからでもありません」
静かに、断言する。
「自分が“何者か”を理解せずに、判断をしたから」
プロフィットは、ようやく分かり始めていた。
自分は、見下されているのではない。
正確に測られているのだ。
「あなたは、統治者ではありません」
「商人でもありません」
「ならば、せめて――」
そこで、言葉を切る。
わずかな沈黙。
「身の程を知るべきでしたわ」
それだけで、十分だった。
プロフィットは、膝が笑うのを感じた。
怒りも、反論も、もう出てこない。
理解してしまったからだ。
自分が、何一つ“届いていなかった”ことを。
シグネアは、最後に告げる。
「これが、現実です」
「感情を持ち込まず」
「立場を勘違いせず」
「自分の価値を、他人の威で水増ししない」
扉へと歩き出す。
「それができない者に、統治はできません」
振り返らずに、言った。
「そして――」
「それを理解させるのが、私の役目ですわ」
見下しきった声。
だが、その裏にあるのは、
一切の感情を交えない“判断”。
プロフィット・アンドロスは、
ようやく現実を理解した。
自分は、助けられなかったのではない。
助ける対象にすら、なっていなかったのだ。
教育は、終わりに近づいていた。
プロフィット・アンドロスは、もう何も言えなかった。
先ほどまで、頭の中を占めていたはずの言葉――
公爵家、名誉、将来、立場。
それらはすべて、音を立てて崩れていた。
目の前にいるのは、
助けてくれるかもしれない元婚約者ではない。
判断を下す側。
価値を決める側。
シグネア・ヴァレンティス侯爵だった。
「……それでも」
ようやく絞り出した声は、情けないほど掠れていた。
「俺は、誰かを救おうとした」
自分でも驚くほど、必死だった。
「小麦を確保したのは、領民のためだ」
「外国産に頼らず、国内で回そうとした」
「だから……」
そこまで言って、言葉が途切れる。
シグネアは、振り返らなかった。
その沈黙が、返答だった。
「それは」
ゆっくりと、冷静に。
「“行動した気になっているだけ”ですわ」
プロフィットの喉が鳴る。
「救おうとした、とおっしゃいましたね」
「では、お聞きします」
初めて、こちらを向いた。
その視線は、完全に見下ろしている。
「何を、どこまで、どう救うおつもりでした?」
答えられない。
具体が、何一つない。
「倉庫を埋めただけ」
「相場も、流通も、出口も考えず」
「それで“善意”を名乗るのは、ただの自己満足ですわ」
言葉は鋭いが、感情はない。
だからこそ、重かった。
「慈善では、街は回りません」
「感情では、人は救えません」
シグネアは、淡々と続ける。
「統治とは、設計です」
「流通を読み」
「品質を見極め」
「価格を壊さず」
「必要な場所へ、必要な量を届ける」
一つ一つ、指を折る。
「そのどれも、あなたは考えていない」
プロフィットは、唇を噛みしめた。
「……では、なぜ」
声が震える。
「なぜ、助けなかった」
その問いに、シグネアは即答した。
「助ける必要がなかったからですわ」
はっきりと。
「正確には――」
一拍置く。
「助ける“価値”が、なかった」
胸を、鈍器で殴られたような感覚。
「誤解なさらないで」
追い打ちのように、続ける。
「私は、あなたを嫌っているわけではありません」
「興味がないだけです」
それは、最大の侮辱だった。
「あなたが失敗したのは」
「運が悪かったからでも」
「周囲が裏切ったからでもありません」
静かに、断言する。
「自分が“何者か”を理解せずに、判断をしたから」
プロフィットは、ようやく分かり始めていた。
自分は、見下されているのではない。
正確に測られているのだ。
「あなたは、統治者ではありません」
「商人でもありません」
「ならば、せめて――」
そこで、言葉を切る。
わずかな沈黙。
「身の程を知るべきでしたわ」
それだけで、十分だった。
プロフィットは、膝が笑うのを感じた。
怒りも、反論も、もう出てこない。
理解してしまったからだ。
自分が、何一つ“届いていなかった”ことを。
シグネアは、最後に告げる。
「これが、現実です」
「感情を持ち込まず」
「立場を勘違いせず」
「自分の価値を、他人の威で水増ししない」
扉へと歩き出す。
「それができない者に、統治はできません」
振り返らずに、言った。
「そして――」
「それを理解させるのが、私の役目ですわ」
見下しきった声。
だが、その裏にあるのは、
一切の感情を交えない“判断”。
プロフィット・アンドロスは、
ようやく現実を理解した。
自分は、助けられなかったのではない。
助ける対象にすら、なっていなかったのだ。
教育は、終わりに近づいていた。
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