お金がありすぎて困っておりますの(悪役令嬢ver.) ~悪役令嬢は噂も相場も支配しますわ~

ふわふわ

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24話|後進に道を譲るという最後のお勤め

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24話|後進に道を譲るという最後のお勤め

王都中央銀行の最上階。
重厚な木製の扉の向こうにある会議室は、つい先ほどまで、この国の金融を動かしてきた人間たちの城だった。

だが今、その空気は完全に変わっている。

長い会議卓の中央。
そこに座るのは、シグネア・ヴァレンティス侯爵。

年若い令嬢の姿でありながら、誰一人として彼女を「若い」とは認識していなかった。
理由は単純だ。この部屋にいる誰よりも、今この場を支配しているのが彼女だからである。

向かい側に並ぶ旧経営陣は、揃って沈黙していた。
怒号も、抗議も、もはや出てこない。
なぜなら彼らはすでに理解している。

ここは、交渉の場ではない。
通達の場だ。

シグネアは書類から視線を上げると、柔らかく微笑んだ。

「それでは、今後の処遇についてですわね」

その声は穏やかで、丁寧で、どこまでも礼儀正しい。
だが、その中に“選択肢”は含まれていない。

「旧経営陣の皆さまには、本日付で全員ご退任いただきます」

一人が、わずかに身じろぎした。

「……ま、待ってください。わ、我々は長年――」

「ええ、存じておりますわ」

シグネアは即座に言葉を切る。

「ですから」

そこで、はっきりと言い切った。

「ちゃんと退職金を差し上げますわ。安心して隠居なさってくださいませ」

一瞬、場が静まり返った。

退職金。
それは本来、救済の言葉であるはずだった。

だが、この場では違う。

それは――
役目は終わった、もう不要だという宣告だった。

旧頭取が、かすれた声で問う。

「……わ、我々は……切り捨てられる、ということですか」

シグネアは首を傾げ、わずかに考える素振りを見せたあと、にっこりと笑った。

「いいえ。“切り捨てる”だなんて、乱暴な言い方ですわ」

そして、ゆっくりと立ち上がる。

「後進に道を譲る。それが最後のお勤めだというものですわ」

その瞬間だった。

「オーッホッホッホッホ!」

高く、よく通る、堂々たる笑い声が会議室に響き渡る。

嘲笑ではない。
怒りでもない。

それは――
勝者が、敗者に与える最後の礼儀だった。

誰も反論できなかった。
なぜなら彼女の言葉は、すでに“終わった後”の話だったからだ。

シグネアは笑い終えると、すっと表情を戻し、背後に控えていた若い銀行員たちに視線を向けた。

「さて。次はあなた方ですわ」

突然名指しされた若者たちは、背筋を伸ばす。

「お給料を増やします」

どよめきが走る。

「もちろん、それに見合う働きをしてもらいます」

そこで一拍置き、シグネアは続けた。

「ただし、この銀行は“格式高い銀行”ですので、評価基準は営業成績だけではありません」

視線が、一人一人に向けられる。

「人格という格を、第一に評価しますわ」

空気が変わった。

数字だけを追い、上に媚び、下を切り捨ててきた旧体制とは、明確に違う価値観。
だが同時に、それは甘さではない。

「誠実さ、判断力、責任感。欠けた者は、どれほど数字を出そうと不要です」

静かな断言だった。

「この銀行は、本日より――」

シグネアは宣言する。

「ヴァレンティス王都中央銀行と改称いたします」

それは、ただの名称変更ではない。
支配者が変わったという、明確な刻印だった。

旧経営陣は、何も言えなかった。
怒る資格も、抗議する立場も、もう残っていない。

シグネアは最後に一度だけ、彼らを見下ろす。

「では皆さま。どうぞ、良き余生を」

その声音に、情けはない。
だが敵意もない。

ただ――
完全に過去になった人間を見る目だった。

踵を返し、会議室を後にする直前。
シグネアはふと立ち止まり、振り返る。

「真の意味で、格の高い銀行にして差し上げますわ」

そして。

「オーッホッホッホッホ!」

高らかな笑いを残し、扉は閉じられた。

こうして、王都中央銀行は“銀行”のまま、
中身だけが完全に別物へと生まれ変わったのだった。


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