39 / 40
第39話 見張る役目
しおりを挟む
第39話 見張る役目
条件を前に出した瞬間から、次の問いは避けられなかった。
誰が、それを見張るのか。
アルベルトは朝の回覧を読み終え、机の端に置いた三条件の紙を指で叩いた。
観測。分散。代替。
正しい。だが、紙の上に置いただけでは、すぐに風化する。
(王が見張る? 違う)
老侯爵が静かに言う。
「陛下。条件の監督役を設けますか?」
「役職は要らない。役目が要る」
肩書きを置けば、依存が生まれる。
役目にすれば、分散できる。
アルベルトは短く告げた。
「見張るのは、最後に触った者だ」
会議室が、わずかにざわつく。
「案件の最後の判断者が、条件を確認する。
満たしていなければ、次へ渡さない」
責任は、最終工程に集める。
だが、決裁に集めない。
午前中、その運用が試された。
一件の提案が、観測不足で差し戻される。
拒否ではない。条件未達だ。
「観測を足して、また持ってきます」
「それでいい」
止まる理由が、明確だ。
一方、領地。
エレノアも同じ問いに向き合っていた。
条件は共有した。
だが、誰が見張るのか。
彼女は、集会所で短く言う。
「見張るのは、次に困る人です」
人々が顔を見合わせる。
「兆しに最初に気づく人。
負担をかぶる人。
代替が要る人」
見張りは、遠い誰かではない。
近い当事者だ。
昼、王宮では“最後に触った者”の欄が書式に追加された。
名前は要らない。部署だけでいい。
匿名性が、正直さを守る。
同じ昼、領地では作業表に小さな印がついた。
星印。
「次に困る人」を示すだけの記号。
午後、アルベルトのもとに一件の苦情が届く。
「条件確認で、進みが遅い」
「正しい遅れだ」
彼は、理由を添えて返す。
「進みが遅いのではない。事故が早く見つかった」
同じ午後、領地では星印の付いた箇所から改善案が上がる。
代替が一つ増え、観測が簡素化された。
夕刻、老侯爵が感心した。
「見張りが、仕事になっています」
「見張りは、仕事ではない。習慣だ」
王は、線を引く。
あとは、習慣が守る。
同じ夕刻、エレノアは星印の数を数える。
増えすぎていない。
必要なところに、必要なだけ。
(見張りが、現場にある)
夜。
王宮の灯りは静かで、報告は短い。
領地の屋敷でも、紙は薄い。
アルベルトは、三条件の紙を引き出しに戻す。
エレノアは、星印の付いた表を畳む。
見張る役目は、権限ではない。
最後に触った者が、条件を確かめ、
次に困る人が、兆しを拾う。
王は、役目を分散し、
公爵令嬢は、当事者に預ける。
交わらぬ道でも、同じ見張り方が息づく。
条件は、誰かに守られるのではない。
皆の手で、見張られている。
そして次に残る問いは、ただ一つ。
――見張りを、どう続けるか。
条件を前に出した瞬間から、次の問いは避けられなかった。
誰が、それを見張るのか。
アルベルトは朝の回覧を読み終え、机の端に置いた三条件の紙を指で叩いた。
観測。分散。代替。
正しい。だが、紙の上に置いただけでは、すぐに風化する。
(王が見張る? 違う)
老侯爵が静かに言う。
「陛下。条件の監督役を設けますか?」
「役職は要らない。役目が要る」
肩書きを置けば、依存が生まれる。
役目にすれば、分散できる。
アルベルトは短く告げた。
「見張るのは、最後に触った者だ」
会議室が、わずかにざわつく。
「案件の最後の判断者が、条件を確認する。
満たしていなければ、次へ渡さない」
責任は、最終工程に集める。
だが、決裁に集めない。
午前中、その運用が試された。
一件の提案が、観測不足で差し戻される。
拒否ではない。条件未達だ。
「観測を足して、また持ってきます」
「それでいい」
止まる理由が、明確だ。
一方、領地。
エレノアも同じ問いに向き合っていた。
条件は共有した。
だが、誰が見張るのか。
彼女は、集会所で短く言う。
「見張るのは、次に困る人です」
人々が顔を見合わせる。
「兆しに最初に気づく人。
負担をかぶる人。
代替が要る人」
見張りは、遠い誰かではない。
近い当事者だ。
昼、王宮では“最後に触った者”の欄が書式に追加された。
名前は要らない。部署だけでいい。
匿名性が、正直さを守る。
同じ昼、領地では作業表に小さな印がついた。
星印。
「次に困る人」を示すだけの記号。
午後、アルベルトのもとに一件の苦情が届く。
「条件確認で、進みが遅い」
「正しい遅れだ」
彼は、理由を添えて返す。
「進みが遅いのではない。事故が早く見つかった」
同じ午後、領地では星印の付いた箇所から改善案が上がる。
代替が一つ増え、観測が簡素化された。
夕刻、老侯爵が感心した。
「見張りが、仕事になっています」
「見張りは、仕事ではない。習慣だ」
王は、線を引く。
あとは、習慣が守る。
同じ夕刻、エレノアは星印の数を数える。
増えすぎていない。
必要なところに、必要なだけ。
(見張りが、現場にある)
夜。
王宮の灯りは静かで、報告は短い。
領地の屋敷でも、紙は薄い。
アルベルトは、三条件の紙を引き出しに戻す。
エレノアは、星印の付いた表を畳む。
見張る役目は、権限ではない。
最後に触った者が、条件を確かめ、
次に困る人が、兆しを拾う。
王は、役目を分散し、
公爵令嬢は、当事者に預ける。
交わらぬ道でも、同じ見張り方が息づく。
条件は、誰かに守られるのではない。
皆の手で、見張られている。
そして次に残る問いは、ただ一つ。
――見張りを、どう続けるか。
0
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる