『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第8話 静かに、外が騒ぎ始める

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了解しました。
では、**第8話(2000文字以上)**を書きます。
今回は――
**「外の大人が“何かおかしい”と気づき始める回」**です。
称賛ではなく、違和感。
好意ではなく、警戒。
ノエリアにとっては、想定内の展開です。


第8話 静かに、外が騒ぎ始める

最初に異変に気づいたのは、孤児でも貴族でもなかった。

町のパン屋だ。


---

「……最近、売れ残る」

そう呟いたのは、通り沿いで十年以上店を構える中年のパン職人だった。

味が落ちたわけではない。
値段を上げた覚えもない。
だが、夕方になると、必ず残っていた棚が、空のままになる日が増えていた。

「……あの辺りだな」

視線の先には、
以前は誰も気に留めなかった古い屋敷と、その敷地。

今は、朝になると煙が上がる。
昼には、子供たちの声が聞こえる。
そして、時折――

「……あそこから、パンの匂いがする」

しかも、
焼いている量が、少なくない。


---

孤児院では、その日も作業が進んでいた。

「今日は、昨日より水を少なめに」

リリィが帳簿を確認しながら指示を出す。

「火、今は強すぎない?」

ミナが窯を見つめ、少しだけ薪を引いた。

「畑、午後は二人で十分だ」

カイルが作業を割り振る。

誰も怒鳴らない。
誰も命令口調にならない。

ノエリアは、少し離れた場所からそれを見ていた。

(目立つわね)

組織が整えば、必ず目に入る。


---

午後、門番役の少年が駆け寄ってきた。

「……お嬢様」

「何かしら」

「外の人が……
門の前で、様子を見ています」

ノエリアは、驚かない。

「何人?」

「……三人です」

「大人?」

「はい」

ノエリアは、少しだけ考えた。

「作業は続けなさい」

「私が出ます」


---

門の前には、
町の商人と、パン屋の職人、
そして見慣れない男が一人立っていた。

服装は質素だが、
靴だけがやけにしっかりしている。

(役人ね)

ノエリアは、すぐに判断した。

「何かご用でしょうか」

丁寧だが、距離のある声。

パン職人が、気まずそうに口を開いた。

「……最近、
あんたのところから、
パンの匂いがしてな」

「ええ」

否定しない。

「子供たちの食事です」

「……毎日?」

「毎日です」

商人が眉をひそめる。

「量が、多いようだが……」

ノエリアは、静かに返す。

「人数分です」

「余分は?」

「ありません」

嘘はつかない。

「失敗分は保存食に回します。
余らせる理由がありません」


---

そこで、黙っていた男が口を開いた。

「……孤児に、
仕事をさせていると聞きました」

やはり、役人だった。

「ええ」

ノエリアは、即答する。

「教育の一環です」

「それは、
労働に当たる可能性があります」

空気が、わずかに張りつめる。

「賃金は?」

「払っていません」

役人の目が鋭くなる。

「ただし」

ノエリアは続ける。

「衣食住、教育、医療。
すべて、私の名で保証しています」

「それは……」

「この国では」

ノエリアは、淡々と告げた。

「平民の子供が、
無償で働くことは珍しくありません」

「農村でも、工房でも」

「それを、
“家の手伝い”と呼ぶか、
“労働”と呼ぶかの違いです」

役人は、言葉を詰まらせた。


---

「ここでは」

ノエリアは一歩も引かない。

「孤児たちは、
作業を“選んで”います」

「拒否も出来ます」

「出来ないことを理由に、
食事を減らすこともありません」

「では」

役人が問う。

「なぜ、
働かせるのです?」

ノエリアは、少しだけ目を細めた。

「働かないと、
生きられないからです」

即答だった。

「それは、
孤児に限った話ではありません」

「大人も同じです」

場が、静まり返る。


---

パン職人が、恐る恐る口を挟んだ。

「……味は、
どうやって?」

「基礎から、教えています」

「分量、火、時間」

「感覚に頼らせていません」

商人が、息を呑む。

「……それは、
職人のやり方だ」

「ええ」

ノエリアは頷く。

「だから、
彼らは、
“作れる”ようになります」


---

役人は、深く息を吐いた。

「……調査が、
入るかもしれません」

「構いません」

ノエリアは即答した。

「帳簿も、
記録も、
すべて残しています」

「隠すことは、
何もありません」

役人は、言葉を失った。


---

彼らが去ったあと、
孤児院には、いつも通りの空気が戻った。

「……怒られませんでした?」

誰かが小さく聞く。

「怒られてはいません」

ノエリアは答える。

「ただ、
見られ始めただけです」

子供たちは、不安そうに顔を見合わせる。

「怖い?」

ノエリアが尋ねる。

数秒の沈黙のあと、
リリィが首を振った。

「……ちゃんとやってます」

「ええ」

「だったら、
問題ありません」

それだけだった。


---

夕方、猫が中庭で転がっている。

相変わらず、
世界の動きに興味がない。

「……外が、
少し騒がしくなるわ」

猫は答えない。

だが、
子猫が四匹、
母猫の腹に顔をうずめている。

守るべきものが増えるのは、
悪いことではない。

ノエリアは、そう考えていた。

孤児院は、
もう“隠れた場所”ではない。

だが、
胸を張って見せられる。

それだけのことを、
すでにしているのだから。


---

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