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第12話 初めて、外で名前が呼ばれる
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第12話 初めて、外で名前が呼ばれる
最初に声がかかったのは、
孤児院の中でも目立たない少年だった。
名前は、エル。
畑でも、調理棟でも、
中心に立つことはない。
だが、道具の管理と記録を任され、
誰よりも正確に仕事をこなしていた。
---
「……君、
帳簿をつけているのは本当か?」
門の前で声をかけてきたのは、
町の商会に勤める男だった。
服装は地味だが、
目だけが鋭い。
「はい」
エルは即答した。
「数字は、
嘘をつかないと教わりました」
男は、一瞬だけ口元を緩めた。
「試しに、
これを見てくれ」
差し出されたのは、
簡単な在庫表。
だが、
わざと誤差が混ぜられている。
エルは、少し考えたあと、
指で示した。
「……ここです」
「仕入れと、
使用量が合っていません」
男は、驚きを隠さなかった。
「……いくつだ?」
「三単位、
余っています」
正解だった。
---
話は、すぐにノエリアのもとへ届いた。
「……商会から、
見習いを一人、
借りたいと」
執事が言葉を選ぶ。
「借りる?」
「ええ」
ノエリアは頷いた。
「条件は?」
「昼だけ。
賃金は、
本人に直接支払うと」
ノエリアは、少し考えた。
「本人の意思は?」
「……行きたいと」
「では、
止める理由はありません」
即答だった。
---
子供たちは、ざわついた。
「外で、
働くの?」
「……怖くない?」
エル自身も、
不安そうだった。
ノエリアは、静かに言った。
「条件を、
自分で確認しなさい」
「嫌なら、
断っていい」
「帰りたくなったら、
帰ってきなさい」
それだけだった。
---
商会での初日。
エルは、
指示を待たなかった。
「何を、
優先すべきですか?」
男は、少し意外そうに答えた。
「……まず、
在庫の確認だ」
「分かりました」
エルは、
帳簿を開き、
黙々と作業を始めた。
昼過ぎ。
「……君、
何をしている?」
「余剰と不足を、
分けています」
「なぜ?」
「判断しやすいからです」
男は、
何も言えなくなった。
---
その日の夕方。
「……明日も、
来られるか?」
「はい」
「賃金は?」
「提示された額で、
問題ありません」
男は、深く息を吐いた。
「……君、
孤児院出身だな」
「はい」
「教えたのは、
誰だ?」
エルは、
少しだけ考えて答えた。
「……教えられたというより」
「考えろ、と」
それだけだった。
---
その噂は、
すぐに広がった。
「孤児院の子が、
商会で使える」
「しかも、
手を抜かない」
「……教育が、
違うらしい」
噂は、
以前とは違う方向に進み始める。
---
数日後、
別の話が来た。
「……畑仕事を、
手伝ってほしい」
「……調理の補助を」
「……計算の出来る子を」
ノエリアは、
すべて同じ答えを返した。
「本人に、
直接聞いてください」
「条件を、
提示してください」
「断られたら、
それまでです」
---
孤児院では、
子供たちの空気が変わっていた。
「……外で、
通じたって」
「……すごい」
「……私も、
出来るかな」
ノエリアは、
その様子を静かに見ていた。
「外で評価されるのは、
特別なことではありません」
集まった子供たちに告げる。
「ここで身につけているのは、
“使われる技術”ではなく」
「“自分で判断する力”です」
「それは、
どこでも通じます」
---
夕方、
エルが戻ってきた。
少し疲れているが、
表情は明るい。
「……どうでした?」
誰かが聞く。
「……静かでした」
正直な答えだった。
「でも」
「ちゃんと、
聞いてもらえました」
その言葉に、
子供たちの目が輝く。
---
その夜、
ノエリアは中庭で立ち止まった。
猫が、
相変わらず足元で転がっている。
子猫たちは、
もう一匹で遊べるようになっていた。
「……外は、
もう見始めたわ」
猫は答えない。
だが、
逃げもしない。
孤児院は、
守られる場所ではなくなった。
送り出す場所になり始めている。
それは、
誰にも奪えない価値だった。
---
最初に声がかかったのは、
孤児院の中でも目立たない少年だった。
名前は、エル。
畑でも、調理棟でも、
中心に立つことはない。
だが、道具の管理と記録を任され、
誰よりも正確に仕事をこなしていた。
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「……君、
帳簿をつけているのは本当か?」
門の前で声をかけてきたのは、
町の商会に勤める男だった。
服装は地味だが、
目だけが鋭い。
「はい」
エルは即答した。
「数字は、
嘘をつかないと教わりました」
男は、一瞬だけ口元を緩めた。
「試しに、
これを見てくれ」
差し出されたのは、
簡単な在庫表。
だが、
わざと誤差が混ぜられている。
エルは、少し考えたあと、
指で示した。
「……ここです」
「仕入れと、
使用量が合っていません」
男は、驚きを隠さなかった。
「……いくつだ?」
「三単位、
余っています」
正解だった。
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話は、すぐにノエリアのもとへ届いた。
「……商会から、
見習いを一人、
借りたいと」
執事が言葉を選ぶ。
「借りる?」
「ええ」
ノエリアは頷いた。
「条件は?」
「昼だけ。
賃金は、
本人に直接支払うと」
ノエリアは、少し考えた。
「本人の意思は?」
「……行きたいと」
「では、
止める理由はありません」
即答だった。
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子供たちは、ざわついた。
「外で、
働くの?」
「……怖くない?」
エル自身も、
不安そうだった。
ノエリアは、静かに言った。
「条件を、
自分で確認しなさい」
「嫌なら、
断っていい」
「帰りたくなったら、
帰ってきなさい」
それだけだった。
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商会での初日。
エルは、
指示を待たなかった。
「何を、
優先すべきですか?」
男は、少し意外そうに答えた。
「……まず、
在庫の確認だ」
「分かりました」
エルは、
帳簿を開き、
黙々と作業を始めた。
昼過ぎ。
「……君、
何をしている?」
「余剰と不足を、
分けています」
「なぜ?」
「判断しやすいからです」
男は、
何も言えなくなった。
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その日の夕方。
「……明日も、
来られるか?」
「はい」
「賃金は?」
「提示された額で、
問題ありません」
男は、深く息を吐いた。
「……君、
孤児院出身だな」
「はい」
「教えたのは、
誰だ?」
エルは、
少しだけ考えて答えた。
「……教えられたというより」
「考えろ、と」
それだけだった。
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その噂は、
すぐに広がった。
「孤児院の子が、
商会で使える」
「しかも、
手を抜かない」
「……教育が、
違うらしい」
噂は、
以前とは違う方向に進み始める。
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数日後、
別の話が来た。
「……畑仕事を、
手伝ってほしい」
「……調理の補助を」
「……計算の出来る子を」
ノエリアは、
すべて同じ答えを返した。
「本人に、
直接聞いてください」
「条件を、
提示してください」
「断られたら、
それまでです」
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孤児院では、
子供たちの空気が変わっていた。
「……外で、
通じたって」
「……すごい」
「……私も、
出来るかな」
ノエリアは、
その様子を静かに見ていた。
「外で評価されるのは、
特別なことではありません」
集まった子供たちに告げる。
「ここで身につけているのは、
“使われる技術”ではなく」
「“自分で判断する力”です」
「それは、
どこでも通じます」
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夕方、
エルが戻ってきた。
少し疲れているが、
表情は明るい。
「……どうでした?」
誰かが聞く。
「……静かでした」
正直な答えだった。
「でも」
「ちゃんと、
聞いてもらえました」
その言葉に、
子供たちの目が輝く。
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その夜、
ノエリアは中庭で立ち止まった。
猫が、
相変わらず足元で転がっている。
子猫たちは、
もう一匹で遊べるようになっていた。
「……外は、
もう見始めたわ」
猫は答えない。
だが、
逃げもしない。
孤児院は、
守られる場所ではなくなった。
送り出す場所になり始めている。
それは、
誰にも奪えない価値だった。
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