『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第14話 条件を出すのは、誰か

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第14話 条件を出すのは、誰か

王都の貴族会議室は、昼なお薄暗かった。

重い扉。
厚い絨毯。
磨かれた机。

そこに集められたのは、
視察を主導した数名の貴族と、
調整役の役人たち。

議題は一つ。

「アルヴェイン家の孤児院について」


---

「……率直に言おう」

年長の貴族が口火を切る。

「成果が出すぎている」

「人材が育ち、
外部で評価され、
噂が先行している」

別の貴族が頷く。

「放置すれば、
制御不能になる」

「ならば?」

「管理下に置く」

言葉は、
あまりにも自然に出た。


---

同じ頃、
アルヴェイン家の屋敷には、
正式な招請状が届いていた。

> 「貴族会として、
孤児院運営に関する協議を行いたい」



執事は、
無意識に声を低くする。

「……圧力です」

「ええ」

ノエリアは、即座に答える。

「ですが、
来るのは予想通りです」


---

会議の場に現れたノエリアは、
簡素な服装だった。

装飾も、
威圧もない。

ただ、
姿勢だけが崩れていない。

「本日は、
お時間をいただき感謝します」

挨拶は丁寧。
だが、媚びはない。


---

最初に提示されたのは、
「協力」の名を借りた案だった。

「孤児院を、
公的な人材育成施設として登録する」

「指導内容を、
一定の基準に合わせる」

「見返りとして、
資金援助を行う」

一見、
好条件に見える。

だが、
ノエリアは首を横に振った。

「お断りします」

即答だった。

会議室が、
一瞬静まる。


---

「理由を、
お聞かせ願えますか」

「はい」

ノエリアは、
落ち着いて答える。

「基準を決めるのは、
誰ですか?」

「……貴族会ですが」

「その基準は、
子供たちの成長を見て、
変えられますか?」

沈黙。

「人材育成は、
固定された型では出来ません」

「それを、
“基準”で縛るなら」

「ここは、
育成施設ではなくなります」


---

別の貴族が、
少し苛立ちを滲ませる。

「では、
我々は何も得られないと?」

「得ています」

ノエリアは即答した。

「すでに」

「人材が育ち、
社会に流れています」

「それ以上を求めるのは、
“管理”です」

言葉が、
静かに刺さる。


---

次に出されたのは、
より露骨な案だった。

「では、
優秀な孤児を、
優先的に紹介してもらいたい」

「貴族家の使用人として」

「待遇は保証する」

ノエリアは、
一拍置いてから答える。

「本人が望むなら、
止めません」

「ただし」

「条件は、
本人と直接交渉してください」

「当家が、
仲介することはありません」


---

「なぜです?」

「依存を、
作らないためです」

即答だった。

「ここは、
人を送り出す場所です」

「人を囲う場所ではありません」


---

会議は、
次第に空気を変えていく。

圧力。
牽制。
遠回しな脅し。

だが、
ノエリアは一切、
表情を変えなかった。

「……理解しました」

最後に、
年長の貴族が言った。

「貴女は、
条件を飲まない」

「ええ」

「ならば」

「我々は、
貴女を“監視”する」

ノエリアは、
静かに頷いた。

「構いません」


---

会議が終わり、
帰路につく馬車の中。

執事が、
小さく息を吐いた。

「……敵に回したのでは?」

「いいえ」

ノエリアは首を横に振る。

「立場を、
はっきりさせただけです」


---

孤児院では、
子供たちが集まっていた。

「……何か、
言われましたか?」

リリィが尋ねる。

「ええ」

ノエリアは答える。

「欲しい、と」

ざわめき。

「……どうしますか?」

「何もしません」

即答だった。

「ここでやることは、
変わりません」

「変える必要が、
ないからです」


---

夕方、
中庭で猫が日向ぼっこをしている。

子猫たちは、
互いにじゃれ合っている。

「……条件を出すのは、
向こうだと思っていたでしょうね」

猫は答えない。

だが、
逃げもしない。

ノエリアは、
ゆっくりと歩きながら考える。

支配したい者は、
必ず条件を出す。

だが、
育てる者は、
条件を押し付けない。

孤児院は、
交渉の場ではない。

選択の場だ。

それを理解出来ない者に、
ここを触らせるつもりはなかった。


---
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