『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第15話 変わらないという強さ

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第15話 変わらないという強さ

孤児院の朝は、いつも通り始まった。

畑に出る者。
調理棟に向かう者。
帳簿の前に座る者。

誰かが指示を叫ぶことはない。
だが、誰も迷わない。

それが、すでに異常だと――
外の大人たちは、まだ気づいていなかった。


---

「……今日、見回りの人が来てます」

門番役の少年が、小声で告げる。

門の外には、
役人と、どこか落ち着かない貴族の若者が立っていた。

監視役だ。

ノエリアは、
その報告を聞いても顔色を変えない。

「作業は、
いつも通り続けなさい」

「彼らには、
見たいものを見せてあげればいい」

「……いつも通り?」

「ええ」

「それ以上でも、
それ以下でもありません」


---

畑では、
カイルが土の状態を確認していた。

「今日は、
この列は休ませる」

「……でも、
収穫量が減ります」

若い子が不安そうに言う。

「一日減っても、
一週間後に増える」

カイルは、
自分の言葉で説明する。

それを、
誰も疑わない。


---

調理棟では、
ミナが新しい子に火の扱いを教えていた。

「火は、
急に強くならない」

「強くなる前に、
必ず兆しがある」

「……どうやって、
分かるの?」

「匂い」

即答だった。

「覚えなさい」

「これは、
文字じゃなくて、
経験よ」

ミナは、
もう「教える側」だった。


---

帳簿の前では、
リリィが別の少女に説明している。

「数字は、
感情を持たない」

「でも、
嘘をついた人の癖は、
必ず残る」

「……分かるの?」

「慣れれば」

淡々と、
だが自信を持って言う。

それを、
監視役の貴族が、
遠くから見ていた。

(……教えられている、
というより……)

(引き継がれている?)


---

昼前、
監視役がノエリアに近づいた。

「……特別な指導は?」

「ありません」

「規則は?」

「最低限だけです」

「罰則は?」

「ありません」

監視役は、
困惑を隠せない。

「……では、
なぜ秩序が?」

ノエリアは、
少しだけ考えてから答えた。

「責任が、
役割と一緒に渡っているからです」


---

昼食は、
以前より少し質が上がっていた。

派手ではない。
だが、安定している。

「……今日は、
昨日より美味しい」

誰かが言う。

「理由は?」

別の子が聞く。

「……昨日、
失敗したから」

小さな笑いが起きる。

それを、
ノエリアは遠くから見ていた。

(育っている)

それは、
数字には出ない成長だった。


---

午後、
新しく来た孤児が、
ノエリアのもとに立った。

年は、
十にも満たない。

「……何を、
すればいいですか?」

その問いに、
ノエリアはすぐに答えない。

「何が出来るか、
分かりますか?」

首を振る。

「……分かりません」

「では」

ノエリアは、
静かに言った。

「まず、
見なさい」

「一日、
誰かの後ろにいなさい」

「質問は、
三つまで」

少年は、
目を見開いた。

「……三つ?」

「多いと、
覚えきれません」

「少なすぎると、
考えません」

それだけだった。


---

夕方、
その少年は、
ミナの後ろにいた。

「……火は、
怖くないですか?」

「怖い」

即答だった。

「だから、
見続けるの」

少年は、
真剣に頷いた。


---

監視役たちは、
一日見て、
何も言えなくなっていた。

違反はない。
強制もない。
虐待もない。

だが、
“管理されていないのに、崩れない”

それが、
最も理解しづらい点だった。


---

夜、
ノエリアは中庭に立っていた。

足元では、
猫と子猫たちが丸くなっている。

「……見られても、
変わらない」

猫は答えない。

だが、
一匹の子猫が、
よちよちと歩き出す。

母猫は、
手を出さない。

転んでも、
見ているだけ。

「……そうね」

ノエリアは、
小さく息を吐いた。

育てるとは、
手を出さないことで
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