『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第21話 焦りは、理屈の仮面を被る

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第21話 焦りは、理屈の仮面を被る

孤児院への圧力が始まってから、
王都では奇妙な沈黙が続いていた。

声高な非難は減った。
だが、それは沈静化ではない。

調整が始まっただけだ。


---

貴族会の一角。
閉ざされた小会議室に、数名の貴族が集められていた。

共通点は一つ。

――孤児院を危険視してきた者たち。

「……包囲が、効いていない」

誰かが、苛立ちを隠さず口にする。

「仕事が止まった程度で、
彼女は一歩も動かない」

「孤児院内部も、
混乱していない」

「むしろ……」

言葉が途切れる。

「“正しい”ように見え始めている」

その言葉が、
最も場の空気を悪くした。


---

「感情論では勝てない」

年配の貴族が、低い声で言う。

「ならば、
理屈で縛る」

「理屈?」

「“子供の安全”だ」

誰も、否定しなかった。

それは、
最も使いやすい大義だった。


---

「彼女は、
孤児を“人材”として扱っている」

「それは事実だ」

「ならば、
そこを突く」

「教育と労働の境界を、
曖昧にしていると」

言葉は、
慎重に選ばれている。

だが、
狙いは明確だった。


---

「……証拠は?」

若い貴族が問う。

一瞬の沈黙。

「“可能性”でいい」

誰かが答えた。

「調査中、
という形で止める」

「止めてしまえば」

「現場が回らず、
評価は落ちる」

「彼女も、
折れるだろう」

その読みは、
致命的に甘かった。


---

同じ頃、
孤児院では、
静かな変化が起きていた。

「……戻ってきた子たちが、
増えています」

執事の報告に、
ノエリアは頷く。

「居場所が、
なくなったのですね」

「はい」

「受け入れます」

理由は、
それだけだった。


---

戻ってきた若者たちは、
不満を口にしない。

むしろ、
落ち着いていた。

「……外は、
判断が遅い」

「決める人が、
いない」

「責任を、
誰も持たない」

それが、
彼らの感想だった。


---

ノエリアは、
彼らに何も指示しない。

「ここでは、
今まで通りでいい」

それだけ。

だが、
その“今まで通り”が、
外では成立しなくなっていた。


---

王城では、
補佐官たちが頭を抱えていた。

「……孤児院出身者の件、
各所で影響が出ています」

「直接、
制限はしていないはずだ」

「ですが、
“調査中”という噂が広がり」

「判断が、
止まっています」

王太子クラウスは、
黙って聞いていた。

彼は、
理解し始めていた。

(止められない)

問題は、
孤児院ではない。

人が育ってしまったことだ。


---

一方、
敵対派は焦っていた。

「王家が、
動かない」

「世論も、
割れてきた」

「ならば――」

声が低くなる。

「こちらから、
“決定”を作る」

それが、
第22話へと繋がる
致命的な判断だった。


---

その夜、
ノエリアは、
書類を整理していた。

机の上には、
過去の帳簿。

育てた人材の履歴。

誰が、
どこで、
何をしているか。

すべて、
把握している。

「……来るわね」

独り言のように呟く。

執事が、
静かに問う。

「何が、
でしょうか」

「理屈を、
武器にした人たちです」


---

「怖くは?」

「いいえ」

即答だった。

「理屈は、
崩せます」

「でも」

一拍。

「感情は、
放っておくと
暴走します」

それを、
彼女は知っていた。


---

中庭で、
猫が月を見ている。

子猫たちは、
眠っている。

「……ここは、
守る場所じゃない」

ノエリアは、
静かに言う。

「育てたら、
外に出す」

「だから、
壊されない」

建物を止められても、
意味はない。

人は、
もう散っている。


---

翌朝、
一通の“非公式な噂”が、
王都を巡り始めた。

> 「孤児院に、
深刻な問題があるらしい」



その言葉が、
どこから出たかは、
誰も言わない。

だが、
ノエリアは確信した。

(……選んだわね)

敵対派は、
もう引き返せない。

そしてその選択が、
彼ら自身を壊すことになる。

静かに。
確実に。


---
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