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第14話 不意の来訪者
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第14話 不意の来訪者
その知らせは、朝の業務が一段落した頃に届いた。
「……王都から、使者が到着しています」
事務官の声は、いつもより少し硬い。
ミディア・バイエルンは、手元の書類から顔を上げた。
「人数は?」
「二名です。正式な外交使節ではなく……個人的な訪問のようです」
――個人的。
その言葉だけで、誰の差し金かは想像がついた。
「通してください」
短く告げると、ミディアは席を立った。
逃げる理由はない。ここは、彼女の仕事場だ。
応接室に現れたのは、見覚えのある顔だった。
王太子アルトゥールの側近として動いていた貴族と、教会関係者を名乗る男。
「お久しぶりです、ミディア様」
形式ばった笑顔。
王都特有の、距離を測るような視線。
「ようこそ、アルツハイム領へ」
ミディアは、淡々と応じた。
「ご用件は?」
早速本題に入る。その姿勢に、二人は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……王都では、あなたの噂が広まっています」
側近が、探るように言う。
「辺境で、随分と活躍されているとか」
「噂は、噂です」
ミディアは、椅子に腰を下ろした。
「事実は、目の前の書類にしかありません」
その言葉に、教会関係者が軽く咳払いをした。
「聖務の観点からも、少々気になる点がありまして」
「聖務?」
「辺境の改革が、あまりにも急進的だと……」
ミディアは、眉一つ動かさなかった。
「急進的かどうかは、結果で判断してください」
「ですが――」
「数字は、嘘をつきません」
遮るように言い切る。
その瞬間、室内の空気が一段冷えた。
「……王都としては」
側近が言葉を選びながら続ける。
「あなたを、再び王宮の近くで活用したい、という声もあります」
遠回しな“復帰”の打診。
いや、“回収”と言った方が正しい。
「ありがたいお話です」
ミディアは、礼儀正しく頭を下げた。
「ですが、すでにお返事は差し上げたはずです」
二人は、互いに視線を交わす。
「……アルトゥール殿下も、あなたの能力を惜しんでおられます」
その名を聞いても、心は揺れなかった。
「そうですか」
それだけだ。
そこへ、扉が静かに開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、アイロス・アルツハイムだった。
「こちらは、私の領政補佐です」
淡々と、だがはっきりと言い切る。
「彼女の業務についてのご質問であれば、領主代理である私が対応します」
側近の表情が、わずかに引きつった。
「……これは、非公式な場でして」
「非公式であるなら、なおさらです」
アイロスは、視線を逸らさない。
「この領地の判断は、この領地で下します」
沈黙。
王都の二人は、これ以上踏み込めないことを悟ったようだった。
「……本日は、ご挨拶まで」
そう言って立ち上がる。
「長旅、お疲れ様でした」
ミディアは、最後まで丁寧だった。
二人が去った後、応接室に静けさが戻る。
「……強かったですね」
ミディアが、ふっと息を吐く。
「当然です」
アイロスは、即答した。
「あなたは、ここで必要な人間だ」
その言葉に、ミディアは一瞬だけ目を伏せた。
「……ありがとうございます」
「礼は、仕事で返してください」
少しだけ、口元が緩む。
その夜、政庁の外では、街道工事の灯りが揺れていた。
人々は、王都の使者が来ていたことなど知らない。
だが、それでいい。
辺境の未来は、もう、王都の思惑だけで動くものではなくなっている。
ミディア・バイエルンは、静かに確信していた。
ここは、もう“仮の居場所”ではない。
選ばれた場所でも、戻る場所でもない。
――自分で、掴んだ場所だ。
その知らせは、朝の業務が一段落した頃に届いた。
「……王都から、使者が到着しています」
事務官の声は、いつもより少し硬い。
ミディア・バイエルンは、手元の書類から顔を上げた。
「人数は?」
「二名です。正式な外交使節ではなく……個人的な訪問のようです」
――個人的。
その言葉だけで、誰の差し金かは想像がついた。
「通してください」
短く告げると、ミディアは席を立った。
逃げる理由はない。ここは、彼女の仕事場だ。
応接室に現れたのは、見覚えのある顔だった。
王太子アルトゥールの側近として動いていた貴族と、教会関係者を名乗る男。
「お久しぶりです、ミディア様」
形式ばった笑顔。
王都特有の、距離を測るような視線。
「ようこそ、アルツハイム領へ」
ミディアは、淡々と応じた。
「ご用件は?」
早速本題に入る。その姿勢に、二人は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……王都では、あなたの噂が広まっています」
側近が、探るように言う。
「辺境で、随分と活躍されているとか」
「噂は、噂です」
ミディアは、椅子に腰を下ろした。
「事実は、目の前の書類にしかありません」
その言葉に、教会関係者が軽く咳払いをした。
「聖務の観点からも、少々気になる点がありまして」
「聖務?」
「辺境の改革が、あまりにも急進的だと……」
ミディアは、眉一つ動かさなかった。
「急進的かどうかは、結果で判断してください」
「ですが――」
「数字は、嘘をつきません」
遮るように言い切る。
その瞬間、室内の空気が一段冷えた。
「……王都としては」
側近が言葉を選びながら続ける。
「あなたを、再び王宮の近くで活用したい、という声もあります」
遠回しな“復帰”の打診。
いや、“回収”と言った方が正しい。
「ありがたいお話です」
ミディアは、礼儀正しく頭を下げた。
「ですが、すでにお返事は差し上げたはずです」
二人は、互いに視線を交わす。
「……アルトゥール殿下も、あなたの能力を惜しんでおられます」
その名を聞いても、心は揺れなかった。
「そうですか」
それだけだ。
そこへ、扉が静かに開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、アイロス・アルツハイムだった。
「こちらは、私の領政補佐です」
淡々と、だがはっきりと言い切る。
「彼女の業務についてのご質問であれば、領主代理である私が対応します」
側近の表情が、わずかに引きつった。
「……これは、非公式な場でして」
「非公式であるなら、なおさらです」
アイロスは、視線を逸らさない。
「この領地の判断は、この領地で下します」
沈黙。
王都の二人は、これ以上踏み込めないことを悟ったようだった。
「……本日は、ご挨拶まで」
そう言って立ち上がる。
「長旅、お疲れ様でした」
ミディアは、最後まで丁寧だった。
二人が去った後、応接室に静けさが戻る。
「……強かったですね」
ミディアが、ふっと息を吐く。
「当然です」
アイロスは、即答した。
「あなたは、ここで必要な人間だ」
その言葉に、ミディアは一瞬だけ目を伏せた。
「……ありがとうございます」
「礼は、仕事で返してください」
少しだけ、口元が緩む。
その夜、政庁の外では、街道工事の灯りが揺れていた。
人々は、王都の使者が来ていたことなど知らない。
だが、それでいい。
辺境の未来は、もう、王都の思惑だけで動くものではなくなっている。
ミディア・バイエルンは、静かに確信していた。
ここは、もう“仮の居場所”ではない。
選ばれた場所でも、戻る場所でもない。
――自分で、掴んだ場所だ。
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