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第31話 介入しない選択
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第31話 介入しない選択
変化は、音を立てずにやって来る。
それは命令でも、宣言でもなく、
「しない」という選択として、静かに積み重なっていく。
朝の会議が終わった後、補佐官の一人が控えめに切り出した。
「……相談があります」
「どうぞ」
ミディア・バイエルンは、書類を閉じ、顔を上げる。
「南側の集落で、小さな対立が起きています」
「内容は?」
「水の使用順です。
畑の拡張で、時間帯が重なり始めまして」
よくある話だ。
制度を整えれば、必ず出てくる。
「調停を?」
「……はい。
ミディア様の名前を出せば、すぐ収まるかと」
その言葉に、ミディアは首を振った。
「出しません」
「え?」
「今回は、出しません」
会議室に、短い沈黙が落ちる。
「理由は?」
「彼ら自身で、決める必要があるからです」
補佐官は、戸惑いを隠せない。
「ですが、長引けば不満が……」
「長引いてもいい」
ミディアの声は、穏やかだ。
「壊れない限りは」
午後、現場の様子を遠くから確認する。
直接は、関わらない。
農夫たちは、集まり、言い合い、
やがて、疲れて座り込んだ。
「……こうしてる時間が、無駄だな」
誰かが言う。
「順番、決めるか」
「記録、残そう」
声は荒いが、方向は一つだ。
ミディアは、距離を保ったまま、その様子を見ていた。
「……手を出さなくて、よかったですね」
同行した補佐官が、ぽつりと呟く。
「ええ」
「でも、放置に見えませんか」
「介入しないのと、放置は違います」
ミディアは、視線を外さずに答える。
「選択肢を奪わない。
それが、ここでの介入です」
夕方には、簡単な合意ができていた。
完璧ではない。
だが、自分たちで決めた、という実感がある。
夜、政庁に戻ると、短い報告が届いていた。
――当事者間で解決。
――今後の調整案あり。
ミディアは、報告書に目を通し、承認印を押さなかった。
必要がないからだ。
その判断に、誰も異を唱えない。
王都なら、
誰の権限か、
誰の手柄か、
必ず問われた。
だが、ここでは違う。
介入しない選択は、
責任を放棄することではない。
責任を、戻すことだ。
「……難しいですね」
夜更け、アイロス・アルツハイムが言う。
「強く出る方が、楽な時もあります」
「ええ」
ミディアは、認める。
「ですが、楽なやり方は、長く続きません」
窓の外、灯りは少ない。
それでも、人は眠り、明日を迎える。
「ここでは、私が決めないことが、増えていきます」
「それは……あなたの影響力が下がるということでは?」
「いいえ」
ミディアは、静かに笑った。
「必要なくなる、ということです」
必要とされ続けることは、
支配と紙一重だ。
必要でなくなることは、
自立の始まりだ。
ミディア・バイエルンは、灯りを落とし、扉を閉めた。
介入しない選択は、
見えにくく、評価されにくい。
だが、その積み重ねこそが、
この場所を、誰のものでもない場所にしていく。
そしてそれは、
彼女が王都で、決して選べなかった道だった。
変化は、音を立てずにやって来る。
それは命令でも、宣言でもなく、
「しない」という選択として、静かに積み重なっていく。
朝の会議が終わった後、補佐官の一人が控えめに切り出した。
「……相談があります」
「どうぞ」
ミディア・バイエルンは、書類を閉じ、顔を上げる。
「南側の集落で、小さな対立が起きています」
「内容は?」
「水の使用順です。
畑の拡張で、時間帯が重なり始めまして」
よくある話だ。
制度を整えれば、必ず出てくる。
「調停を?」
「……はい。
ミディア様の名前を出せば、すぐ収まるかと」
その言葉に、ミディアは首を振った。
「出しません」
「え?」
「今回は、出しません」
会議室に、短い沈黙が落ちる。
「理由は?」
「彼ら自身で、決める必要があるからです」
補佐官は、戸惑いを隠せない。
「ですが、長引けば不満が……」
「長引いてもいい」
ミディアの声は、穏やかだ。
「壊れない限りは」
午後、現場の様子を遠くから確認する。
直接は、関わらない。
農夫たちは、集まり、言い合い、
やがて、疲れて座り込んだ。
「……こうしてる時間が、無駄だな」
誰かが言う。
「順番、決めるか」
「記録、残そう」
声は荒いが、方向は一つだ。
ミディアは、距離を保ったまま、その様子を見ていた。
「……手を出さなくて、よかったですね」
同行した補佐官が、ぽつりと呟く。
「ええ」
「でも、放置に見えませんか」
「介入しないのと、放置は違います」
ミディアは、視線を外さずに答える。
「選択肢を奪わない。
それが、ここでの介入です」
夕方には、簡単な合意ができていた。
完璧ではない。
だが、自分たちで決めた、という実感がある。
夜、政庁に戻ると、短い報告が届いていた。
――当事者間で解決。
――今後の調整案あり。
ミディアは、報告書に目を通し、承認印を押さなかった。
必要がないからだ。
その判断に、誰も異を唱えない。
王都なら、
誰の権限か、
誰の手柄か、
必ず問われた。
だが、ここでは違う。
介入しない選択は、
責任を放棄することではない。
責任を、戻すことだ。
「……難しいですね」
夜更け、アイロス・アルツハイムが言う。
「強く出る方が、楽な時もあります」
「ええ」
ミディアは、認める。
「ですが、楽なやり方は、長く続きません」
窓の外、灯りは少ない。
それでも、人は眠り、明日を迎える。
「ここでは、私が決めないことが、増えていきます」
「それは……あなたの影響力が下がるということでは?」
「いいえ」
ミディアは、静かに笑った。
「必要なくなる、ということです」
必要とされ続けることは、
支配と紙一重だ。
必要でなくなることは、
自立の始まりだ。
ミディア・バイエルンは、灯りを落とし、扉を閉めた。
介入しない選択は、
見えにくく、評価されにくい。
だが、その積み重ねこそが、
この場所を、誰のものでもない場所にしていく。
そしてそれは、
彼女が王都で、決して選べなかった道だった。
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