婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ

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第37話 置き去りにされる王都

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第37話 置き去りにされる王都

 王都では、説明のつかない違和感が広がっていた。

 辺境伯領の名は、もう話題にすらならない。
 炎上もしない。
 称賛も、非難も、どちらも起きない。

 ――関心が、続かない。

「……妙だな」

 評議会の一室で、年配の貴族が呟いた。

「放置しているわけではない。
 だが、管理している実感もない」

「数字は?」

「悪くない。
 だが、“比較できない”」

 そこに、答えはあった。

 王都は、常に比較で動いてきた。
 上か、下か。
 成功か、失敗か。

 だが、辺境伯領は、その土俵に立っていない。

「王太子殿下は?」

 誰かが、恐る恐る口にする。

「……何も言われていない」

 それが、事実だった。

 アルトゥールは、辺境の話題を避けている。
 触れれば、説明を求められるからだ。

 ――なぜ、戻らせないのか。
 ――なぜ、切らなかったのか。

 どちらも、答えがない。

 一方、その頃。

 辺境伯領では、季節の変わり目を迎えていた。

「今年は、早めに種を蒔けます」

 農務担当が報告する。

「水路が安定していますから」

「無理はしないでください」

 ミディア・バイエルンは、いつも通りの調子で答える。

「失敗しない年を、積み重ねましょう」

 それは、地味な目標だ。
 だが、最も難しい。

 午後、集落の集会所で、小さな話し合いが行われていた。

「去年より、少し楽だな」

「急に何かが変わったわけじゃないけど」

「続いてる、って感じがする」

 誰も、王都の名を出さない。
 比較する対象が、もう必要ないからだ。

 ミディアは、少し離れた場所で、それを聞いていた。

「……王都は、置き去りですね」

 隣で、アイロス・アルツハイムが静かに言う。

「ええ」

 ミディアは、否定しない。

「こちらが、歩みを変えていないので」

 速くなったわけではない。
 派手になったわけでもない。

 ただ、止まらなかった。

「王都は、常に“次の手”を探します」

「こちらは?」

「今日を、繰り返します」

 その違いが、距離を生んだ。

 夕方、政庁に戻る途中、若い職員が声をかけてきた。

「……あの、王都に戻る話、もう出ませんね」

「はい」

「少し、寂しくありませんか」

 ミディアは、立ち止まり、少し考えた。

「置いていかれる側は、寂しいでしょう」

「え?」

「でも、こちらは――」

 静かに、続ける。

「前を向いているだけです」

 夜、執務室の灯りが消える。

 王都では、今も会議が続いているだろう。
 次の策、次の評価、次の比較。

 だが、ここでは違う。

 辺境伯領は、
 王都を敵にしたわけでも、
 離反したわけでもない。

 ただ、待たなくなった。

 その結果、
 王都の方が、置き去りにされている。

 ミディア・バイエルンは、窓の外の静かな街を見下ろした。

 灯りは少ない。
 だが、確実に、明日へ続いている。

 置き去りにされたのは、
 人ではない。

 古い基準と、古い焦りだった。

 そしてそれは、
 誰にも責められないまま、
 静かに、遠ざかっていく。
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