婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ

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第39話 終わらせない日常

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第39話 終わらせない日常

 完成したものは、動かなくなる――
 そんな考え方が、王都では当たり前だった。

 制度は完成すれば固定され、
 役職は定まれば守られ、
 物語は、区切りを打たれる。

 だが、ここでは違う。

 完成したのは「戻らない」という選択だけで、
 日常は、終わらせない。

 朝、政庁の裏庭で、若い職員たちが簡単な打ち合わせをしている。

「今週は、倉庫の清掃を前倒しで」

「雨が来そうだからな」

「じゃあ、今日の午後に半分やろう」

 そこに、上からの指示はない。
 だが、勝手でもない。

 それが、この場所の普通になっていた。

 ミディア・バイエルンは、少し離れた場所からその様子を眺め、何も言わずに通り過ぎる。

 ――介入しない。
 ――評価しない。
 ――終わらせない。

 それが、今の彼女の役割だった。

 午前中、学校から一通の連絡が入る。

「来年度、教室が一つ足りなくなりそうです」

「理由は?」

「子どもが、増えています」

 ミディアは、即答しなかった。
 少しだけ、考える。

「増築案は?」

「あります。
 ですが、急がなくても来年の春には間に合います」

「では、その予定で」

 特別な判断ではない。
 だが、軽視でもない。

 午後、街道沿いの小さな店で、商人同士が話している。

「ここは、景気が良いって感じじゃないな」

「でも、悪くなる気もしない」

「それが一番だ」

 誰かが、笑う。

 ミディアは、その言葉を胸の中で反芻した。

 王都では、
 良くなるか、悪くなるか。
 上がるか、落ちるか。

 常に、二択だった。

 だが、ここには第三の状態がある。

 ――続いている。

 夕方、アイロス・アルツハイムが、報告を持ってきた。

「地方のいくつかが、こちらのやり方を“真似している”ようです」

「制度として?」

「いいえ。
 雰囲気を、です」

 ミディアは、少しだけ笑った。

「それなら、広がっても問題ありません」

 制度はコピーされると歪む。
 だが、雰囲気は、それぞれの土地で変わる。

「王都は、どうなりますか」

「変わりません」

 即答だった。

「王都は、王都のやり方で動きます」

 それでいい。

 夕暮れ、政庁の窓から街を見下ろす。

 灯りが一つ、また一つと点く。
 特別な演出はない。

 だが、確実に人がいる。

「……終わらせない日常」

 ミディアは、静かに呟いた。

 王都なら、
 ここで物語は終わる。

 成功。
 独立。
 静かな勝利。

 だが、彼女はそれを選ばない。

 物語を終わらせれば、
 また、次の物語が必要になる。

 評価も、対立も、
 再び始まる。

 ここでは、終わらせない。

 完成したまま、
 動き続ける。

 それが、この地の答えだった。

 ミディア・バイエルンは、灯りを落とし、扉を閉める。

 明日も、同じような朝が来る。
 同じような仕事があり、
 同じように、誰も困らない。

 それは、物語としては地味だ。

 だが、人生としては、
 これ以上ないほど、豊かだった。

 終わらせない日常は、
 今日も静かに、続いている。
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