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第40話 それでも、朝は来る
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第40話 それでも、朝は来る
朝は、特別な音を立てずにやって来た。
鐘は鳴る。
店は開く。
人は、歩き出す。
昨日と同じ――
けれど、昨日とは違う朝。
ミディア・バイエルンは、窓を開け、空気を吸い込んだ。
冷たさは、もうほとんど残っていない。
「……春ですね」
それは、報告でも、独り言でもなかった。
ただの事実だ。
政庁では、いつも通りの一日が始まっていた。
「今日は、何からやりますか」
若い職員が、自然に尋ねる。
「急ぐものから」
ミディアは、短く答える。
それだけで、十分だった。
かつて、彼女の一言は“判断”だった。
今は、“確認”に近い。
誰も、結論を委ねていない。
だが、誰も、無視もしていない。
その距離が、ちょうどいい。
午前中、街を歩く。
市場では、値段の相談が続いている。
学校では、子どもたちが笑っている。
工事現場では、いつもの音が響く。
どれも、誰かの功績ではない。
誰かの物語でもない。
ただ、積み重なった日常だ。
昼、簡素な食堂で、同じ席に座る。
「いつものですね」
「はい」
名前は、呼ばれない。
肩書きも、ない。
それで、いい。
午後、アイロス・アルツハイムが、隣に立った。
「……これで、終わりですね」
「いいえ」
ミディアは、首を振る。
「終わりません」
「物語としては?」
「物語なら、ここで終わります」
彼女は、少しだけ微笑んだ。
「でも、生活は続きます」
王都では、きっと今も、
評価が交わされ、
比較が行われ、
次の“結論”が探されているだろう。
だが、ここにはない。
必要ないからだ。
夕方、政庁の灯りが一つずつ消えていく。
残業は、ほとんどない。
だが、仕事が軽いわけでもない。
ただ、無理をしない。
夜、ミディアは机に向かい、最後の記録を閉じた。
特別な一文は、書かない。
締めの言葉も、要らない。
ただ、いつも通りにページをめくり、
そして、閉じる。
「……それでも、朝は来る」
小さく、そう呟いた。
戻らない。
比べない。
終わらせない。
その選択の先にあったのは、
静かな勝利でも、華やかな独立でもない。
――続いていく日々。
誰にも奪われず、
誰にも誇らず、
ただ、生きている時間。
ミディア・バイエルンは、灯りを消し、扉を閉めた。
物語は、ここで終わる。
だが、世界は終わらない。
明日も、同じような朝が来る。
そして、それでいい。
それが、彼女の選んだ――
いちばん静かで、いちばん確かな幸福だった。
朝は、特別な音を立てずにやって来た。
鐘は鳴る。
店は開く。
人は、歩き出す。
昨日と同じ――
けれど、昨日とは違う朝。
ミディア・バイエルンは、窓を開け、空気を吸い込んだ。
冷たさは、もうほとんど残っていない。
「……春ですね」
それは、報告でも、独り言でもなかった。
ただの事実だ。
政庁では、いつも通りの一日が始まっていた。
「今日は、何からやりますか」
若い職員が、自然に尋ねる。
「急ぐものから」
ミディアは、短く答える。
それだけで、十分だった。
かつて、彼女の一言は“判断”だった。
今は、“確認”に近い。
誰も、結論を委ねていない。
だが、誰も、無視もしていない。
その距離が、ちょうどいい。
午前中、街を歩く。
市場では、値段の相談が続いている。
学校では、子どもたちが笑っている。
工事現場では、いつもの音が響く。
どれも、誰かの功績ではない。
誰かの物語でもない。
ただ、積み重なった日常だ。
昼、簡素な食堂で、同じ席に座る。
「いつものですね」
「はい」
名前は、呼ばれない。
肩書きも、ない。
それで、いい。
午後、アイロス・アルツハイムが、隣に立った。
「……これで、終わりですね」
「いいえ」
ミディアは、首を振る。
「終わりません」
「物語としては?」
「物語なら、ここで終わります」
彼女は、少しだけ微笑んだ。
「でも、生活は続きます」
王都では、きっと今も、
評価が交わされ、
比較が行われ、
次の“結論”が探されているだろう。
だが、ここにはない。
必要ないからだ。
夕方、政庁の灯りが一つずつ消えていく。
残業は、ほとんどない。
だが、仕事が軽いわけでもない。
ただ、無理をしない。
夜、ミディアは机に向かい、最後の記録を閉じた。
特別な一文は、書かない。
締めの言葉も、要らない。
ただ、いつも通りにページをめくり、
そして、閉じる。
「……それでも、朝は来る」
小さく、そう呟いた。
戻らない。
比べない。
終わらせない。
その選択の先にあったのは、
静かな勝利でも、華やかな独立でもない。
――続いていく日々。
誰にも奪われず、
誰にも誇らず、
ただ、生きている時間。
ミディア・バイエルンは、灯りを消し、扉を閉めた。
物語は、ここで終わる。
だが、世界は終わらない。
明日も、同じような朝が来る。
そして、それでいい。
それが、彼女の選んだ――
いちばん静かで、いちばん確かな幸福だった。
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