婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第三十一話 拒絶

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第三十一話 拒絶

 朝の空気は冷えていた。

 サウザー公爵邸の庭は霜をまとい、白く縁取られている。

 ナチュは外套を羽織り、廊下を静かに歩いていた。

 昨夜の宣言。

 評価は確定した。

 揺らぎはない。

 それでも、終わりではない。

 線を引くとは、何度でも確認することだ。

 執務室の前で足を止める。

 執事が一礼した。

「ご報告がございます」

「聞きます」

「元ノーランド公爵が……」

 わずかな間。

「再度、面会を求めております」

 沈黙。

 予想はしていた。

 崩れた者は、最後の縁にすがる。

 それが人の性だ。

「理由は」

「娘に会いたい、と」

 情に訴える言葉。

 だが家は情では動かない。

 ナチュは視線を伏せる。

 母の声が胸に浮かぶ。

 地位とは責任の量。

 責任を持たぬ者の言葉に、家は動かぬ。

「お断りください」

 即答だった。

 執事は驚かない。

 すでに答えは読めている。

「理由はどのように」

 ナチュは顔を上げる。

 瞳は揺れていない。

「私はサウザー公爵家の人間です」

 それだけで足りる。

 個人の娘ではない。

 家の一員。

 家の責任を負う立場。

 元公爵が求めているのは、

 救いではない。

 過去への執着だ。

 執事が去る。

 ほどなく門前に伝えられるだろう。

 元公爵は、再び拒まれる。

 だがそれは冷酷ではない。

 線引きだ。

 境界の確認。

 執務室へ入ると、サウザーが書類から顔を上げる。

「来たか」

「はい」

「断ったな」

「はい」

 言葉は短い。

 感情の余白は挟まない。

 サウザーは頷く。

「情で秩序を崩せば、家は傾く」

 静かな肯定。

 試しではなかった。

 確認だ。

「迷いはなかったか」

 問いは優しい。

 だが甘くはない。

「娘としては、ございます」

 正直な答え。

「ですが家の一員としては、ございません」

 それで十分だった。

 サウザーは書類を閉じる。

「それでよい」

 重い言葉。

 それは承認。

 そして信任。

 門の外。

 元公爵は伝えられた言葉を黙って聞く。

「私はサウザー公爵家の人間です」

 たった一文。

 だがそれは、完全な拒絶。

 血ではなく、選んだ家を優先する宣言。

 元公爵はゆっくりと目を閉じる。

 怒りは湧かない。

 悔しさも、ない。

 ただ理解だけがある。

 あれが正統。

 自分が守れなかったもの。

 門が静かに閉じる。

 音は小さい。

 だが決定的だった。

 境界はもう動かない。

 ナチュは窓辺に立つ。

 庭は静かだ。

 霜はやがて溶ける。

 だが引かれた線は、消えない。

 私はサウザー公爵家の人間です。

 その言葉が、

 彼女自身をも縛り、守っている。

 拒絶は冷酷ではない。

 責任を選ぶということ。

 それが、正統の証だった。
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