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第13話: 王都の暗雲
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第13話: 王都の暗雲
王都アルディアは、表面上は華やかな祝賀ムードに包まれていた。
カイロン王子とソルスティス・レインズの婚約発表から一ヶ月。
街の広場には祝福の飾り付けが残り、貴族たちは次々と祝賀の舞踏会を開いている。
しかし、王宮の奥深くでは、別の空気が流れ始めていた。
王太子の執務室。
カイロンは机に広げられた報告書を睨み、苛立った声で側近を叱責していた。
「病がまだ収まっていないというのか!? 聖女様の浄化魔法を総動員しているはずだろう!」
金髪を乱暴にかき上げ、碧い瞳に焦りが宿る。
側近の貴族が恐縮しながら答える。
「はい、殿下。しかしこの病は……聖女様の魔法でも、効果が薄いようで。
下町では死者も出始めております」
ソルスティスが隣で、可憐な顔を曇らせて口を開いた。
「カイロン様、ごめんなさい……私の力が足りなくて……」
彼女は涙目を作り、カイロンの腕にすがりつく。
前世の記憶を活かして「みんなに愛される聖女」を完璧に演じていた。
しかし、心の中では――
(なんで効かないのよ! ゲームの設定では、聖女の魔法でどんな病も治るはずなのに!)
苛立ちを隠しながら、ソルスティスは必死に聖魔法を試していた。
確かに光は眩いが、病の根源までは届かない。
前世の知識では説明がつかない、この世界独自の「魔瘴病」だった。
カイロンは彼女を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
「君のせいじゃない。ソルスティス、君は十分に頑張っている」
だが、その言葉とは裏腹に、カイロンの胸には小さな棘が刺さっていた。
最近、耳に入る噂――
辺境で、追放したはずのエルカミーノが作る「奇跡の薬」が、
魔瘴病に抜群の効果を発揮しているというのだ。
近隣の町から届く報告書には、こう書かれていた。
『リンデル旧領地のポーションを服用した患者、全員が一日で完治。
聖魔法よりも効果が高い』
カイロンはその一文を読み、拳を握りしめた。
(まさか……あんな地味な女が、そんなものを……)
婚約破棄の宴で、エルカミーノが涙一つ見せずに受け入れた姿を思い出す。
あの時の落ち着きが、今になって不気味に感じられた。
「殿下」
側近が慎重に進言する。
「実は、辺境の薬を王都へ取り寄せる動きが、民間レベルで出ております。
このままでは、聖女様の権威が……」
ソルスティスがびくりと肩を震わせた。
「そんな……! 私の魔法が一番のはずなのに!」
カイロンは立ち上がり、窓の外を見た。
王都の街並みが広がるが、下町の方から黒い煙が薄く上がっている――
病で亡くなった者の火葬の煙だ。
(……エルカミーノの薬が、本当に効くなら)
一瞬、頭をよぎった考えを、カイロンは必死に振り払った。
(いや、あの女を認めるなど、プライドが許さない。
ソルスティスこそが、私の選んだ運命だ)
しかし、不安は確実に広がっていた。
王宮の廊下では、貴族たちがひそひそと囁き合っている。
「聖女様の魔法が効かないなんて……」
「辺境の追放令嬢の薬がすごいらしいわよ」
「もしや、王太子殿下の婚約破棄が、間違いだったのでは……?」
暗雲は、静かに、しかし確実に王都を覆い始めていた。
一方、辺境の屋敷では――
エルカミーノは薬草園で新しい種を撒きながら、
何も知らずに穏やかな時間を過ごしていた。
(あと二日で、ラクティス公爵がまた来るのよね……)
彼女の頰が、ほんの少しだけ赤らむ。
王都の嵐など、まだ届いていない。
王都アルディアは、表面上は華やかな祝賀ムードに包まれていた。
カイロン王子とソルスティス・レインズの婚約発表から一ヶ月。
街の広場には祝福の飾り付けが残り、貴族たちは次々と祝賀の舞踏会を開いている。
しかし、王宮の奥深くでは、別の空気が流れ始めていた。
王太子の執務室。
カイロンは机に広げられた報告書を睨み、苛立った声で側近を叱責していた。
「病がまだ収まっていないというのか!? 聖女様の浄化魔法を総動員しているはずだろう!」
金髪を乱暴にかき上げ、碧い瞳に焦りが宿る。
側近の貴族が恐縮しながら答える。
「はい、殿下。しかしこの病は……聖女様の魔法でも、効果が薄いようで。
下町では死者も出始めております」
ソルスティスが隣で、可憐な顔を曇らせて口を開いた。
「カイロン様、ごめんなさい……私の力が足りなくて……」
彼女は涙目を作り、カイロンの腕にすがりつく。
前世の記憶を活かして「みんなに愛される聖女」を完璧に演じていた。
しかし、心の中では――
(なんで効かないのよ! ゲームの設定では、聖女の魔法でどんな病も治るはずなのに!)
苛立ちを隠しながら、ソルスティスは必死に聖魔法を試していた。
確かに光は眩いが、病の根源までは届かない。
前世の知識では説明がつかない、この世界独自の「魔瘴病」だった。
カイロンは彼女を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
「君のせいじゃない。ソルスティス、君は十分に頑張っている」
だが、その言葉とは裏腹に、カイロンの胸には小さな棘が刺さっていた。
最近、耳に入る噂――
辺境で、追放したはずのエルカミーノが作る「奇跡の薬」が、
魔瘴病に抜群の効果を発揮しているというのだ。
近隣の町から届く報告書には、こう書かれていた。
『リンデル旧領地のポーションを服用した患者、全員が一日で完治。
聖魔法よりも効果が高い』
カイロンはその一文を読み、拳を握りしめた。
(まさか……あんな地味な女が、そんなものを……)
婚約破棄の宴で、エルカミーノが涙一つ見せずに受け入れた姿を思い出す。
あの時の落ち着きが、今になって不気味に感じられた。
「殿下」
側近が慎重に進言する。
「実は、辺境の薬を王都へ取り寄せる動きが、民間レベルで出ております。
このままでは、聖女様の権威が……」
ソルスティスがびくりと肩を震わせた。
「そんな……! 私の魔法が一番のはずなのに!」
カイロンは立ち上がり、窓の外を見た。
王都の街並みが広がるが、下町の方から黒い煙が薄く上がっている――
病で亡くなった者の火葬の煙だ。
(……エルカミーノの薬が、本当に効くなら)
一瞬、頭をよぎった考えを、カイロンは必死に振り払った。
(いや、あの女を認めるなど、プライドが許さない。
ソルスティスこそが、私の選んだ運命だ)
しかし、不安は確実に広がっていた。
王宮の廊下では、貴族たちがひそひそと囁き合っている。
「聖女様の魔法が効かないなんて……」
「辺境の追放令嬢の薬がすごいらしいわよ」
「もしや、王太子殿下の婚約破棄が、間違いだったのでは……?」
暗雲は、静かに、しかし確実に王都を覆い始めていた。
一方、辺境の屋敷では――
エルカミーノは薬草園で新しい種を撒きながら、
何も知らずに穏やかな時間を過ごしていた。
(あと二日で、ラクティス公爵がまた来るのよね……)
彼女の頰が、ほんの少しだけ赤らむ。
王都の嵐など、まだ届いていない。
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