婚約破棄された千年転生令嬢は、名も居場所も縛られずに生きると決めました ――助けを乞うなら条件付きですわあ

ふわふわ

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第11話 帰る場所は、選び直せますのよ

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第11話 帰る場所は、選び直せますのよ

 王太子アレクセイの失脚が公表されてから、王都は不思議な静けさに包まれていた。
 歓声も暴動もない。ただ、人々はそれぞれの仕事に戻り、淡々と日常を取り戻していく。

 それが、この国の出した答えだった。

「……思ったより、騒ぎになりませんでしたわね」

 王城の回廊を歩きながら、私は呟いた。

「民は、結果で判断します」
 隣を歩く宰相が、疲れたように微笑む。
「英雄譚より、明日のパンですから」

 その言葉に、私は小さく頷いた。

 疫病が収束に向かった今、王城は次の問題に直面している。
 ――統治体制の立て直し。

「殿下――いえ、元王太子の処遇ですが」

「幽閉でも、追放でもありませんわ」
 私は、はっきりと言った。
「責任は取らせる。でも、逃げ道は残す」

 宰相が、驚いたように私を見る。

「甘い、と?」

「いいえ」
 私は足を止め、彼と向き合った。
「“自分で立ち直る機会”を奪うほうが、よほど残酷です」

 千年のあいだ、私は何度も見てきた。
 罰だけを与えられた者が、何も学ばず終わる姿を。

「彼には、学ぶ時間が必要ですわ」

 宰相は、深く息を吐き、頭を下げた。

「……承知しました」

 その日の午後。
 私は、城外れの療養施設を訪れた。

 庭の片隅で、ひとり佇んでいたのは、アレクセイだった。
 豪奢な衣装はなく、表情には覇気もない。

「……来ると思っていた」

 彼は、こちらを見ずに言った。

「戻ってきたのは、あなたのためではありません」

 私は、距離を保ったまま告げる。

「確認しに来ただけですわ」
「――自分で立てそうかどうかを」

 彼は、苦く笑った。

「選ばれなかった者に、何が残る?」

「選び直す権利です」

 即答だった。

 彼が、初めて私を見る。

「地位も、称号も、すべて失いました」
「でも――」

 私は、空を見上げた。

「人は、肩書きがなくなってからが本番ですわ」
「あなたは、今まで“選ばれる側”に甘えてきただけ」

 沈黙。

「……私は、怖かった」

 彼は、ようやく本音を吐き出した。

「失敗するのが」
「だから、“奇跡”に縋った」

「誰でも、そうですわ」

 私は、否定しなかった。

「でも、統治者はそれをしてはいけない」
「それだけの話です」

 彼は、目を閉じ、長く息を吐いた。

「……もう一度、立てると思うか?」

「さあ」
 私は微笑む。
「それは、あなた次第」

 踵を返し、歩き出す。

「私が教えられるのは、ここまでです」
「帰る場所は――選び直せますのよ」

 背後で、何かが崩れる音がした。
 それは、プライドか、過去か。

 どちらにせよ――
 彼は、ようやく“自分の人生”を歩き始めた。

 王城を出ると、夕焼けが街を染めていた。

(さて……)

 私の帰る場所は、もう決まっている。

 選び直した人生は、
 これから、もっと自由になるのだから。
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