スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第36話 月の導き

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 急いでログアウトし、すぐさまリビングへ。
 ちゃぶ台の前、月上さんがちょこんと座っていた。なんてちゃぶ台が似合わない人だ……これぞまさに野に咲く花!

「こ、こんばんは……」
「こんばんは」

 僕はとりあえず正面に座る。

「どうぞ」

 梓羽ちゃんがウチで1番高いティーカップに紅茶を淹れて月上さんに渡してくれた。僕には100均のコップに麦茶だけど。

「じゃ、私は部屋にいるから」
「うん。ありがとね梓羽ちゃん」

 梓羽ちゃんは部屋に戻る。

「あの子、相当やるね」
「え? 梓羽ちゃんですか?」
「そう」

 す、凄い。見ただけでわかるんだ。それはもうエスパーの域では?

「そうですね……フルダイブの適性は高いです。ゲームも僕が知る限り1番上手です」

 特に梓羽ちゃんは反射神経が凄い。フルダイブ型格闘ゲームでは無類の強さだったなぁ。僕が対等の条件で完璧に負かされたことあるの梓羽ちゃんぐらいかも。小さい頃は梓羽ちゃんとゲームで何度も対戦したけど、結局勝率は五分ぐらいだった。ゲームの才覚で言えば僕と同じかそれ以上。でも、

「あの子はゲーム全然興味ないので、インフェニティ・スペースをやることは無いですけどね」

 そう。梓羽ちゃんはゲームへのモチベーションが皆無なのだ。3日と同じゲームをやったことが無いと思う。『ゲームをするぐらいなら勉強や運動をする』という至極真っ当な思考の持ち主なのだ。

 梓羽ちゃんがインフェニティ・スペースをやれば良いライバルになれると思うんだけどね。

「そっか。残念……」

 確かに残念だけど、月上さんに残念がられるのは……なんか嫌だ。

「だだ、大丈夫ですよ! つ、月上さんは、僕がちゃんと倒しますから!」
「うん。期待してる」

 目と目が合う。うっ、なんか甘い空気……耐えられない! 新しい話を切り出さないと!

「今日はなぜここに?」
「あなたに会うため」
「は、はい」

 それはそうだろうけど。

「この前のランクマッチ、見た」
「え、えぇ!? そそそ、それはお恥ずかしい所を……」
「恥ずかしくない。あなたの動きはやっぱり、特別だった。けれど、まだ私はあなたの底を見てない。見れていない。次のランクマッチではぜひ見せて欲しい」
「じ、尽力します!」

 励ましに来てくれたのかな……?

「ところで、ここの住所は……」
「生徒名簿に載ってた」

 ウチの高校のセキュリティ! ザル過ぎる!

「今日は忘れていた謝罪に来たの」
「月上さんが、僕に謝罪? あ、キルされたことは全然気にしてませんから大丈夫ですよ!」
「そのことじゃない。それより前、あなたが月にログインしたのは私のせいなの」
「え……」

 月上さんは目を伏せて、

「私を倒せる素質を持つ者は、月の上に引き寄せられる。あなた以外にも2人、同じように月に飛んできた人がいた」
「えぇ!? いやでも、それが事実だとして、そんな設定一体誰が……?」
「私の父。私の父はインフェニティ・スペースの開発者だから、いくらでも設定をいじれるの」
「え――えええええぇぇ!?」

 は! そういえば! 月上さんの父親は大手ゲームメーカーの社長だって聞いたことがある!

「インフェニティ・スペースは父が私のために作ったゲーム。父は私のために、素質ある人間を私に認識させるためにそういう設定を作った。身勝手な話……」

 どうやら月上さんが頼んでそういう設定を組み込んだわけじゃなさそうだ。それなら月上さんが謝る必要なんて無いと思うけど。

「あの時の償いをさせてほしい」
「いやいや、そんなの大丈夫ですよ! あ、あの時全ロスしたおかげで良いこともあったし……」

 G-AGEのミッションはきっとM1911を使い込んだから発生したもの。あのトラブルが無かったら出会うことは無かった。

「今度のランクマッチ、またあなたのチームが参加していた。あなたも参加するんでしょ?」
「は、はい」
「アドバイスをあげる」
「アドバイス!? それはぜひ聞きたいです!」

 月上さんはきっとインフェニティ・スペースで1番強い。そのアドバイスは貴重過ぎる。

「インフェニティ・スペースには、人の脳を開発する効果がある」
「え……」

 なにそれ怖い。

「全員の脳が進化するわけじゃない。ごく1部、限られた人間のみ、その領域に辿り着ける。『無限インフェニティ可能性バースト』、と私は呼んでいる」
「なるほど」

 冗談なのかな。反応に困る。
 たかがゲームで脳機能が進化するなんてさすがに信じられない。

「あなたにはその素質がある。もしも次のランクマッチで、あなたの心が躍るタイミングがあったのなら、我慢しないで欲しい。その鼓動に、躍動に、身を投じて。他人の目など気にせず、ただ快楽に身を委ねて。そうすればきっと、無限大の万能感があなたを包み込む」

 真剣な目だ。冗談を言っている顔じゃない。

「わかりました……」

 それにしてもやっぱり、月上さんの目……綺麗だな。本当にサファイアみたい。あまりにきれい過ぎて、眩しくて、僕は目を逸らしてしまう。

「私はこれで」
「は、はい。あ、でも……夜道、危ないです。えっと、どうしよっかな……」
「問題ない。車を表に停めてある」

 ああ、親御さんが来ているのかな。

「玄関まで送ります!」
「ありがとう」

 月上さんと一緒に玄関へ。

「今日はありがとうございました」
「いえ。いきなりおしかけてごめんなさい」
「……」
「……」

 お互いに言葉が止まる。でも、まだ……まだ離れたくない。なんか、まだ終わりたくない。
 そう、今は学校が無いから、何も約束しないと次に会うのは夏休みが終わった後になる。1か月近く先になる。だから、

「あの、えと……その!」
「連絡先、交換して」
「っ!? は、はい!!」

 スマホを出し、互いに友達登録する。

「もしも、あなたがランクマッチで優勝できたら」

 月上さんはスマホをしまい、僕の目を真っすぐ見る。

「できたら……?」
「一緒に、夏祭りに行きましょう。お祝いする」

 冷淡な口調。機械的な声色。だけど、その頬には僅かにピンク色が差していた。

「絶対に! 勝ちます!!」

 月上さんは小さく頷いて、部屋を出て行った。
 僕は廊下に出て、表の道路を見る。

「うわ」

 表の通りには黒塗りの高級そうな車が停まっていた。ツッヤツヤのピッカピッカだ。しかも運転席から出てきた執事服のお爺さんが後部座席の扉を開き、丁寧に月上さんを車内へ誘導した。
 ほ、本物のお金持ちだ……あんなの漫画でしか見たことが無い。

(住む世界が違う……)

 彼女はこの世界でも月の上にいる。
 僕じゃまだまだ、そこへは辿り着けない。それでもいつか――きっと、彼女の孤独を埋めてあげたい。
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