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第52話 ツバサという少女
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自分が主人公だと気づいたのは8歳の頃。母親に連れられ、流されるまま受けた子役のオーディションで、ツバサはその場に居る全員を魅了することができた。渡されたばかりの台本、慣れない場所で、ツバサは完璧な演技が出来た。きっと、あの場にいた他の子達は二度とオーディションを受けることは無かったと思う。
スポーツ・勉強・芸術・歌・恋愛、すべてにおいてツバサの思い通りになった。
サッカーのリフティングは初見で100回できたし、テストは授業を聞いているだけで満点。絵を描けばコンクールに入賞し、歌を歌えば拍手喝采。人付き合いも良好で、男子も女子もツバサにメロメロだった。
世界が全て思い通りになる――とまでは言わない。けれど、少なくとも、ツバサが触れられる範囲のモノは思い通りになった。
そんな私がインフェニティ・スペースを始めたきっかけは、顔も覚えていないモブ同級生からの誘いだった。
『ツバサちゃん。インフェニティ・スペース、やってみない?』
ゲームはやったことなかったから、とりあえず誘われるままやってみることにした。
始めた当初の感想は――『やっぱりこうなるのか』だった。
結局ゲームの中でも私は天才で、難関と呼ばれるボスも、強いと言われるプレイヤーも簡単に捻ることができた。ツバサを誘った女の子はいつの間にか違うゲームに鞍替えしていた。
勘違いしないでほしいけど、他を圧倒することは嫌いじゃない。よく『圧倒的な力は退屈だ』と言うけれど、そんなことはない。他者を才能で捻り潰すのは好きだ。他人が自分を見上げる時の、あの諦めたような顔がたまらなく好き。我ながら下衆かな、とは思うけどね。うん、言葉を選ばず言うとあの頃のツバサは相当調子に乗っていたと思う。
そんな中、出会ったのが彼女だった。
シーナちゃん。実力者と謳われていた彼女に挑み、ツバサは完敗した。
『良い腕ですね。よろしければ私の所属するチームに入りませんか?』
勝ち誇りもせず、あの子はそう提案してきた。
ムカつくガキだと思った。心底悔しかった。
人生でここまでハッキリと負けたのは初めてで、こうも思い通りにならない人間も初めてだった。
同じチームになって、シーナちゃんのことを知れば知るほどため息が出た。ツバサと真逆で不器用。手先が不器用なんじゃない、性格が不器用なんだ。何度もチームメイトと揉めたし、その度にツバサが間に入った。ま、その不器用さや無頓着さがカワイイ所でもあったんだけどね。
性格はともかくとして、戦闘面ではやはり優秀。『完璧』という言葉が似合う立ち回りを見せた。特に分析力に長け、データを知り尽くした相手には絶対に負けなかった。何度も挑んで、何度も負けた。
恥ずかしくて絶対言えないけど……シーナちゃん、ツバサにとって君は『目標』だったんだよ。初めてツバサを負かせた君は、ツバサにとって特別な存在だった。
だから、あの発言は許せなかった。
『ハッキリと言いますが、シキさんの素質は私やあなた以上ですよ。間違いなく』
あの発言でムカついたのはシキちゃんの才能がツバサ以上って言った事じゃない。シーナちゃんよりシキちゃんが上だって言ったことだよ。
君はちゃんと強者であってくれないと困るんだよ。ツバサに初めて勝った人なんだから、きちっと責任もって強者であってくれないと困る。自分から負けを認めるとかマジあり得ないから。
「……だから、証明してあげる」
君が強いってこと。シキちゃんが君以下だってこと。
シキちゃんがツバサより全然大したことない人間だってことを――証明してあげる。
「来なよシキちゃん。湖がツバサ達のラストステージだよ」
---
高層マンション『ムーンライト』、最上階。その一室で、巨大スクリーンを前にソファーに腰かける人物が2人。
1人は無表情の少女、もう1人はワイングラス片手に笑う女性。どちらも銀髪で、良く似た顔立ちをしている。2人共若く、一見すると姉妹のように見えるが……、
「アレがお前が言っていた鍵を持っている少女だな?」
「うん。そうだよお母さん」
2人はそれぞれ、200万はするソファーに座っていた。
スクリーンに映るはシキとツバサ、現在行われているランクマッチの映像だ。
「ふーん。私から見ると、こっちの盾の子の方が素質があるように見えるな」
「でもあの子は月には来ていない」
「月に来ていないからと言って、素質が無いわけじゃない。アレはフルダイブ機器を使い読み取った遺伝子情報を分析し、フルダイブ適正の高い奴を送還しているに過ぎない。∞バーストに必要なのはフルダイブ適正ではなく、このゲームそのものに対する適正だ。あの盾の子はこのゲームへの適性が相当高い。特に脳波コントロールの精度の高さが素晴らしい。これが一定水準以下の人間は∞バーストに決して達すことはできないからな」
星架は母親の話を聞くもまるっきり無視。ツバサの話には興味なし、といった態度だ。その視線はひたすらにシキに向いている。
星架とツバサは似たような環境にいる。圧倒的な才能で他者を踏みつぶしてきた者同士……それゆえに、ツバサに対する好奇心が薄いのだろう。なんとなく実態がわかる生物より、実態がわからない生物に惹かれるのは知的生命体として当然のことと言える。
自分とはまるで異なり、地味で内向的で冴えなくて、それでいて得体の知れない強さを持つ彼女に惹かれるのは、当然のことと言える。
「脳のブラックボックスを強引に開き、超常的な感覚をもたらす∞バースト……お前以外にもそれを発現できるものが多数現れれば、いずれクリアできるかもしれないね。アイツが残したこのクソったれなゲームを」
「……うん」
星架はスクリーンの先のシキを見つめる。
「信じてるよ。シキ」
スポーツ・勉強・芸術・歌・恋愛、すべてにおいてツバサの思い通りになった。
サッカーのリフティングは初見で100回できたし、テストは授業を聞いているだけで満点。絵を描けばコンクールに入賞し、歌を歌えば拍手喝采。人付き合いも良好で、男子も女子もツバサにメロメロだった。
世界が全て思い通りになる――とまでは言わない。けれど、少なくとも、ツバサが触れられる範囲のモノは思い通りになった。
そんな私がインフェニティ・スペースを始めたきっかけは、顔も覚えていないモブ同級生からの誘いだった。
『ツバサちゃん。インフェニティ・スペース、やってみない?』
ゲームはやったことなかったから、とりあえず誘われるままやってみることにした。
始めた当初の感想は――『やっぱりこうなるのか』だった。
結局ゲームの中でも私は天才で、難関と呼ばれるボスも、強いと言われるプレイヤーも簡単に捻ることができた。ツバサを誘った女の子はいつの間にか違うゲームに鞍替えしていた。
勘違いしないでほしいけど、他を圧倒することは嫌いじゃない。よく『圧倒的な力は退屈だ』と言うけれど、そんなことはない。他者を才能で捻り潰すのは好きだ。他人が自分を見上げる時の、あの諦めたような顔がたまらなく好き。我ながら下衆かな、とは思うけどね。うん、言葉を選ばず言うとあの頃のツバサは相当調子に乗っていたと思う。
そんな中、出会ったのが彼女だった。
シーナちゃん。実力者と謳われていた彼女に挑み、ツバサは完敗した。
『良い腕ですね。よろしければ私の所属するチームに入りませんか?』
勝ち誇りもせず、あの子はそう提案してきた。
ムカつくガキだと思った。心底悔しかった。
人生でここまでハッキリと負けたのは初めてで、こうも思い通りにならない人間も初めてだった。
同じチームになって、シーナちゃんのことを知れば知るほどため息が出た。ツバサと真逆で不器用。手先が不器用なんじゃない、性格が不器用なんだ。何度もチームメイトと揉めたし、その度にツバサが間に入った。ま、その不器用さや無頓着さがカワイイ所でもあったんだけどね。
性格はともかくとして、戦闘面ではやはり優秀。『完璧』という言葉が似合う立ち回りを見せた。特に分析力に長け、データを知り尽くした相手には絶対に負けなかった。何度も挑んで、何度も負けた。
恥ずかしくて絶対言えないけど……シーナちゃん、ツバサにとって君は『目標』だったんだよ。初めてツバサを負かせた君は、ツバサにとって特別な存在だった。
だから、あの発言は許せなかった。
『ハッキリと言いますが、シキさんの素質は私やあなた以上ですよ。間違いなく』
あの発言でムカついたのはシキちゃんの才能がツバサ以上って言った事じゃない。シーナちゃんよりシキちゃんが上だって言ったことだよ。
君はちゃんと強者であってくれないと困るんだよ。ツバサに初めて勝った人なんだから、きちっと責任もって強者であってくれないと困る。自分から負けを認めるとかマジあり得ないから。
「……だから、証明してあげる」
君が強いってこと。シキちゃんが君以下だってこと。
シキちゃんがツバサより全然大したことない人間だってことを――証明してあげる。
「来なよシキちゃん。湖がツバサ達のラストステージだよ」
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高層マンション『ムーンライト』、最上階。その一室で、巨大スクリーンを前にソファーに腰かける人物が2人。
1人は無表情の少女、もう1人はワイングラス片手に笑う女性。どちらも銀髪で、良く似た顔立ちをしている。2人共若く、一見すると姉妹のように見えるが……、
「アレがお前が言っていた鍵を持っている少女だな?」
「うん。そうだよお母さん」
2人はそれぞれ、200万はするソファーに座っていた。
スクリーンに映るはシキとツバサ、現在行われているランクマッチの映像だ。
「ふーん。私から見ると、こっちの盾の子の方が素質があるように見えるな」
「でもあの子は月には来ていない」
「月に来ていないからと言って、素質が無いわけじゃない。アレはフルダイブ機器を使い読み取った遺伝子情報を分析し、フルダイブ適正の高い奴を送還しているに過ぎない。∞バーストに必要なのはフルダイブ適正ではなく、このゲームそのものに対する適正だ。あの盾の子はこのゲームへの適性が相当高い。特に脳波コントロールの精度の高さが素晴らしい。これが一定水準以下の人間は∞バーストに決して達すことはできないからな」
星架は母親の話を聞くもまるっきり無視。ツバサの話には興味なし、といった態度だ。その視線はひたすらにシキに向いている。
星架とツバサは似たような環境にいる。圧倒的な才能で他者を踏みつぶしてきた者同士……それゆえに、ツバサに対する好奇心が薄いのだろう。なんとなく実態がわかる生物より、実態がわからない生物に惹かれるのは知的生命体として当然のことと言える。
自分とはまるで異なり、地味で内向的で冴えなくて、それでいて得体の知れない強さを持つ彼女に惹かれるのは、当然のことと言える。
「脳のブラックボックスを強引に開き、超常的な感覚をもたらす∞バースト……お前以外にもそれを発現できるものが多数現れれば、いずれクリアできるかもしれないね。アイツが残したこのクソったれなゲームを」
「……うん」
星架はスクリーンの先のシキを見つめる。
「信じてるよ。シキ」
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身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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