20 / 30
14
しおりを挟む
「マジで!そいつ最低だな。」
「うん。湊って子がかわいそうだ。しかも智明さんは自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってない。」
「うわーっ!湊、本当に悲惨だな。そういう話を聞くとアルファって本当にムカつく。」
真紘に昨日の話をした。
終始智明さんに怒っていた。ムカつく、ムカつくと繰り返している。
「あ、あとあのさ。僕、祐一さんと…。」
「付き合うんだろ?トシくんに聞いたよ。」
早っ!いつ聞いたんだろう。
「良かったな。あのナンパの人は?どうするの?」
「昨日断ったよ。でも返信がないんだ。」
「そっかー。まぁ大丈夫じゃない?それよりダブルデートできるな。トシくんに言ってみよう。」
真紘は嬉しそうにスマホをいじっている。
ダブルデート…。僕のことだよね?祐一さんは何て言うかな?
授業が終わって二人で塾に向かう。
生徒は十人ちょっとの少人数だ。
みんな頭が良さそうに見える。
先生が入ってきた。うわっ、熊みたいな先生だ。優しい先生だといいな。
初めてなので緊張する。授業についていけるだろうか。
あの問題集はさっぱり分からなかったからな。明日祐一さんに教えもらおう。
僕は必死で先生の話に耳を傾けた。
「どうだった?」
「うーん。やばいね。」
「僕も。」
予備校の授業は難しかった。周りの人たちはみんな理解して授業を受けているように見える。休みを返上して勉強しないと。
せっかく恋人が出来たのに…。
一応志望大学にY大の文学部と書いて出した。真紘と同じ大学だ。
「このままじゃ祐一さんとデートどころじゃない。」
「僕も。トシくんに言っとかないと。受験終わるまでは遊べない。」
二人で駅までとぼとぼ歩いていた。
「ねぇ。そこの二人。」
え?僕たちのこと?
後ろから話しかけられた。僕たちは立ち止まって振り返る。
オメガかな。知らない人だ。塾の人?
「俊之のオメガはどっち?」
俊之ってトシくんのこと?僕たちは顔を見合わせた。
「あ、僕だけど…。」
真紘が答えた瞬間だった。そのオメガは真紘に体当たりしてきたのだ。
その勢いで隣にいた僕も後ろに転んで尻餅をついた。
「痛っ!何するんだよ!真紘、大丈夫か…。」
隣で尻もちをついている真紘を見ると手で脇腹を押さえている。その手の周りから白いワイシャツが赤く染まっていくのが見えた。
えっ?一瞬何が起こったのか分からなかった。
体当たりしたオメガを見上げた。真っ青な顔で真紘を睨んでいる。その手には昨日湊が握っていたものとそっくりなものが握られていた。
ま、真紘…?えっ?
「い、痛い…。」
真紘の声で我に返った。
「真紘!」
ど、どうしよう。誰か…。そうだ救急車、救急車を呼ばないと。
「救急車を呼んでください!救急車!」
通りすがりの人たちに声をかけた。大きな声を出したつもりだけど声が出ない。
その中の女の人が気付いてくれた。真紘を見て驚いて駆け寄ってくる。
「救急車…。助けて。真紘が…。」
「待って、今呼ぶから。」
「真紘…、真紘っ!真紘っ!」
女の人が救急車を呼んでくれた。カバンの中からタオルを取り出して傷を抑えてくれる。
「大丈夫。私、看護師なの。大丈夫よ。君はこのタオルで傷を圧迫して。」
「名前は真紘くん?」
「はい…。」
「真紘くん!目を開けて。」
女の人が真紘の顔を叩いて声をかけ続けてくれる。
真紘がうっすら目を開けた。
僕はいつの間にか泣いていた。怖くて身体が震える。
真紘が死んじゃう。
しばらくして救急車のサイレンの音が近づいてくる。僕たちの横で救急車が停まり、救急隊員が三人降りてきた。そのまま真紘を担架に乗せて救急車に収容された。救急隊の人に言われて僕も乗り込んだ。
いつの間にかあのオメガは居なくなっていた。
サイレンが鳴り走り出す。
救急車の中で真紘は機械に繋がれて救急隊員に声をかけられていた。慌ただしく動く救急隊が今の状況の深刻さをより強く感じる。
僕は震えながらただそれを見ていた。
「君はお友達?この子の家族と連絡は取れる?」
「は、はい。電話しても良いですか?」
震える手でスマホを取り出した。手には真紘の血が付いていてさらに怖くなる。
「桜ヶ丘病院が受け入れ可能です。」
運転席の人が大きな声が聞こえる。
桜ヶ丘病院…。
そういえば真紘の家の電話なんて分からない。もちろんご両親の番号も知らない。どうしよう。
そうだトシくんにかければ良いんだ。この間教えてもらったトシくんの番号に電話をした。手が震えて上手くかけられない。
五回目のコールでトシくんが出た。
「…もしもし。と、俊之さんですか?」
「あれ、由紀くん?どうしたの?」
『えっ?由紀くん?』後ろで祐一さんの声が聞こえてきた。
「真紘が、真紘が…。」
「真紘?真紘がどうしたの⁉︎」
「うん。湊って子がかわいそうだ。しかも智明さんは自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってない。」
「うわーっ!湊、本当に悲惨だな。そういう話を聞くとアルファって本当にムカつく。」
真紘に昨日の話をした。
終始智明さんに怒っていた。ムカつく、ムカつくと繰り返している。
「あ、あとあのさ。僕、祐一さんと…。」
「付き合うんだろ?トシくんに聞いたよ。」
早っ!いつ聞いたんだろう。
「良かったな。あのナンパの人は?どうするの?」
「昨日断ったよ。でも返信がないんだ。」
「そっかー。まぁ大丈夫じゃない?それよりダブルデートできるな。トシくんに言ってみよう。」
真紘は嬉しそうにスマホをいじっている。
ダブルデート…。僕のことだよね?祐一さんは何て言うかな?
授業が終わって二人で塾に向かう。
生徒は十人ちょっとの少人数だ。
みんな頭が良さそうに見える。
先生が入ってきた。うわっ、熊みたいな先生だ。優しい先生だといいな。
初めてなので緊張する。授業についていけるだろうか。
あの問題集はさっぱり分からなかったからな。明日祐一さんに教えもらおう。
僕は必死で先生の話に耳を傾けた。
「どうだった?」
「うーん。やばいね。」
「僕も。」
予備校の授業は難しかった。周りの人たちはみんな理解して授業を受けているように見える。休みを返上して勉強しないと。
せっかく恋人が出来たのに…。
一応志望大学にY大の文学部と書いて出した。真紘と同じ大学だ。
「このままじゃ祐一さんとデートどころじゃない。」
「僕も。トシくんに言っとかないと。受験終わるまでは遊べない。」
二人で駅までとぼとぼ歩いていた。
「ねぇ。そこの二人。」
え?僕たちのこと?
後ろから話しかけられた。僕たちは立ち止まって振り返る。
オメガかな。知らない人だ。塾の人?
「俊之のオメガはどっち?」
俊之ってトシくんのこと?僕たちは顔を見合わせた。
「あ、僕だけど…。」
真紘が答えた瞬間だった。そのオメガは真紘に体当たりしてきたのだ。
その勢いで隣にいた僕も後ろに転んで尻餅をついた。
「痛っ!何するんだよ!真紘、大丈夫か…。」
隣で尻もちをついている真紘を見ると手で脇腹を押さえている。その手の周りから白いワイシャツが赤く染まっていくのが見えた。
えっ?一瞬何が起こったのか分からなかった。
体当たりしたオメガを見上げた。真っ青な顔で真紘を睨んでいる。その手には昨日湊が握っていたものとそっくりなものが握られていた。
ま、真紘…?えっ?
「い、痛い…。」
真紘の声で我に返った。
「真紘!」
ど、どうしよう。誰か…。そうだ救急車、救急車を呼ばないと。
「救急車を呼んでください!救急車!」
通りすがりの人たちに声をかけた。大きな声を出したつもりだけど声が出ない。
その中の女の人が気付いてくれた。真紘を見て驚いて駆け寄ってくる。
「救急車…。助けて。真紘が…。」
「待って、今呼ぶから。」
「真紘…、真紘っ!真紘っ!」
女の人が救急車を呼んでくれた。カバンの中からタオルを取り出して傷を抑えてくれる。
「大丈夫。私、看護師なの。大丈夫よ。君はこのタオルで傷を圧迫して。」
「名前は真紘くん?」
「はい…。」
「真紘くん!目を開けて。」
女の人が真紘の顔を叩いて声をかけ続けてくれる。
真紘がうっすら目を開けた。
僕はいつの間にか泣いていた。怖くて身体が震える。
真紘が死んじゃう。
しばらくして救急車のサイレンの音が近づいてくる。僕たちの横で救急車が停まり、救急隊員が三人降りてきた。そのまま真紘を担架に乗せて救急車に収容された。救急隊の人に言われて僕も乗り込んだ。
いつの間にかあのオメガは居なくなっていた。
サイレンが鳴り走り出す。
救急車の中で真紘は機械に繋がれて救急隊員に声をかけられていた。慌ただしく動く救急隊が今の状況の深刻さをより強く感じる。
僕は震えながらただそれを見ていた。
「君はお友達?この子の家族と連絡は取れる?」
「は、はい。電話しても良いですか?」
震える手でスマホを取り出した。手には真紘の血が付いていてさらに怖くなる。
「桜ヶ丘病院が受け入れ可能です。」
運転席の人が大きな声が聞こえる。
桜ヶ丘病院…。
そういえば真紘の家の電話なんて分からない。もちろんご両親の番号も知らない。どうしよう。
そうだトシくんにかければ良いんだ。この間教えてもらったトシくんの番号に電話をした。手が震えて上手くかけられない。
五回目のコールでトシくんが出た。
「…もしもし。と、俊之さんですか?」
「あれ、由紀くん?どうしたの?」
『えっ?由紀くん?』後ろで祐一さんの声が聞こえてきた。
「真紘が、真紘が…。」
「真紘?真紘がどうしたの⁉︎」
163
あなたにおすすめの小説
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
策士オメガの完璧な政略結婚
雨宮里玖
BL
完璧な容姿を持つオメガのノア・フォーフィールドは、性格悪と陰口を叩かれるくらいに捻じ曲がっている。
ノアとは反対に、父親と弟はとんでもなくお人好しだ。そのせいでフォーフィールド子爵家は爵位を狙われ、没落の危機にある。
長男であるノアは、なんとしてでものし上がってみせると、政略結婚をすることを思いついた。
相手はアルファのライオネル・バーノン辺境伯。怪物のように強いライオネルは、泣く子も黙るほどの恐ろしい見た目をしているらしい。
だがそんなことはノアには関係ない。
これは政略結婚で、目的を果たしたら離婚する。間違ってもライオネルと番ったりしない。指一本触れさせてなるものか——。
一途に溺愛してくるアルファ辺境伯×偏屈な策士オメガの、拗らせ両片想いストーリー。
カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!
野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ
平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、
どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。
数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。
きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、
生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。
「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」
それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる