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番外編:真紘
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駅前のスターコーヒーで祐一さんを待っている。家の用事で少し遅くなるみたいだ。
今日は念願のダブルデート。本屋に行ってランチをする予定だ。トシくんがお詫びを兼ねて美味しいものを奢ってくれる。
「あ、祐一さんだ。」
由紀が手を挙げた。
「由紀、ごめんね。待った?」
「ううん。」
息を切らした祐一さんが由紀の隣に座った。
いや、僕たちもいるんですけどね?
「由紀は何飲んでるの?」
「ほうじ茶ラテ。飲む?甘いよ?」
うん、と嬉しそうに由紀のほうじ茶ラテを飲んだ。
「本当だ。甘い。」
二人は楽しそうに笑っている。
名残惜しそうに由紀から離れて、祐一さんは飲み物を買いに行った。
しばらくしてアイスコーヒーを手に戻ってきた祐一さんは由紀の隣に座って九十度真横を向いた。
僕たちのことなんて目に入ってないんだな。
由紀は元々声が小さいしあまり喋らない。でも祐一さんとは楽しそうに話をする。
そんな由紀の話を一言も漏らすまいと祐一さんは一生懸命聞いている。
叡倫堂の薬が抜けた由紀はオメガの僕が見てもドキッとするくらい綺麗になった。フェロモンは分からないけど何かが変わった。
白く小さな顔の中に潤んだ大きな瞳、それを取り囲む緩くカールした長いまつ毛。キュッと小さな鼻、もぎたての果物みたいな唇。その唇を一生懸命動かして祐一さんに何か話している。
祐一さんはデレデレだ。
どうせその唇にキスしてむしゃぶりつきたいと思ってるんだろ。
テーブルの下では由紀の手を握っているのが分かる。
「真紘、何で祐一ばっかり見てるんだよ。」
隣のトシくんが不機嫌になってしまった。
「二人を見てるんだよ。由紀が幸せそうで良かった。」
「本当に?」
「うん。」
そう言ってトシくんの手を握る。途端に機嫌が良くなった。
「ねぇトシくん。僕たちが見てたあのドラマ、シーズン2がやってるらしいよ。配信してるかな?」
「え?本当?」
トシくんがスマホで調べ始めた。手を離そうかなと思ったけどぎゅっと握られて離れない。
僕は店内を見渡した。土曜日の午前中だからかほぼ満席だ。
窓際のカウンター席のカップルはアルファとオメガだな。すらっとした綺麗な男のオメガだ。そんなオメガにアルファがべったりくっついている。
あ、キスした。アルファが怒られてる。
オメガの頸に歯形が見えた。
番いか…。
懲りずにまたべったりくっついている。アルファは左手の薬指の指輪をオメガに見せつけて指輪にキスをしている。
夫夫かな?
オメガは諦めたみたいでコーヒーを飲み始めた。
視線を移すと奥のソファー席に横並びで座るカップルもアルファとオメガだ。
オメガは何となく由紀に似ている。
すごく可愛いけどぼーっとしたオメガだ。隣に座っている外人のモデルみたいなアルファが一生懸命世話を焼いている。ケーキをこぼしてクリームが服に付いたみたいだ。アルファが拭いてあげている。そのオメガは口の周りも拭かれていた。
アルファが食べ終わったオメガにくっついて幸せそうに首筋に顔を埋めている。
みんな大人なのに外でイチャイチャし過ぎでしょ。
僕が見たところ上位アルファはあの二人とここにいる二人だけだ。四人とも連れのオメガにデレデレだ。
「真紘、他のアルファ見てただろ?」
しまった。またトシくんが拗ねている。
でも今日はトシくんが一発でご機嫌になる方法があるのだ。
「トシくん、今日泊まっても良い?」
近づいて耳元で囁いた。
「え?」
「うちの親が良いって。成績も上がったし。」
「え?え?本当に?」
「うん。ダメ?」
「ダメな訳ないだろ?その…傷は大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。トシくん、全然してくれないんだもん。」
態と甘えて言ってみた。
「だって、真紘が心配だったから。真紘が良いって言うまでは…。俺ずっと我慢してだんだよ。」
あの事件以来、トシくんの家に行くことはなかった。トシくんが気を遣ってくれていたのが良く分かる。
「本当?もうしたくないかと思った。」
「そんな訳ないよ。したいに決まってるだろ?真紘~、もう今からうち来る?」
「ダメだよ。僕と由紀に美味しいものご馳走してくれるんでしょ?」
「そうだけど、あーもー、真紘、真紘っ!」
トシくんが大好き大好きと言って抱きついてくる。
一か月おあずけだったからな。アルファにしては頑張った。
デレデレする四人を見て思った。
アルファが一番偉いなんて言ったのは誰だ?どう見たって番いのオメガが一番だろ。
そうか、それを言った人はこれを分かっていたんだ。どんな優秀なアルファも番いのオメガを見つけてしまえばそのオメガの言いなりなってしまう。
だからオメガを迫害してアルファの地位を守ろうとしたんだ。
まぁ、でもそんな時代は終わったな。これからはオメガの時代だ。もっと化学や医療が進歩すれば抑制剤も改良されるし、番い自体も解除できるようになるかもしれない。
番い解除はアルファが恐れて研究しなかっただけなんじゃないかと思う。
きっとバースに囚われずみんなが平等の時代が来るはずだ。
よし!トシくんにはそれを研究してもらおう!
僕は抱きついて嬉しそうなトシくんの背中を優しく撫でた。
今日は念願のダブルデート。本屋に行ってランチをする予定だ。トシくんがお詫びを兼ねて美味しいものを奢ってくれる。
「あ、祐一さんだ。」
由紀が手を挙げた。
「由紀、ごめんね。待った?」
「ううん。」
息を切らした祐一さんが由紀の隣に座った。
いや、僕たちもいるんですけどね?
「由紀は何飲んでるの?」
「ほうじ茶ラテ。飲む?甘いよ?」
うん、と嬉しそうに由紀のほうじ茶ラテを飲んだ。
「本当だ。甘い。」
二人は楽しそうに笑っている。
名残惜しそうに由紀から離れて、祐一さんは飲み物を買いに行った。
しばらくしてアイスコーヒーを手に戻ってきた祐一さんは由紀の隣に座って九十度真横を向いた。
僕たちのことなんて目に入ってないんだな。
由紀は元々声が小さいしあまり喋らない。でも祐一さんとは楽しそうに話をする。
そんな由紀の話を一言も漏らすまいと祐一さんは一生懸命聞いている。
叡倫堂の薬が抜けた由紀はオメガの僕が見てもドキッとするくらい綺麗になった。フェロモンは分からないけど何かが変わった。
白く小さな顔の中に潤んだ大きな瞳、それを取り囲む緩くカールした長いまつ毛。キュッと小さな鼻、もぎたての果物みたいな唇。その唇を一生懸命動かして祐一さんに何か話している。
祐一さんはデレデレだ。
どうせその唇にキスしてむしゃぶりつきたいと思ってるんだろ。
テーブルの下では由紀の手を握っているのが分かる。
「真紘、何で祐一ばっかり見てるんだよ。」
隣のトシくんが不機嫌になってしまった。
「二人を見てるんだよ。由紀が幸せそうで良かった。」
「本当に?」
「うん。」
そう言ってトシくんの手を握る。途端に機嫌が良くなった。
「ねぇトシくん。僕たちが見てたあのドラマ、シーズン2がやってるらしいよ。配信してるかな?」
「え?本当?」
トシくんがスマホで調べ始めた。手を離そうかなと思ったけどぎゅっと握られて離れない。
僕は店内を見渡した。土曜日の午前中だからかほぼ満席だ。
窓際のカウンター席のカップルはアルファとオメガだな。すらっとした綺麗な男のオメガだ。そんなオメガにアルファがべったりくっついている。
あ、キスした。アルファが怒られてる。
オメガの頸に歯形が見えた。
番いか…。
懲りずにまたべったりくっついている。アルファは左手の薬指の指輪をオメガに見せつけて指輪にキスをしている。
夫夫かな?
オメガは諦めたみたいでコーヒーを飲み始めた。
視線を移すと奥のソファー席に横並びで座るカップルもアルファとオメガだ。
オメガは何となく由紀に似ている。
すごく可愛いけどぼーっとしたオメガだ。隣に座っている外人のモデルみたいなアルファが一生懸命世話を焼いている。ケーキをこぼしてクリームが服に付いたみたいだ。アルファが拭いてあげている。そのオメガは口の周りも拭かれていた。
アルファが食べ終わったオメガにくっついて幸せそうに首筋に顔を埋めている。
みんな大人なのに外でイチャイチャし過ぎでしょ。
僕が見たところ上位アルファはあの二人とここにいる二人だけだ。四人とも連れのオメガにデレデレだ。
「真紘、他のアルファ見てただろ?」
しまった。またトシくんが拗ねている。
でも今日はトシくんが一発でご機嫌になる方法があるのだ。
「トシくん、今日泊まっても良い?」
近づいて耳元で囁いた。
「え?」
「うちの親が良いって。成績も上がったし。」
「え?え?本当に?」
「うん。ダメ?」
「ダメな訳ないだろ?その…傷は大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。トシくん、全然してくれないんだもん。」
態と甘えて言ってみた。
「だって、真紘が心配だったから。真紘が良いって言うまでは…。俺ずっと我慢してだんだよ。」
あの事件以来、トシくんの家に行くことはなかった。トシくんが気を遣ってくれていたのが良く分かる。
「本当?もうしたくないかと思った。」
「そんな訳ないよ。したいに決まってるだろ?真紘~、もう今からうち来る?」
「ダメだよ。僕と由紀に美味しいものご馳走してくれるんでしょ?」
「そうだけど、あーもー、真紘、真紘っ!」
トシくんが大好き大好きと言って抱きついてくる。
一か月おあずけだったからな。アルファにしては頑張った。
デレデレする四人を見て思った。
アルファが一番偉いなんて言ったのは誰だ?どう見たって番いのオメガが一番だろ。
そうか、それを言った人はこれを分かっていたんだ。どんな優秀なアルファも番いのオメガを見つけてしまえばそのオメガの言いなりなってしまう。
だからオメガを迫害してアルファの地位を守ろうとしたんだ。
まぁ、でもそんな時代は終わったな。これからはオメガの時代だ。もっと化学や医療が進歩すれば抑制剤も改良されるし、番い自体も解除できるようになるかもしれない。
番い解除はアルファが恐れて研究しなかっただけなんじゃないかと思う。
きっとバースに囚われずみんなが平等の時代が来るはずだ。
よし!トシくんにはそれを研究してもらおう!
僕は抱きついて嬉しそうなトシくんの背中を優しく撫でた。
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