言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

文字の大きさ
8 / 78
巻き込まれて独立しました

08 それが、地獄の始まりとは知らないで

しおりを挟む


「余が全てを知っていたと、申すのか?」

 不快感丸出しでそう尋ねる国王陛下に、私はにっこりと微笑みながら続けた。

「私が何も知らない無知なものだと、国王陛下は仰るのですか? ……未来の国王、王妃が通われる学園に、なんの護衛もなしに登園させるわけないでしょう。田舎者の私でも想像つきますよ。常識から考えておかしいですもの。必ず、王族子飼いの影なり、公爵家からの影も護衛に付いていたはず。彼らから、報告を受けているのでは?」

「それは……」

 言い淀むことが、すでに肯定しているのに。

「国王陛下は、リアス様が虐めをしていないことを、影の報告から知っていたのですね。だから、リアス様が聖獣様に誓って申された言葉を、調べもせずにサラリと肯定した。普通なら、キチンと調べなければならない案件をです」

「それがいかがした。さすがに、口が過ぎるぞ」

 国王陛下の口調に苛々が混じる。顔も険しくなり、眉間に皺を寄せていた。

「じゃあ、誰が私にあんな酷いことをしたのよ!?」

 外野が騒ぎ出した。

 煩いわね。水を差すようなことを言わないでよね。そんなの、貴女が手を出した子息の婚約者たちなんじゃないの。

 イラッとした私は、冷たい声でマリアに警告する。

「それは、後で国王陛下に尋ねられたらどうです? 今は黙っていてくれますか? 次、口を開くなら、強制的に閉ざしますよ」

 私が本気だと気付いたようで、マリアは大人しく口を閉じた。本人も、なにかがおかしいと薄々感づいているようね。だってそうでしょう。いち伯爵令嬢が、国王陛下と対等に話をしているのだから。

 私はマリアから視線を外し、国王陛下に向き合う。

 再開しましょうか。そろそろ、メイン料理を出せるまで温まったと思うし。
 
「……そうですか? 私としては、これでもかなり抑えて話しているつもりですが……国王陛下、否定なさらないということは、肯定だと受け取ってよろしいのですね。ならば、当然、【聖なる乙女】のことについても、耳にしておりますよね」

 私がそうはっきりと口にすると、第一王女殿下と第二王女殿下の手が自分の右手の甲を隠す動きをした。二人とも手袋をしているのにね。

 なるほどね。

 やっぱり、私の勘は当たってたみたい。

「耳にしておる。左腕に痣が表れたとな。そうそう、我が王女二人にも痣が表れたのだ。めでたいことではないか!! 【聖なる乙女】の候補が増えて、この国はよりいっそう安泰だな。そう思わないか? ミネリア様」

 開き直ったのか、国王陛下は下卑た嗤いを口元に浮かべながら言い放った。

 それが、最悪の始まりとは知らないでーー

「陛下!! ご自分がなにを言っているのか、わかっておいでですか!? 気でも触れましたか!? そうだ、陛下は具合が悪い。今すぐ陛下たちを奥に!!」

 完全に顔色を失った宰相が慌てて、この場から国王陛下たちを下がらせようとしたが、もう遅い。

「宰相様、国王陛下が一度口にしたことを家臣である貴方が取り消せるとお考えでしょうか?」

 逃しませんよ。

 宰相はこの時、自分が影から護ってきた国の行く末が目に浮かんだのね。その場に崩れこそしなかったけど、完全に茫然自失の状態になっている。横からリアス様が支えていた。

 それにしても、前々から、国王陛下や王妃殿下たちが私のことを気に食わなかったのは知っていたし、排除しようと動いていたのも知っている。

 学園を卒業したら、領土に籠もることを許可したのも、そのためだしね。卒業までに、なにか仕掛けてくるとは思ってたけど……まさか、ここまで愚かだとは思わなかったわ。偽タヌキというか、見せ掛けだけの腹黒というか……私から見れば、ただの道化だけどね。さすがに、あの馬鹿王子の親だわ。血の繋がりの濃さが半端ない。

 国王陛下がそう仰るのなら、私が言うべき台詞は一つ。

「それが本物ならば、ですわ。国王陛下」

 私は扇を閉じると、にっこりと微笑みながら答えた。目は笑ってはいない。

 周囲は水を打ったかのように静かになった。

「あまりにも無礼な!!」

 国王陛下が怒鳴る。

「言葉が過ぎますよ!! ミネリア様。なぜ、国の吉事を素直に喜べないのです!! 自分に魅力がないのは、自分のせいでしょう。そのような、心の狭さでは、聖獣様をお預けできませんわ!!」

 続けて、王妃殿下のヒステリーが炸裂。

「その通りだ!! その性根の悪さを先に直せ!!」

 あまりにもトンチンカンな国王陛下の怒鳴り声に、私は抑えていた笑いが止まらなくなった。静まりかえったパーティー会場に私の笑い声が響く。

 ひとしきり笑った後、私は令嬢の仮面を自ら外した。

 それが、地獄の始まりだと気付いているのは、宰相様とリアス様だけだった。

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...